第75話 ウサウサ・メスガキ
前の会社から訴えるとか言われたけど、マネージャーのおかげでなんとかなりそうだ。
この時ほど、事務所に入っててよかったって思ったことはない。
気分転換にダンジョンへ潜ることにしたら、この前会ったウサ耳のガキが、オークと戦っていた。
「あっ! 柴犬くんじゃ〜ん! 何してんの? サボり〜?」
僕の姿を見つけるなり、ニヤニヤしながら駆け寄ってきた。
「ふっふ〜ん! ちょっとついてきなさいよ! いいもん見せてあげる!」
そう言って、腕をグイグイ引っ張られ、気づけばダンジョン5階層。レッサーワイバーンがうろつくエリアに連れてこられた。
「ほ〜ら、よく見ときなさい! これがワタシの実力ってやつ!」
自信満々に槍を構える。槍の刃の部分には魔石が埋め込まれていて、強度も鋭さも増している。
瞬時に間合いを詰め――
ドスッ!!
レッサーワイバーンの喉元を、一撃で貫いた。
「すごいっしょ! ねぇねぇ、ちゃんと見てたぁ?」
「すごい!」
前に見たときは苦戦してたのに、今では一撃で仕留められるまで強くなっている。
「ふっふ〜ん〜まぁ、ワタシくらいの天才になれば、これくらい当然なんですけどね〜!」
得意げに腕を組んで、ニヤニヤしている。
「すごいね〜頑張ってね〜」
「ふ、ふんっ! ま、まぁね! これでも『ウサウサ』って名前で活動して登録者数10万人超えの人気配信者だし〜!」
「へえ〜、僕と一緒だね〜僕も配信してるよ〜」
「へぇ? どうせ底辺でくすぶってんでしょ? まさか伸び悩んで泣いてたりしないよね〜? しょ〜がないな〜! ワタシを強くした恩義に免じて、ちょ〜っとだけアドバイスしてやる! ついてきなさい!」
そう言われて、ダンジョンを出ることに。
「ん? あれ?」
「あぁ〜、この魔石のせいで元の姿に戻らないだけだよ」
「へぇ〜、そうなんだ」
不思議そうな顔をしていたので、簡単に説明しておいた。
で、連れてこられたのは彼女の家。中に入ると、いかにも女の子の部屋って感じの空間だった。
「じゃあ、ワタシはライブ配信が6割、動画投稿が4割くらいの割合でやってるの。ライブ配信は編集なしで楽だけど、動画投稿みたいに後からいじれないから、言動には気をつけないといけないんだよね〜」
「へぇ〜、そうなんだ」
「ま、そんなワタシが特別に! 視聴者を喜ばせる言葉を教えてあげる♡」
「視聴者さんが喜ぶのは、いいことだしね」
登録者が増えるのは嬉しいし、視聴者さんに喜んでもらえるのは嬉しいので、教えてもらう事にした。
「じゃあまず、こうやって手で輪っかを作って、口に当てるの! で、小声で……
『ほ〜ら、今のちゃんと見てたぁ? こんな動き、ざぁーこの君たちには無理無理〜♡』
『うわぁ、コメントで「俺でもできそう」とか言ってるやついて草♡ 君がやったら即死だからぁ♡ ざぁこは黙って見てなさい』
……って感じで煽るの! こういうのが最近の視聴者にはウケるんだから!」
「へえ〜、最近の子はこういうのが好きなんだ?」
「そーゆーこと」
「へえ〜」
今度、翔太くんにもやってあげようと、いろいろ教えてもらった。
「そういえば、なんて名前で活動しているの?」
「犬って名前でやってるよ」
「ふ〜ん? ま、せっかくだしチャンネル登録してあげるはよ」
検索して、僕のアカウントを見つけた彼女は、スマホを見たまま固まった。
「えっ……ちょ、待っ、登録者……私より多いじゃない!!?」
「ま、まあね」
「む、むぅううう〜〜っ!!」
悔しそうに歯ぎしりしながら、こちらを睨んでくる。
「ワタシより多いとか、ぜっっったい許さないんだからぁ!! 」




