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***

 その男は、ただ殺す為だけに殺す男だった。


 標的は、みな子供ばかり。


 その首を力いっぱい締め上げて、窒息した子供の首の骨をそのまへし折って止めを刺すのが彼のやり口だった。


 いつの頃から男がそんな所業を始めたのか、彼自身覚えてはいない。

 これまでにいったい幾人の子の命を奪ってきたのか知れないように。


 陽の燦々と輝く下で、彼は大胆にも犯行に及んだ。


 人通りの少ない、それこそ子供しか通らないような秘密の抜け道。


 男はその物陰に身を潜め、一人でやってくる子供を見つけては容赦なくその命を奪っていった。


 殺した子供の遺体はズタ袋に放り込み、自宅に持ち帰っては切り刻み飼い犬たちの餌として処分する。


 そうすることによって、己の罪を決して他人に悟られないようにしていた。


 子供たちが次々に神隠しにあっている事に対し、国は決して子を一人で遊びに行かせないようにと注意を呼び掛けていたが、しかし全ての親がそれに従う訳ではなかった。


 自分の子供は大丈夫。神隠しにあうのは注意力のない、運の悪い馬鹿な他人の子供だけ。そう思い込んでいる馬鹿な親たちは山ほどいるのだ。


 男はそんな親達を嘲笑し、そして一人で出歩く子供を次から次へと殺していった。


 殺しているところや死体さえ見られなければ、それは殺人として認識されないことをよく理解していたから。


 だから男は今日もいつものように、物陰に潜み独り歩く子供を捕らえ、その首を絞めて殺害した。


 悶え苦しむその表情を、存分に楽しんでから。


 そんな男の目の前に、突如その少女は姿を現した。


 少女は純白の着物に身を包み、こちらをじっと見据えていた。


 男は目を見張り、全身から血の気が引いていくのを感じる。


 ――見られた。

 この俺の愉しみを、神を恐れぬ鬼の所業を……


 しかし、少女は顔色一つ変えず、ただじっと男を見ているだけだった。

 叫ぶなり人を呼ぶなりしそうなものなのに、何故か少女はただ黙ったまま突っ立っている。


 その様子に、男は思う。


 さてはあまりのことに、頭がどうかしてしまっているのではないのか。

 いま目にしている光景を理解しきれず、身動きできないでいるのではないか。


 ならば、話は早い。

 叫ばれる前に、殺せばいいのだ。


 男は今し方絞め殺した子供の体を地面に放り投げ、にやりと嗤った。


 都合のいいことに、少女は一人だ。

 他に人影はなく、気配も感じられない。


 男はにやりと笑み、少女に向かってだっと駆け出す。


 あっと思った時にはすでに男の手は少女の首にまわされ、すぐにでもその骨をへし折ってくれるとばかりに力が込められた――はずだった。


「っな!」


 気づいた時にはもう、男の手首から大量の血液が噴き出していた。


 ぼとり、ぼとりと男の手が少女の首から地面に落ちる。


 じわりと広がる血溜まり。


 噴き出す男の血液が、少女の顔を真っ赤に染める。


「ひ、ひぃいいいいい!」

 男は息を吸うように叫び声を上げ、ふと脇に立つ人影に気がついた。


 そこには、若い青年の姿があった。


 青年の右手には一振りの刀。


 ぎろりと睨みつけてくるその眼には、およそ感情というものご感じられない。


「――い、痛い、痛いぃ!」

 斬り落とされた手首を庇うように蹲りながら、男は思った。


 ――カミガカリだ。


 こいつらは、間違いない、カミガカリだ。

 神は間違いなく、この俺の所業をご覧になっていたのだ。

 だからカミガカリを遣わして、この俺を殺しにきた!

 神を恐れぬ不信神者――鬼を始末する為に!


 終わった、と男は思った。

 俺はここで殺されるのだ。


 しかし、青年はなかなか止めを刺しては来なかった。


 刀を鞘に戻しながら、見下すように青年は言った。

「――それではもう、子供を締め殺すこともできまい」

 それから青年は少女に顔を向ける。


「……大丈夫か、コノハ」

「――はい」


 男の血に染まった少女の顔を、青年は手拭いで拭いてやる。


 その間も、男の斬られた手首からはどくどくと赤黒い血が激しい痛みと共に流れ出ていく。


 そんな男に、青年は言った。

「もう二度とこんなことはするな。そうでなければ、次はない」


 そして青年と少女は蹲る男を残し、その場をあとにするのだった。

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