第42話 ご飯の案件配信
翔太くんも帰った後で、何度か勾玉を外そうとしていたんだけど....無理だった。
このままの姿だと、生活にまで支障が出てしまう。なので、僕は誰かに頼ることにした。アリスさんや美緒さんは、ちょうどコラボ配信をしていて、連絡が取れない。
仕事が忙しかもしれないが、マネージャーさんに頼ることにした。
メッセージを送ろうとも考えたけど、肉球が大きくスマホの文字入力では、別の所を押してしまったりと、思い通りにメッセージを書けなかった。なので、僕は電話して、マネージャーさんにこの勾玉を取って貰う事にした。
「あ、マネージャーさん」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「実は....」
と、僕、マネージャーさんに自分が置かれている状況を話した。
「そうですか〜だけど、今は手が離せないので、電車でこちらに来て貰えますか?」
「分かりました」
そう言って電車に乗り、事務所へ向かったのだが、電車内は妙にざわついている。
以前、犬の姿で乗ったときは、それほど騒がれることはなかった。だが、今の姿では違う。乗客たちはチラチラとこちらを見て、ヒソヒソと話している。それだけならまだしも、スマホを向けてこっそり写真を撮られているのが感じられる。
ーーーめちゃくちゃ視線を感じる....
じっとしているだけなのに、まるで見世物になったような気分だ。
事務所に着くまでの時間が、いつもよりずっと長く感じる。
ようやく事務所に到着した。中へ入ると、マネージャーさんが迎えてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。柴犬さん、本当に可愛く変身しましたね〜」
案内されたのは、以前も通されたことのある会議室だった。僕は、椅子に座り、マネージャーさんが取れなくなった勾玉を見てもらった。
「確かに、毛に絡んでるね〜」
「取れますか?」
「時間はかかるけど....取れると思いますよ」
その言葉に、ホッとした。
「じゃあ、早速お願いします」
「いやいや、私は取れませんよ。社長なら取れると思うんですよ」
「え」
「うちの社長って、裁縫とか細かい作業が得意なので、だけど、社長が戻ってくるまで、時間がかかるので、しばらくここで、ちょっと柴犬さんには仕事してもらいます」
と言って、冷凍ハンバーグと冷凍チキンを持ってきた。
「じゃあ、この案件配信お願いするね」
「え?」
「このために、早く来てもらったんだから」
確かに、メールでやり取りをしている時に案件配信を承諾して、食べる系の案件内容だったので了承した。曜日などは決まっていなかったが、まさか今日になるとは思わなかった。
「だけど、なんで今日なんですか?」
「それは、案件先のご意向です」
そう言って、スマホ画面を見せてきた。スマホ画面には、電車に乗って異様に浮いている僕の姿が映っていた。この写真がSNSに投稿され、バズっていた。
『何、この可愛い生物は!?』
『電車に乗る姿が凛々しい!!』
『やばい……可愛すぎる。この生き物は誰!?』
『犬って名前で活動している柴犬さんだよ』
案件先の担当者は、SNSでバズったことを知り、この姿で案件配信をしてほしいと強く要望されたらしい。それに、案件報酬を3倍にすると言って、かなりの勢いしていたらしい。
「まあ、いいですけど、撮影する物が無いですよ?」
「事務所で貸し出します」
撮影場所に移動すると、机には電子レンジと先ほどの冷凍ハンバーグや冷凍チキンが用意されていた。
「こんにちは〜! 本日2回目の配信で〜す」
『柴犬さんんんんん!!』
『アカン……正気を……たもちゃぁんどぉおおおおお!!!』
『可愛すぎるんだろうが!!』
「今回は案件配信です。冷凍弁当を取り扱っている企業様の商品で、お肉がメインの冷凍弁当を食べていこうと思います」
早速、冷凍弁当を電子レンジに入れ、5分間チンした。
熱々になった冷凍弁当をタオルで取り出し、ラップのようなフィルムを爪で破った。破ると、美味しそうなハンバーグの香りが広がった。
「美味しそう!!いただきま〜す」
フォークでハンバーグの中を割ると、湯気が立ち上り、肉汁が溢れ出る。ハンバーグが熱々なので、何度か『フーフー』と息をかけて冷ました。
『あ、その息を吹きかけられたい』
『美味しそう.......可愛い.......情報過多......』
『購入するか!!』
僕は大きな口を開け、フォークで半分に切ったハンバーグを一口で食べた。
「おいし〜い!!」
やはり大きかったので、しばらくもぐもぐと味わい声を出せなかった。
しばらくして、感想を伝えた。
「うん、美味しい! 肉汁が溢れて、ジューシー!」
『エッチだ.....』
『お口の中が.....エッチだ』
『その口で食べられたい......』
次に、冷凍チキンを電子レンジでチンした。チキンの上にかかっている緑色のソースはバジルソースらしい。
バジルって、なんだろうと商品の説明を見ながら思った。
僕はフォークで5切れあるチキンを刺し、一口食べてみた。
「美味し〜い!!」
冷凍チキンは硬くなったりするかと思っていたが、驚くほど柔らかく、簡単に噛み切れる。バジルソースが鶏肉の嫌な匂いを消し、さらに味わいが引き立った。
『今気づいたけど、シッポがめっちゃ振ってる』
『可愛すぎる』
『うん〜口がエッチなんだよな〜』
『美味しい物を食べて幸せそうな柴犬さん……犬の姿でもこっちの姿でも可愛すぎるとか、チートかよ!!』
最後に楽しみにしていた黒毛和牛の焼肉弁当!!
冷凍弁当でありながら、その価格は約4000円という高級品だ。
この会社の冷凍弁当は平均500円ほどだが、この焼肉弁当は最も高価な一品らしい。
早速、電子レンジに入れて温めていると、待ちきれない気持ちでシッポがずっと振っていた。
『うお、1番楽しみだからシッポがずっと振ってる』
『るんるんじゃん〜』
『可愛すぎる』
「やっとできた〜!」
温め終わった焼肉弁当を机の上に置き、匂いを嗅ぐ。
「いい匂い! 焼肉のタレがとてもいい〜」
フォークで焼肉をすくい、大きな口を開けてパクッと食べる。普通の焼肉弁当よりも明らかに美味しい。値段が違うだけでこんなにも違うなんて驚いた。
お肉は柔らかく、横に添えられたワサビと一緒に食べると、さらに美味しさが引き立った。
「おいし〜い!」
『ゴクリ』
『可愛い〜』
『食べたくなった。購入しなければ』
「あ」
『胸の方に落ちた』
『ふう〜胸があってよかった』
『大好物のお肉が落ちたら、柴ちゃん泣いてたもんね』
最後に残しておいたお肉がカッターシャツの上に落ちてしまった。爪でお肉を刺し、上を向いてパクっと食べ終えた。
『まあ、豪快』
『可愛さの中に荒々しさがあっていい』
「ふう〜美味しかった!!どれも美味しかったけど、焼肉弁当は特におすすめ! 高いけど.....でも、ハンバーグやチキンも美味しかったし、今日食べた冷凍弁当は全部おすすめ〜」
そう言って、配信を締めくくった。




