第71話 ショッピング
電車でショッピングモールへ向かう途中、なんとなく周囲の視線を感じて落ち着かない。ちらちらと見られているような気がして、思わず俯いた。
「うう……」
普段着ない服を着ているせいで、どうにも気恥ずかしい。この瞬間だけ、車の免許が欲しいと強く思った。田舎には服屋がなく、買いに行くには都会まで足を運ばなければならない。
今日は適当にジーパンとトップスを選んで、さっさと帰るつもりだった。だが、思いがけず翔太くんとばったり出くわしてしまった。
「あ、ワンワンねーね!」
「しょ、翔太くん……こんにちは」
「ワンワンねーね、何してるの?」
「服を買いに……翔太くんは?」
「お姉ちゃんが消しゴムは嫌だって言って、僕にお金を渡して別のプレゼントを買ってこいって言われたんだ。それで買いに来たの。ワンワンねーね、一緒に買い物する?」
断る理由はないけれど、この服装のまま一緒に歩くのはちょっと恥ずかしい。なので、断ろうとした。
「ごめんね。今は忙しいから……」
「え、ワンワンねーね、一緒に買い物してくれないの……?」
翔太くんは今にも泣き出しそうな顔で、僕の方を見つめてきた。
そんな顔をされたら……
「う……わかった。じゃあ、一緒に買い物行こっか」
「やった〜! じゃあ、ワンワンねーね、服見に行こ〜!」
そう言って、僕たちは服屋さんに入った。僕は適当に服を選び、試着室で着替えてそのまま帰ろうとした。
「あれ、ワンワンねーね、着替えたの?」
「うん。似合わないでしょ、スカートとか」
「そんなことないよ! すっごく可愛いんだから!」
翔太くんは目を輝かせながら、熱烈に可愛いと言ってくれた。だが、その目はどこか異様に熱っぽい。
「え、いや……そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも…恥ずかしいし……」
「絶対損してるよ! ワンワンねーねは可愛いんだから、もっとスカートとか着るべきだよ!」
翔太くんの声には、どこか妙な執着が滲んでいた。
僕は押し切られるような感じで、着てきた服に着替えてお会計を済ませた。
「ワンワンねーね。お姉ちゃんに何あげたら良いと思う?お姉ちゃんにプレゼント代って言われて、一万円くれたけど?」
一万円も…サラマンダーさんは何を求めているのか僕に聞かれても分からない。
僕なら、お肉なんだけどな〜
「お姉ちゃんのプレゼントなら、やっぱり自分で考えるべきだよ」
「そっか…」
真剣に悩んでいる。僕もここから、出て行きたいと思っている。だけど、翔太くんをおいて帰ったら……寂しそうな顔してしまうので、僕は何を買うのか見守っている事にした。
「じゃあ、これにする」
「良いじゃん〜」
翔太くんが手にして購入したのは、お財布だった。お財布なら実用的だし、貰っても困らない代物。
翔太くん中々、良い買い物をしたなっと感心していた。
「ワンワンねーね。なんで、僕があげた首輪してないの?」
「……あれね、ちょっともったいなくて飾ってるんだよ」
「そっか…僕がプレゼントした首輪気に入らないのかと思った。でも、ワンワンねーねにはやっぱりつけてほしいなぁ」
ちょっと、不満そうな感じの声で言っていた。
「ねぇ、ワンワンねーね……今ここでつけてみてくれない?」
ぐっと袖を引かれ、翔太くんの顔が近づく。無邪気な子供の笑顔なのに、どこか圧がある。
「今は持ってないから無理だよ」
「そっか。でも……飾るんじゃなくて、首輪はちゃんと首につけてほしいなぁ」
ふっと、瞳が細められる。
「う、うん〜」
翔太くんは満足したように微笑むと、また楽しげに歩き出した。僕は曖昧な返答をして、翔太くんとはショッピングモールの外で分かれ僕は家に帰った。




