お前ら全員追放だ!
「マロー様、ご連絡ありがとうございます。本日はパーティメンバーの追放ということですが…」
追放代行者の男の言葉に俺は頷く。今日は俺のパーティメンバーを追放する日だ。
「あぁ。パーティに害なす人間を追放する。だが、俺1人だと心細いので、追放代行の人間にも来て欲しいんだ。」
「成る程。かしこまりました。」
淡々と進む話で、遂に俺はパーティ内の問題児を追放する段取りを確認した。
さぁいよいよ追放する時だ。
「集まったな。今日はお前達に話しがある。」
「どうかしたの?もしかしてこの間食べたプリンの代わり買ってきてくれた?」
付与術師のマサトが俺に聞く。彼は細かいことをよく覚えているみみっちい男だ。
当然、俺はプリンなんて買っていない。というか買えない。
「そ、それは買っていない。今日は別件だ。」
「それじゃあもしかして、デートのお誘いかしら?」
次に声を発したのは回復術師のレイラだ。彼女はすぐに思わせぶりな発言をする、とにかく危険な女だ。
「デ、デートでもない!今日はだな、お前達を追放する日だ!」
急速に湿る手を握って、遂に言ってやった。追放の二文字。これは大きい。
追放代行者には、俺を応援するように後ろへ立ってもらっている。
基本的に、話は俺自身がつけるのだ。
「まずはマサト!お前を追放だ!」
「え〜何で僕!?というかプリン買いなおしてよ!」
「それは断る!お前を追放する理由は明白だ!マサト、いちいちお前はめんどくさいんだよ!」
「面倒くさい!?僕が!?何で!?」
心外、といった具合にマサトは驚く。だが、日常生活を思い起こせば当然と感じるはずだ。
「俺は忘れんぞ!この間、お前の口がちょっと臭いと言ったら、その日の戦闘は全くサポートしてくれなかったな!」
「え、え〜そうだったかなぁ。」
マサトは俺から視線を離して、空を見る。だが、俺はそれを逃さない。次いで話を続ける。
「そうだ!あまつさえ、戦っていたスライムを強化して応援していたよな!?」
「き、気のせいだよ。きっと。」
「気のせいな訳あるか!お前はシックスパックの野生のスライムが存在すると思っているのか!?」
そう言って思い出すのは、腹筋がわれに割れたスライムの姿。
そもそも、スライムが人間のような形をとっているのを見たことなんて無かった。
だというのに、その日遭遇したスライムはボディビルダーよろしく、鍛え抜かれた身体を持っていたのだ。
「というわけで、マサト、お前は追放だ!」
「あらあら。ご愁傷さま、マサト。私、慰めてあげるわよ?」
「余裕ぶっているが、お前も追放だぞレイラ!」
「え?」
にこやかにマサトの肩をさするレイラ。俺の一言でフリーズしてしまう。
「追放って…私が…?どうして?」
「自分の胸に聞いてみろ!」
「やだ…私の胸、大きいもの…。聞いたって何も返ってこないわよ…」
頬を赤らめて、レイラは此方を見る。
「そういう所だ!」
「え…?」
情に流されないことを決心した俺は、レイラの誘惑にも負けずに追放を言い渡す。
「レイラ、お前は俺達を弄んで楽しんでいるだろう!?」
「弄んでいるなんて、そんなことしてないわよ…」
「そうだよマロー。レイラがそんなことするわけない!」
悲しむ素振りをしたレイラの前に、追放を言い渡したマサトが立つ。
彼は本当にレイラが傷ついているのだと思っているのだ。
すっかり彼女の虜である哀れな男に、俺は同じ男として残酷な真実を告げる。
「マサト、言っておくがその女、俺とも寝たぞ。」
「え…?嘘だよねレイラ…?」
信じられないような顔をしたマサト。可哀想にも感じるが、俺は続ける。
「俺達だけじゃない。ソイツは行く先々で男を引っ掛けて、金品を巻き上げている。」
「そ、そんな。だって君は男性と付き合ったことないし、トイレにも行かないし、歳も取らないって言ってたじゃないか…!」
「なんだその設定は…流石に俺でも騙されんぞ。」
アイドルもびっくりの数々の設定。一体どうして、マサトは違和感を覚えなかったのだろうか。
そう思って俺は突っ込んだ。
「でもマローも、私と寝たじゃない?」
「や、喧しいぞ!とにかく追放だ!このパーティクラッシャーめ!」
痛いところを突かれたが、そんなことは関係ない。
もうマサトもレイラも追放なのだから。
これでパーティは清涼感ある、健全なものとなるはずだ。
満足気な俺に、ずっと後ろに立っていた追放代行者が口を開く。
「お疲れ様です。マロー様。それでは、貴方もこのパーティから追放して頂きますね。」
「は…?」
男は掛けている眼鏡を指で押し上げて、持っていた紙束を眺める。
「おい、待て!何故俺が追放なんだ!?」
「何故って…。貴方はこのパーティから害をなす人間を追放したいのでしょう?ならば、貴方もこのパーティから追放しなければいけません。」
俺は全くもって納得がいかなかった。がしかし、マサトとレイラはここぞとばかりに好き勝手言い始める。
「そうだよ!マロー!君だってダメダメだよ!」
「なっ!何処がダメなんだ!?」
「何処って…だって君、依頼の報酬ですぐにギャンブル行くでしょ!?」
マサトから告げられた言葉に、俺は驚き固まる。
すると、マサトの横にいたレイラもそうだそうだと、参戦してきた。
「そうよ!私知ってるわよ!この間大負けしたってこと!」
「何故そんなことを!?」
「見たのよ!店内の床を這いつくばって、パチンコ玉を探しているのを!」
その時のことを、俺は鮮明に覚えている。別に俺はいつも床を舐めるようにしているのではない。
だが、その日は後少しで勝つような気がしたのだ。だからこそ、転がるパチンコ玉に希望を見出し、探していた。
「というか今君、僕のプリン買うお金すら持ってないでしょ!?」
「そ、それは…いや、半分の量なら買えるかもしれないが…。」
「プリンはお肉みたいにグラムで買えないからね!」
いつものように、これまた細かいことをマサトは言った。
そこから、人間の醜さを体現したような泥試合が始まる。
「マサト、お前だって、なんか気に入らないって言って依頼主の頭に付与魔術を施してただろ!?あの人の頭、とんでもないぐらいデカくなってたからな!」
幸い、その依頼主は穏やかな人間で、特に気にはしていなかった。
その人はただ一言、頭がすこぶる冴えるとだけ言ってうきうきで帰っていったのだ。
「だ、だってあの人、くちゃくちゃご飯を食べるんだよ!?というか、レイラだって私の体重はあの雲より軽いとかほざいてたよね!?」
唐突に被弾したレイラ。今の今まで見せていた顔は何処へやら、怒った様子で言い返した。
「そうよ!女の子はね、いつだって良く見られたいのよ!」
「女の子って歳でもないだろう!?」
「何ですって!」
そんな具合でぎゃーぎゃー喚く3人。
この場所で唯一冷静であった追放代行の男が、ピシャリと言い放つ。
「喧嘩は結構ですが、新しい職でも見つけたほうがよろしいのでは?貴方がたとパーティを組む物好きなんて、いるとは思いませんし。」
それだけを言った男はそれでは、と言って去っていった。
残された俺達は互いの顔を見合わせて、誓う。
追放先では、マトモな人間と付き合おうと。