第67話 一日署長
僕は警察署にいる。
別に、犯罪をして連れてこられたわけじゃない。
以前、たまたまコンビニ強盗を取り押さえて感謝状をもらったんだけど、それが思いのほか評判になったらしく、影響力があったとか無かったとかで.....今日は1日署長を務めることになった。
制服は男性警察官のものを借りた。僕のしっぽが邪魔にならないように、ズボンの後ろには特別に穴を開けてもらっている。だけど、胸毛を無理やり押し込んでいるせいで、胸元がきつくて少し苦しい。
「着替え終わりましたか?」
ノックとともに、女性警察官が声をかけてきた。
「あ、はい!」
僕が返事をすると、彼女は優しく微笑みながら署長室へ案内してくれた。
署長室の中に入ると、そこには数人の警察官とカメラマンが待機していた。
「署長!! おはようございます!!」
「お、おはようございます.....」
一斉に敬礼されると、思わず背筋がピンと伸びる。こんな大勢の前で注目されると、なんだか落ち着かないな....
「今日はよろしくお願いします!!」
そう言われながら、『1日署長』と書かれたタスキを渡された。僕がやるのは、基本的に街を歩きながら市民に手を振ったり、防犯意識を呼びかけたりすることらしい。
「よ、よし……頑張るぞ!!」
そう気合を入れて、複数人の警察官を連れて街へ繰り出した。
「署長さーん!」
「わぁ、犬のお巡りさんだ!!」
歩いていると、通行人や子どもたちが手を振ってくれる。僕も笑顔で手を振り返す。のんびりとした平和な時間が流れ、特に問題もなく巡回が進んでいく。
そう思っていた、その時だった。
「危ない!!」
叫び声がする方に目を向けると、車線をはみ出しながら突っ込んでくる普通車があった。
その先には、小学生くらいの男の子が歩道の真ん中で立ち尽くしている。
考えるよりも早く、僕の体が動いた。
一瞬で男の子の前に飛び出し、突っ込んできた普通車のボンネットを両手で受け止める。タイヤが悲鳴を上げ、地面を滑る音が響く。さすがに車の勢いは強く、踏ん張っても体ごと押される……!
「ぐっ……!!」
なんとか車を止めることができた。「ふう〜」と冷や汗を拭い、安心してよろけてしまった。
――ぼすっ
「....ん?」
お尻あたりに何かが当たった感触がする。後ろを振り向くと、男の子の顔が僕のお尻が当たっていた。
「ご、ごめん!! 大丈夫!? ケガしてない?」
慌てて身を引くと、男の子は顔を赤くして僕を見上げ、驚いた表情を浮かべていた。
「う、うん。大丈夫。それと、お、お姉ちゃん、すごい力持ちだね……」
「へへ〜、力持ちでしょ〜! だけど、僕はお兄さんなんだよ?」
そう訂正すると、男の子はきょとんとした顔をした。
「ご、ごめんなさい.....だって、その....ふわふわで柔らかくて....可愛いし....なんかいい匂いしたからお姉ちゃんだと思った....」
その後、駆けつけた警察官たちが状況を確認し、居眠り運転のドライバーはしっかり確保された。
男の子も無事だったし、事件は解決した。




