第43話 解放
配信を終えてしばらくすると、撮影場所に社長さんが入ってきた。
「柴犬くん、首にかけた勾玉が取れないのね?」
「はい」
そう答えると、社長さんは僕の首元に手を伸ばした。
「あらら、本当に絡まってる。ちょっと時間がかかるわね」
社長さんがそう言いながら、慎重に勾玉の紐をほどこうとしている。僕は椅子に座り、勾玉を取ってもらうのを待つことにした。その時、マネージャーさんが紙コップを手に持ってやってきた。
「柴犬さん、味の濃い物ばかり食べて喉乾いたでしょ? お茶どうぞ〜」
「ありがとうございます」
ちょうど配信中に味の濃いものを食べていたので、喉が乾いていた。撮影場所に置いてあったお茶を紙コップに移し、持ってきてくれた。僕はありがたくお茶を受け取り、飲み干した。
「私ももらえるかしら?」
「はい、社長もどうぞ」
マネージャーさんが紙コップにお茶を入れ、社長さんに差し出した。
その瞬間――
「「あっ!!」」
社長さんの手が滑った。冷たいお茶が勢いよくこぼれ、僕の服とズボンを濡らしていった。
「ご、ごめんなさい!?」
「タオル持ってきます!」
マネージャーさんが慌てて撮影場所を飛び出した。僕は濡れた服をつまみ、ポタポタと落ちるお茶を呆然と見つめる。服もズボンもびしょ濡れになり、ひんやりとした感触が全身に広がった。
すぐにタオルを持って戻ってきたマネージャーさんが、濡れた服を急いで拭いてくれた。
ーーーだけど、全然拭き取れない。
それもそのはず、紙コップいっぱいのお茶がかかってしまったから、タオルだけではどうにもならない。服もズボンも中までぐっしょりだ。
「ううう....」
服が濡れて気持ち悪く、思わず声が漏れてしまった。
「まさか柴犬さんの服を濡らしてしまうなんて…本当にごめんなさい」
「これは、着替えが必要ね」
社長さんがそう言うと、僕は撮影場所から連れて行かれることになった。どこに行くのだろうと思いながらついていくと、「更衣室」と書かれた場所に連れてこられた。
「あの…」
「この中に入って服を脱いで。風邪を引いたら大変よ」
そう言われて、僕は更衣室に入った。中に入ると、すぐに服を脱いだ。毛も濡れていたので、タオルで拭いた。
「これ、着替えに使って」
社長さんが、更衣室から見えないように手だけを出して、服が入った紙袋を更衣室の中に置いた。袋の中身には、ジーパンとカッターシャツが入っていた。
僕は早速カッターシャツに着替えた。でも、ジーパンは足の毛が多いため、履くことができなかった。
ーーーだけど、毛で隠れているしな…。
そう思い、更衣室から出ると、社長さんとマネージャーさんが待っていた。
「し、柴犬さん、ちょっと....エッチですよ!!」
「そうね。エッチだと思うわ」
「ズボン履いてください!!」
マネージャーさんに強引に更衣室に押し戻された。そして、新しい履き物を持ってきてくれた。大きめのズボンとベルトを持ってきてくれた。
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「はい。解けたよ」
「ありがとうございます!!」
色々とあったが、ようやく首にかけた勾玉を社長さんに外してもらえた。
「やっと、戻れる〜」
そう思い、体から勾玉を離そうとした瞬間、社長さんに止められてしまった。
「ちょっと、待って」
「はい?」
「ちょっと、モフらせて」
社長さんが突然、僕をぎゅっと抱きしめてきた。驚いて目を見開いたが、社長さんは嬉しそうに微笑んでいる。
「私も良いですか?」
マネージャーさんも加わって、僕の体をぎゅっと抱きしめてきた。
「あ、あの….」
っと、僕は困惑してしまった。しばらくして、ようやく離れてくれた。首にかけた勾玉も外れたので、元の姿に戻り家に帰ろうと思ったが、靴を履いていなかった。
裸足で帰ろうとすると、足の裏は血だらけになってしまう。獣人の姿だ、肉球がクッションの役割をしてくれるので、そんな事にはならない。でも、家に帰るまでは、このままの姿でいることにした。
帰るついでに、スーパーに寄った。最近お肉の食べ過ぎだと自覚しているので、今回は魚料理を作ることにした。
シャケと卵とマヨネーズ。あとは、トマト缶とコンソメを購入して家に帰ってきた。
早速、元の姿に戻り、獣人になってしまう魔石は、とりあえず保管することにした。一応、予備として作っていた勾玉を明日から使うことにした。
台所に向かって、シャケをグリルで焼き始めた。シャケをグリルで焼いている間に、卵を茹で始めた。
10分ぐらいして、卵をゆで卵にした。ゆで卵の黄身を潰して、マヨネーズを大量にかけ、再び混ぜた。そして、冷蔵庫の奥に眠っていた、多分大丈夫な玉ねぎをみじん切りにして、お酢に入れて混ぜてタルタルソースを完成させた。
あとは、トマト缶を鍋の中に移して、コンソメと水を入れて、トマトスープを完成させた。
ちょっと食べ過ぎな気もするが、食べきれなかったら明日の朝ごはんにすることにした。




