無愛想にたくましく
アンマンマンさん主催「たぬき祭り」参加作品です。
「お疲れさま」
仕事帰りに同僚から声をかけられ、頭を下げてその場を辞する。
「……ったく、愛想がねえやつだな」
聞こえるように悪態つく同僚を無視して、スーパーに立ち寄り買い物を。
生活に余裕がないため、多少傷んでいても安く量が多いものを選んで買い物かごへ。
値引き品ばかり買う俺に愛想笑いする店員を無視して、エコバッグに商品を詰めて帰路につく。
廃屋の引き戸を苦労して開ければ、ガタつく音に兄弟たちが集まってくる。
兄弟たちが全員いるのを確認してから変身を解き、タヌキの姿に戻って、今日の食事を皆に分ける。
山の恵みが不作の年は、山の生きものたちすべてが飢えて危険な場所になってしまう。
そのため、変化の術を使えるタヌキは人間の町に居を移動して、山の乱暴者たちから距離をとる。
最低限の言葉を話せて、変化の術さえ解けなければ、バレることもない。
……体臭と体毛には、かなり気をつけないと、バレてしまうことがあるが。
タヌキたちは、今日もまた、過酷な山よりずっと安全な人間社会に溶け込んで、したたかにたくましく生きていく。




