第69話 ざぁこ
地下室は高くて諦めていたが、最近、僕の庭にダンジョンができている。
まあ、ボスがいないから、2週間もすれば崩壊して消えてしまうけど〜
そんなボス不在のダンジョンで、僕は柴犬の姿のまま大量の魔石を掘り出していた。
どうやら、ここは変異種のボスがいた影響か、地面から魔石が豊富に採れるらしい。
今の時点で、おおよそ100個ほど集まった。
ギルドに持ち込めば、魔石の市場価格を崩壊させるほどの量じゃないだろうか。
そこで、僕は魔石100個を加工し、事務所経由で売ることにした。
この計画についてマネージャーさんに相談したところ、すぐに了承を得られたので、早速作業開始!
....,と、意気込んだものの、思うように進まない。
勢いに任せて7日で80個作ったが、それ以降はなかなか捗らず、3日経った今もまだ85個目。
「趣味だからって、そんなに量産できるものじゃないんだな.....」
最初の調子ならもっと早く仕上がると思い、納期を短めに設定してもらったが、残り期限はあと3日。
焦りが募る中、またひとつ仕上げたが、目標までの道のりはまだ遠い。
「ぬぅぅ〜」
小さく悲鳴をあげつつ、ようやく86個目を完成させた。
あと少しのはずなのに、気が遠くなる。
「よお〜し」
気分転換が必要だ。完成したハンマーで、スッキリしようとダンジョンへ向かうことにした。僕の家から徒歩で20分程度。
昨日ぐらいにできたダンジョンなので、田舎では知る人も少ないと思っていた。僕は偶然、探索者ギルドが運営するサイトでそれを見つけた
僕は、オークと戦っている人の邪魔にならないように4階層へ向かおうとした——その時、背後からじろじろとした視線を感じる。
「へぇ〜、完全に獣になっちゃう人とかいるんだ〜?」
振り向くと、ウサ耳の少女がニヤニヤしながら僕の前に立ち、上目遣いで見上げてきた。中学生くらいの背丈で、見た目はほぼ人間。でも、長い耳がぴこぴこと落ち着きなく動いている。
「ふ〜ん、なるほどねぇ〜こういうのってレアなの?」
じろじろと観察するような視線が鬱陶しい。まあ、確かに僕みたいなタイプは滅多にいないから、物珍しいのはわかるけど——
「ねぇねぇ、お手とかできるの?」
言いながらニヤリと笑い、僕前に手を出してきた。
「うん」
僕は彼女の差し出した手の上に、素直に右手を乗せた。
「へぇ〜、偉いじゃん〜!」
彼女はニヤつきながら、僕の喉元を撫でてくる。
「獣人ってもっと頭わっる〜いのかと思ってたけど、そうでもないんだ?」
その態度がなんとも小生意気で、ちょっとだけイラッとする。そんなやり取りをしていると——
「グィオオ!!」
突如、オークがこちらの声を聞きつけて飛び出してきた。
「あ、いいタイミング〜♪」
ウサ耳の少女は楽しそうに槍を構え、ぴょんっと軽やかに跳躍すると、そのまま一直線にオークの心臓を貫いた。オークは短い悲鳴をあげ、そのまま崩れ落ちる。
「すごいね」
「はぁ〜? こんなざぁこ相手にすご〜いとか言われるの、すっご〜く心外なんですけど〜?」
彼女は呆れたように肩をすくめ、ニヤニヤとしたまま僕を見上げる。
「てかさ〜、こんなざぁこオークに一撃で勝てないとか、もしかして柴犬さんって、ざぁこなの〜? ねぇねぇ、ざぁこ〜???」
僕の顔を覗き込みながら、わざとらしく繰り返してくる。
言われっぱなしも癪なので、僕は5階層へ進んだ。
5階層にはレッサーワイバーンが出現する。飛べないけど、鱗が硬い魔物だ。
「無理しちゃだめだよ〜? 柴犬さんはざぁこなんだから〜」
ウサ耳の彼女はまたしてもニヤニヤしながら、さっきと同じように槍で突く。
「はぁあ!? 鱗硬すぎ!!」
攻撃が通らず、苦戦している。まぁ、相性が悪いんだろうな〜と思いながら見ていると、何度か攻撃を繰り返した末に、ようやく鱗を破壊し、槍を貫通させて仕留めた。
「ど〜よ〜?」
彼女は得意げに胸を張るが、その横で僕はもう一体のレッサーワイバーンを相手にする。
「ちょ、柴犬さんはざぁこなんだから、下がってて〜?」
「大丈夫だよ」
僕はハンマーを構え、「ドスン」と勢いよく振り下ろし、レッサーワイバーンの頭を潰して即座に倒した。
「え?」
ウサ耳の彼女は動きが止まる。
「ねぇねぇ、苦戦してた魔物をあっさり倒しちゃったけど、どんな気持ち〜? ざぁこ♡」
ニヤリと笑い、彼女の兎耳の耳元で言うことが出来、少しスッキリする。
「は、はぁああ!? ち、違うし! 相性の問題だし〜!! ていうか柴犬さんはざぁこだし〜!!!」
顔を真っ赤にして叫びながら、彼女はダンジョンの外へと駆け出していった。
....ちょっとムキになりすぎたかな? さすがに大人げなかったかも、と少しだけ反省する。
まぁ、いい気分転換になったし、家に戻って魔石の加工をすることにした。




