第77話 煽り耐性ゼロ
社長は、「訴える」と脅した相手がどれほど焦っている顔になっているのか気になり、部下がライブ配信をしていると言うので、教えてもらった配信先を検索し、ライブ配信中の動画をタップした。
「……ざぁーこ♡」
「はあ!? 雑魚だと!?」
動画を開いた途端、いきなり「ざぁーこ♡」と言われ、社長は一瞬何のことか分からず固まった。しかし、すぐに意味を理解し、カッと血が上る。
「誰が雑魚だ!! 貴様、自分の立場が分かっとるのか!? ワシはひと声かければ訴えることだってできるんじゃぞ! 立場をわきまえんか! もう一度言ってみろ!」
スマホをぐっと握りしめ、画面に向かって怒鳴る社長。しかし、配信者はまるで気にした様子もなく、むしろ甘えたような声で畳みかける。
「ほら、もう一回言ってあげる♡ ざぁーこ♡ ざぁーこ♡ こんなことでドキドキしちゃってるの〜? ねぇ、正直に言っちゃいなよぉ♡」
「いい度胸じゃないか……怒りで心拍数が上がったわ!」
なぜか妙に噛み合い、気づけば社長のほうが煽られる形になっていた。
「まあまあ、負け惜しみはいいからさぁ? ほら、早く負けを認めなよぉ♡」
「はぁあ!? 舐めとんのか!」
そう叫ぶや否や、社長は怒りをぶつけるようにスマホを投げつけた。
『ゴスッ!!』
鈍い音とともにスマホは壁に激突し、床に落ちるとバキバキに割れた。
大きな音を聞きつけ、慌てて部下が社長室に駆け込んできた。
「ど、どうされましたか!?」
「おい、犬塚を訴えるぞ」
「えっ? ですが……訴えたところで……」
部下は困惑しながらも、どうにか社長をなだめようとする。しかし、社長は耳を貸さない。
「こっちは舐められてるんだぞ。訴えうと脅してから、一度も返信が無い!それに、ワシが見ていることを知ってか知らずか、ワシに雑魚とまで言い煽ってきたんだ。これはもう、弁護士呼んで訴えるぞ!」
社長は怒りのままに部下制止を聞かずに、部下のスマホを取り上げ、知り合い弁護士に電話をかけ、状況を話すと、『無理だ!』とすぐに言い切られてしまった。
「はぁあ!?役たたずが!」
部下のスマホを投げ渡し、ドスッと椅子に座り少し考えた。社長はパソコンを開き、フリーランスの記者にDMを送った。
「そうだ。また、アイツに頼むか」と呟きながら、キーボードを叩いた。
彼が酒場で知り合った記者は、社長から聞いたことをいち早く記事にして「ナフーニュース」に投稿する敏腕の人物だ。
社長は指を速く動かし、記者にメッセージを送った。
『おい、あの犬について情報が色々とあるぞ』
しばらくして、記者から返信が届いた。
『いいじゃないですか〜、なんですか? 柴犬さんの人間姿ですか、それとも炎上する感じの物ですか〜』
社長は、ニヤリと笑いながら、次のメッセージを打った。
『どちらもだ。だが、まずは炎上させる方向で動いてくれ。お前の得意分野だろ?』
記者は笑いを含んだ絵文字を送ってきた。
『了解です! どんな感じでいきましょうか?』
社長はしばらく考え、狡猾な笑みを浮かべながらキーボードを叩いた。
『会社であったリアルな部分を晒してもらう。少しずつ、焦らしながら炎上させろ。』
記者からはすぐに返事が来た。
『わかりました! さっそく動きます!』
社長はパソコンの画面をじっと見つめ、満足げに頷いた。
「これでしばらくは面白くなりそうだな!」
社長は、高笑いをしながらパソコンを閉じた。




