第十の運命:萎れゆく植物学者
アルガ視点
すべてはあの火事から始まったんだ。僕たちの幸せを灰に変え、共に過ごした時間を壊し、そして消し止めるにはあまりに遅すぎたあの火事。お祝いの席で仲間を失うなんて、僕たち全員にとって深い心の傷になったし、当然トラウマにもなった。それだけじゃない。あの事故から一ヶ月が経つのに、誰一人として笑顔を取り戻せていないんだ。みんなずっと暗くて、惨めなまま。結局、僕たちは痛みを忘れるために、お互いを置いてバラバラの道へ行くことに決めたんだ。
庭を歩きながら考え込んでいた時、道端でボールに踏み潰された壊れた植木鉢を見つけた。中には綺麗な花があったけど、ボールの重みのせいで今にも枯れてしまいそうだった。僕は急いでその花を拾って、家に持ち帰ったんだ。すぐに小さな鉢に植え替えて、自分の部屋に置いたよ。
どうしてかな、その花が僕たちの関係みたいに見えたんだ。あんなに綺麗だったものが、重荷をたった一人で背負わされたら壊れてしまう。時には、その重荷を取り除いて、安全に生きていける場所へ移してあげることが最善の選択なんだ。きっと、みんながバラバラになったのも、ここにいたら押し潰されてしまうのが怖かったからじゃないかな。僕も、この花と同じように綺麗に成長できるように、この場所を去るべきなんだろうね。
数週間が経って、僕は今、ギリシャのクレタ島にあるセラカノの森にいる。僕は昔から地球上の色んな草花に魅了されてきた。だから、世界中のたくさんの植物を自分の目で見て、愛でて、研究するために、この冒険に出ることに決めたんだ。
セラカノの森を選んだのは、ここが地中海で最も重要な松林の生態系の一つだからなんだ。トルコ松やケルメスオーク、クレタカエデ(アケル・センペルヴィレンス)、それにイトスギ……たくさんの植物が自生している。でも、ここはワシのような猛禽類の狩場でもあるから、かなり注意して進まないといけない。
しばらく森を探索した後、何か食べるものを探すために街に戻った。あまりお腹が空いていなかったから、地元の果物とサラダをいくつか買ったよ。お腹が満たされたら、クレタ島の他の森を見るためにまた旅を続けた。今度は、クレタ島最大の養蜂場がある「クルスタスの松と蜂の森」に向かったんだ。正直、この森の蜂たちが安全か危険かはわからなかったけど、好奇心には勝てなくてね。
森の奥深くまで進んだ時、ツタに覆われた一尊の女性の像に出会った。像の台座には、モデルとなった女性の名前らしきものがギリシャ文字で刻まれていた。実は、僕はまだギリシャ文字を読むのがあまり得意じゃないんだけど、頑張ってその文字を解読してみることにしたんだ。
アルガ:「デメテル」
その名前を読み上げた瞬間、誓ってもいいけど、その像が突然僕に微笑んだように見えたんだ。それだけじゃない。森の空気がそれまでとは一変した。周りの木や草が動いて、場所を変えているような感覚にさえ陥ったんだ。
アルガ:「えっ? 一体何が起きているんだ?」
急いで辺りを見回すと、まだ日没まで時間があるはずなのに、森は夜のように真っ暗になってしまった。さらに後ろを振り返ると、さっきの像が消えていて、代わりに小さな道が現れていたんだ。どうしてかわからないけど、その道の先から誰かに呼ばれているような気がして、本能的にそこを歩かなきゃいけないと感じた。ここに来るまでの道が突然消えてしまった以上、他に選択肢はなくて、僕は目の前の細い道を進むことに決めたんだ。
その道をずっと歩いていくと、美しい古代の庭園のような場所に辿り着いた。庭の真ん中には古代ギリシャ風の服を着た女性がいて、周りの植物と遊んでいるように見えた。不思議なことに、近くでよく見てみると、彼女はさっきの像にそっくりだったんだ。僕は思い切って声をかけてみた。
アルガ:「デメテル……さん?」
女性は僕の方を向いて微笑んだ。
デメテル:「やあ、元気かい、アルガ?」
アルガ:「どうして、僕の名前を知っているの?」
デメテル:「私はお前の先祖だよ。お前のことなら何でも知っているとも」
アルガ:「えっ? どういうこと? あなたは、本当は誰なの?」
デメテル:「私の名はデメテル。人々には豊穣の女神として知られているね」
アルガ:「えっ? 女神? じゃあ、どうして僕の先祖だなんて言うの?」
デメテル:「今はあまり深く考えなくていいよ」
デメテルは僕の問いにただ微笑むだけだった。そして僕に近づくと、僕の額にキスをしたんだ。
デメテル:「お前をここへ呼んだのは、贈り物をしたいからだ」
額にキスをされた後、体の中にものすごいエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。
デメテル:「これを受け取りなさい、我が末裔よ。この力がお前の抱えるあらゆる問題の助けになると信じているよ」
彼女に優しく背中を押され、倒れ込むようにして気づいた時には、僕は突然街の真ん中に戻っていたんだ。
デメテルに出会ってから一ヶ月が経った。あの出会いがただの夢だと思いたいけど、残念ながらこの一ヶ月の間に不思議なことがたくさん起きて、あの出来事を現実として受け入れるしかなかった。あの日以来、自分の中に強大な力が流れているのを感じるようになって、気づけば木や植物を操れるようになっていたんだ。木を動かしたりずらしたりするだけじゃなく、望む植物の成長を早めることさえできる。お腹が空けばすぐに木に実をならせられるし、日差しが強ければ木を茂らせて日陰を作れる。それに、僕の両手から何種類もの植物を生やすことだってできるんだ。
自分の能力に気づいてから一週間後、僕は以前見つけたデメテルの像を捜しにまた森へ戻ったんだけど、残念ながらもう見つけることはできなかった。それで、街にある別のデメテル像を捜すことにしたんだ。きっと一つくらいはあるはずだと思って。デメテルの像を見つけた時、前と同じように、名前を呼んだらただの像だったはずの彼女が突然僕に微笑んだんだ。僕は周りの目も気にせず、その像に向かって「説明してくれ」って怒鳴ったよ。それが近くにいた人たちを怖がらせてしまったみたいで、僕は狂っていると思われた。正直、僕自身も自分の正気を疑い始めていたけどね。
その人たちは精神科医を呼んで、僕はすぐに精神病院へ送られた。最初はこんな場所に連れてこられて、すごく心外だったよ。でも、そこにアユとデシもいるのを見て、少しだけ嬉しい気持ちになったんだ。何が彼女たちをこんな場所に追い込んだのかはわからない。でも、別れる前よりももっと惨めになってしまった二人を見て、放っておくなんてできなかった。だから、僕は自分が狂っていないと確信しているけど、二人のそばにいるために、この病院に留まることにしたんだ。
僕たち三人は、病院で穏やかな日々を過ごした。デシとアユは自分の能力のことや、起きたことを話してくれた。みんなが彼女たちを怪物だと思っていると聞いて、僕はすごく驚いたし、怒りも感じたよ。でもそのおかげで、職員たちは僕たちのことをひどく怖がっていて、好きなようにさせてくれたんだ。けれど、そんな穏やかな日々は、ソウル・デバウラーが襲撃してきた時に突然打ち砕かれた。僕たち三人は、能力を使って戦うしかなかった。僕に他の道は残されていなかった。たとえ僕がただの、「萎れゆく植物学者」だったとしても、自分の力を使うしかなかったんだ。




