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***

   ***


 月の奇麗な夜だった。


 月の真っ赤な夜だった。


 まるで、血を全身に浴びたかのように。


 昔、誰かから聞いた覚えがある。


 あれは月と地の間を漂っている沢山の塵が、その光を赤く見せている一つの天文現象に過ぎないのだ、と。


 でも、彼女はそうは思わなかった。


 あれは間違いなく、人の血だ。


 私が殺してきた、数多の命の色なのだ。


 月を見ながら、彼女は思う。


 あぁ、なんて綺麗な、赤い月。


 人を殺せと、嗤う月。


 彼女の手には、一挺の鎌が握られていた。


 切っ先からは、ぽたりぽたりと血が落ちる。


 それは地に落ち、幾片もの花弁となって。


 たった今殺した、獲物の血。


 人の形をした、獣の血。


 どす黒くてドロドロした、けれど地に落ちると鮮やかな紅と化す、穢れの証。


 今宵も人を殺す喜びを噛み締める。


 泣き叫ぶ声に全身が震える。


 悶え苦しむ声に悦びを覚える。


 暖かい液体が太腿の内側を伝い落ちていく。


 くすくすと嗤いが漏れる。


 月を見ると、殺したくなる。


 月を見ると、鬼が囁く。


 殺せ殺せと嘲り嗤う。


 彼女は横たわる肉塊に鎌を突き立て、引き裂く。


 ぬるりとした臓物が、どろりと地面に流れ出る。


 彼女は嗤う。


 嗤い続ける。


 肉塊をズタズタに引き裂きながら。


 しかし、次の瞬間――





 ドスッ





 そんな鈍い音が、感触となって少女の手に伝わった。


 やがて崩れるように、凶行に及んでいた女の体が、引き裂かれた肉塊の上に覆いかぶさる。


 少女はその女の体を仰向けに転がし、膨らんだ腹に目をやった。


「……ふっ、ふふふふふ」


 少女は肉塊の傍に投げ出された血塗れの鎌を拾い、それを女の腹に突き刺し、斬り裂いた。


 女は頭をかち割られ、すでにこと切れていて叫び声一つなかった。


 少女はそれがひどくつまらないもののように思ったが、しかしそれでも別に構わなかった。


 どうせ、最初からこの猟奇妊婦を殺すつもりだったのだから。


 斬り裂いた女の腹に、少女は腕を突っ込みまさぐる。


 流れ出る液体の中からソレを探り当てた少女は、その頭を掴むと強引に胎の中から引きずり出した。


 ――胎児だった。


 臍の緒はまだ繋がっている。


「……かわいそうに」


 だが、その言葉に感情はこもっていなかった。


 じっと人になりきっていないその胎児を見つめ、少女は乱暴に臍の緒を引き千切ると、その胎児を月にかざした。


 真っ赤な月が、胎児の血で一層赤く染まったようだった。


 その時だった。


 物陰から人の気配を感じて、少女ははっと我に返りそちらに体を向けた。


「――カミガカリ、か」


「アヤメ、なぜ、またしても……」


 藪から出てきたのは、シンジと、そしてコノハだった。

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