第40話 お泊まり
「おはようございます〜」
僕は玄関の鍵を開け、翔太くんたちを迎えた。
「あ、ワン.....ワン.....?」
翔太くんは、柴犬の僕に会いに来たはずだった。だけど、目の前にいるのは柴犬獣人の僕に驚いたのか、困惑したのか、翔太くんはお母さんの後ろに隠れてしまった。
「しょ、翔太くん?」
「あら、今日は人間の.....姿ではないんですね」
「あ、これは......ちょっと色々ありまして......」
「とても可愛いですよ」
翔太くんのお母さんが優しくフォローしてくれた。
「えっと......柴犬さんって、女性の方でしたか?」
「いえ、違いますけど?」
なぜか性別を間違われた。いつもと姿が違うせいで、そう見えたのかもしれない。
「ほら、翔太。泊まりたいって言ったのは翔太でしょ?」
お母さんが、後ろに隠れていた翔太くんを前に出した。
「う、うん......だけど、ワンワンじゃない.....」
やっぱり怖がっている。僕はしゃがんで翔太くんと目線を合わせ、できるだけ安心させようとした。
「翔太くん。ワンワンだよ〜」
「翔太、見た目は違うけどワンワンだよ。どうする? お泊まり辞める?」
お母さんが問いかけると、翔太くんは即座に首を振った。
「い、いや!!」
僕はその勢いに思わずクスッと笑ってしまった。もしかして、イヤイヤ期なんだろな思っていた。翔太くんはお母さんの手を振り払い、そそくさと僕の家の中へ入っていった。
「あ、これは翔太の着替えです。今日は本当にご迷惑だとは思いますが、よろしくお願いします」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
お母さんは心配そうに帰っていった。渡されたカバンを開けると、中には翔太くんの着替えのほかに、お肉まで入っていた。
「す、すごい.....黒毛和牛のお肉だ.....!!」
保冷剤と一緒に入っていたのは、黒毛和牛だった。僕は思わず息を飲んだ。とりあえず、腐らないように黒毛和牛を冷蔵庫の中に入れた。
「翔太くん、何して遊ぶ?」
「ゲーム!!」
翔太くんはカバンからゲーム機を取り出した。最近のゲーム機は1台で2人プレイができる。僕はゲーム機を持っていないけど、それでも一緒に遊べるみたいだ。
「じゃあ、やろっか!!」
翔太くんの元気な声が響く。僕たちは、協力プレイのアクションゲームを始めた。ゴリラがトロッコに乗って進むステージ。単純だけど、タイミングがシビアで意外と難しい。
久しぶりにゲームをしたけど、やっぱり面白い。翔太くんはこのゲームに慣れていないのか、ジャンプのタイミングが合わず、何度も穴に落ちてしまう。
「え、あ。また落ちた......」
「大丈夫。大丈夫〜」
僕は翔太くんを助けながらゲームを進めていく。夢中になりすぎていたせいか、ステージの切り替わりで画面が暗転したとき、自分の姿が映り込み、気づけば口からベロがぴょこっと出ていた。
翔太くんは気づいていないみたいだけど、なんだか恥ずかしくなってそっと引っ込めた。
そんなこんなで、時間はもう昼。翔太くんのお母さんからもらった黒毛和牛があるので、それを使ってカレーを作ることにした。
じゃがいもと人参は電子レンジで加熱して柔らかくし、沸騰した鍋に投入。しばらくして牛肉を加え、アクをすくいながらカレールーを溶かす。
炊きたてのご飯にカレーをかけて、出来上がり。
「出来たよ〜」
「あ、ありがとうございます」
翔太くんは嬉しそうに食べ始めた。ゲームのときはリラックスしていたのに、今はなんとなく緊張しているように見える。どこか落ち着かない様子で、僕のことをちらちら見てくる。
ーーー別に嫌われてるわけじゃないよな.....
柴犬の姿のほうがよかったのかな、なんて少し考えてしまう。
昼ごはんを食べ終えたあと、翔太くんに頼み事をした。
「翔太くん、僕の首のところにある勾玉、取ってくれる?」
「う、うん....」
翔太くんはおそるおそる近づき、手を伸ばしてくる。僕の毛の中を探るようにして、勾玉を取ろうとしていた。
「あった......けど、絡まってて取れない。ごめんなさい」
「大丈夫だよ。ありがとう〜」
翔太くんは、思ったより落ち込んでいた。そんなに気にすることじゃないのにな.....と思いながら、僕は彼を励ました。
午後3時。なんとなく眠くなったので、翔太くんと一緒に昼寝をすることにした。
目を覚ますと、もう4時。翔太くんを起こして、お風呂に入れてあげることにした。僕も一緒に入りたかったけど、毛が多くて乾かすのが大変だから、翔太くんだけ先に入らせることにした。
「上がり.....ました」
僕はその間に牛丼を作っていた。翔太くんがお風呂から上がる頃には、ちょうど食べごろになっていた。
「まだ、濡れてるよ〜」
僕は、翔太くんの髪をタオルでワシャワシャと髪の毛を乾かしてあげた。
「じゃあ、食べよっか」
「うん」
夜ごはんを食べ終えたあと、再びゲームをして、ついにボス戦をクリア。達成感でいっぱいになりながら、前から思っていた事を、翔太くんに注意をすることにした。
「そうだ、翔太くん。むやみに犬の背中に乗っちゃダメだよ」
「え?」
「僕だからよかったけど、普通の犬の背に乗るのは危ないんだよ。最悪、脊髄を痛めたりするかもしれないし」
「ご、ごめんなさい.....」
「分かってくれたなら大丈夫だよ」
翔太くんはしっかり頷いて、もう犬の背中には乗らないと約束してくれた。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
「うん」
「おやすみ〜」
僕は翔太くんと一緒に布団に入り、ゆっくりと目を閉じた。
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翌朝、目を覚ますと、翔太くんが僕の肉球を触りながら寝ていた。僕はそっと手を引き抜き、朝食の準備を始めた。
朝食を食べ終えた頃、翔太くんのお母さんが迎えに来た。
「じゃあね〜」
「バイバイ!!ワンワンね〜ね」
「うん、バイバイ〜」
「本当にありがとうございました」
翔太くんのお母さんは深々とお礼を言い、翔太くんは名残惜しそうに手を振っている。僕もそれに応え、翔太くんを見送った。




