第74話 訴訟問題
加工した魔石100個を抽選販売したところ、初日だけで1万人以上の応募が殺到した。
応募期間は2週間だったが、その間にもどんどん増え、最終的に3万人近くが申し込んでくれたらしい。
マネージャーによると、これは過去最高の応募数だったようで、彼女も驚きを隠せない様子だった。
抽選システムを使い、3万人の中から100人の当選者を選び、魔石を発送。
正直、ここまで多くの人が応募してくれるとは思っていなかった。
「まさか、僕が加工した魔石がこんなに人気だったとはな〜」
発送からしばらくすると、購入者たちから続々と感想が届いた。
「防御力が最高!!」
「安心感がすごい!」
「柴犬さんの皮脂が付いてる……嬉しい」
……最後のコメントには若干の戸惑いを覚えつつも、再販を希望する声がかなり多く、予想以上の反響に驚いた。
ーー再販は……もう少し先でいいかな。
そう思いながらも、また作りたいという気持ちが湧いてきた。
そんなことを考えつつ、ダンジョン探索を終えて戻ると、スマホに複数回の着信履歴が残っていた。
発信者はマネージャー。
何かあったのかと思い、すぐに折り返すと——
「柴犬さん!! 事務所まで至急来てください!!」
焦った様子の声に、僕は事情も分からないまま、急いで事務所へ向かった。
「柴犬さん。最近販売した加工魔石が、ある会社のものと“似ている”ということで、賠償金を支払わなければ訴えると言っています」
「え?」
まさか、と思いながら会社名を確認するとーーそこは、僕が以前働いていた職場だった。
「ですが、問題ないです」
マネージャーは落ち着いた声で続ける。
「魔石の形状についてですが、柴犬さんの加工は完全に独自のものであり、意匠権にも抵触しません。加えて、相手側も正式な権利登録をしていないため、法的には訴える根拠がないんです」
「……なるほど」
つまり、ただの言いがかりか。
「とはいえ、訴訟沙汰は面倒ですからね。今後の対応について話し合うために、急いで柴犬さんを呼び出しました」
マネージャーは苦笑しながら、書類を机に置いた。
「さて、どう対応しましょうか?」
僕は考え込む。向こうの狙いは賠償金、つまり金目当ての可能性が高い。なら、まともに相手をする必要はないだろう。
「ひとまず、弁護士と相談して、正式に『法的な問題はない』と通知してもらおう。それで引き下がれば良し、しつこいようなら徹底抗戦です」
「了解しました」
ーーとはいえ、まさか前の職場がこんな形で絡んでくるとは……
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「はぁあ!! どうして機械化したにも関わらず、売り上げが落ち続けるんだ!!」
町工場の社長が営業担当を怒鳴りつけていた。
「は、はい……機械化を導入したことで、生産性は確かに上がりました。ですが、加工した魔石の性能が以前よりも低下しているとの声が多く……」
「は? どういうことだ? 形はほぼ100%、完璧に再現できているんだぞ? それで性能が落ちるわけがない!」
「ですが、ネットの口コミを見る限り——」
「『前のが良かった』」
「『急に性能が落ちた?』」
「『手に入りやすくはなったけど……攻撃のダメージ半減くらいだよな。前ならオークの攻撃も防げたのに』」
「……といった意見が多く見られます」
「クソが!!」
社長は机を拳で叩き、険しい表情で営業担当を睨みつける。
工場の経営が傾き始めているのは明らかだった。機械化によって大量生産できるようになったものの、品質が伴っていなかったのだ。
焦る社長の目に、ネットニュースの記事が飛び込んできた。
『人気急上昇! 柴犬さんが作った加工した魔石、3万人の抽選が殺到!』
「……あれ? これ、うちのと似てないか?」
社長が画面を指さすと、営業担当も首をかしげた。
「言われてみれば……確かに加工方法は似ていますが、個人が手作業で作っているものですし、それに、権利登録も……」
「うるさい!! さっさと訴えると言ってこい!!」
社長はニヤリと笑った。
「相手は人気商売だ。訴訟問題になればイメージダウンを恐れて、金を払うはずだ。上手くいけば、一気に大金が転がり込んでくるぞ〜」
「し、しかし……」
「いいからやれ!! さっさと連絡するんだ!!」
こうして、柴犬さんがいる事務所に電話をして脅した。




