第32話 障子の魅力に勝てない
美緒さんたちとの動画撮影が入り、引越し作業はいったん中断したものの、なんとか無事に終わった。
「ふう、やっと終わった。税込200万円の家とは思えないくらい広くて住みやすいよな〜」
そう呟きながら、湯呑みに注いだ温かいお茶をすすり、一息つく。
茶の間の床は畳敷きで、どこか懐かしい雰囲気を感じるのは僕だけだろうか。ベランダへ続く廊下にある障子は、ところどころ黄ばみが目立ち、汚れも気になる。
「障子を張り替えないとな〜」
そう決意しつつ、この家に引っ越してから、早く視聴者に部屋を紹介したいとずっと思っていた。
ちょっと自慢したかったのもある。
それに、他の配信者が引っ越し後にお部屋紹介をしているのを見て、僕もやってみたいと思っていた。
引越し作業中は忙しく自分のアカウントで配信していなかったから、今から始める事にした。
早速、口に咥えて撮影ができるように、小さなカメラを買いおしゃぶり見たいに咥えるところを付けた自作カメラを使い配信を始める事にした。
「こんにちは〜」
まずは、カメラを正面に置いて挨拶をした。
『あれ、柴犬くん、いつもと部屋が違う気が......』
『確かに、こんな広くなかったよね』
『畳だ!!』
「みんな、もう気づいてるよね?実は、引っ越しました~」
『うおおお!!やっぱり!!』
『家の紹介動画くる!?』
『柴ちゃんの新生活が見られるなんて最高!!』
早速カメラをくわえ、視聴者に見せたい場所へと移動する。
「ここ、お庭~!!すごいでしょ!!七輪でお肉焼いたりできるんだよ!!」
カメラを庭に置き、広々とした空間を見せる。
『七輪で焼くお肉、絶対美味しいよね~』
『ヨダレ垂らしながら説明する柴犬くん可愛すぎ』
『火の扱いには気をつけてね』
庭をもっと見せようと、カメラをくわえたまま庭をぐるりと走り回る。庭は垣根で囲まれているから、プライバシーの心配もなく撮影できる。
「ぬあああ!!」
カメラで足元が見えない状態で、走っていた。石につまずき、口にくわえていたカメラを落としてしまう。さらに勢いで垣根に頭を突っ込んでしまった。
『柴犬くんの壁尻!?』
『可愛いお尻!』
『ラッキースケベきた!!』
何とかバックして垣根から抜け出すと、体に小枝や葉っぱがついていた。ブルブルと体を振るわせて落とし、落としたカメラを咥え拾った。
「次は家の中を紹介しようと思ってたけど、順番間違えた....」
庭でついた泥を落とさないと室内に入れない。ベランダで立ち止まり、少し考えた。なるべく歩数を少なくしタオルのある洗面台に向かった。洗面台のタオルを使って足を拭き、そのタオルで泥のついた所を拭き取った。
「ふう〜」
『柴犬くん綺麗好き』
『後始末上手』
『うちの家も掃除して!!』
台所や寝室を紹介しながら配信を進め紹介する所も無くなったので、スマホでコメントを見ながら少し雑談配信をしていると、視聴者さんのコメントが目に留まった。
『障子とか、指でブスッてやりたくなるよね~』
視聴者さんは、僕の後ろに写っている障子を見て障子を破りたくなっていた障子を張り替える予定だった。
ならば!!
「みんなの願望、叶えてあげよう」
カメラを障子の前に置き、僕は障子の裏にスタンバイする。
『え?柴犬くん、どうしたの?』
『かくれんぼ...?』
『しっぽが隠れて無いよ〜』
「えいっ!!」
前足で障子を突き破る。
『!?』
『急にどうした!?』
『柴犬くんがバーサーカー化した!?』
『何かあったの!?』
「みんなに障子を破る快感を共有したくてね!!どうせ張り替える予定だったから安心して!!」
『そ、そういうことか....』
『確かに気持ちよさそう』
『無邪気で可愛すぎる!!』
前足で次々と障子を突き破り、前足で届かない場所は鼻を押し当てたりして、手が届く範囲を全て破った。
『ちょ、鼻がちょこっと出てくるの可愛すぎる!!』
『これは、スマホ画面にしておかなくては!?』
『がわうぃいいいいい!!』
配信を終えると、人間の姿に戻り全ての障子に穴を開けたあと、ホームセンターで障子紙とのりを購入し、新しい障子を張り替えた。
「これで完璧だ〜」
配信もできて、障子も張り替えることが出来て満足満足〜




