第29話 嫌な予感がする!?
僕は、お腹の虫が鳴いたのと同時に目を覚ました。時計を見ると、午前10時。
昨日寝たのが、午後7時なので13時間以上寝ていた事になる。
我ながら、寝すぎだろっと思ってしまった。僕は、ネットの上で立ち上がり背を伸ばした。
「ふぁあああ〜」
背を伸ばしたと同時に、あくびも出てしまった。ふと、横に目をやると何故かイヌイ事務所の社長さんが何故か僕の横で眠っていた。
「ふぁ?」
僕はビックリして、突拍子もない声が出てしまった。その声で、社長さんは目を覚ましてしまった。なので、僕は理由を聞いた。
「あの〜なんで、社長が....?」
「ん、あ.....おはよう....柴犬くん」
「お、おはようございます」
僕は、戸惑いながらも挨拶をした。
「ふぁああ〜じゃあ、行こっか」
あくびをし、背筋を伸ばした後、立ち上がった社長さんは僕を持ち上げどこかに連れて行かれる。
僕は、胸の高さと同じ場所で抱きかかえられているので、必然的に胸が当たる。社長さんは、僕が見た目は犬だが人間の男であると知っているはずなんだけど....大丈夫なんだろうか?
しばらくして、抱きかかえられた僕が連れてこられた先は社員食堂だった。時刻は朝の10時を少し過ぎたところ。
だから、広い食堂には誰もいない。ここに居るのは、僕と社長さんだけだった。
僕は先に席に降ろされ、社長さんは何やら商品を手に取り、レジでお会計をしている。
目に入ったのは、オフィスコンビニと呼ばれるコーナー。会社の中でコンビニの商品がいつでも買えるなんて便利だな、とぼんやり思っていると、社長さんが戻ってきた。
「はい、柴犬くん」
差し出されたのはカツサンド2個。どうやら僕のために買ってきてくれたらしい。
一方の社長さんが持っているのは、おにぎりが一個だけ。本当にそれだけで足りるのだろうか?
「ありがとうございます。ところで、社長さん、おにぎり一個で足ります?」
「足りるけど?」
あっさり答えながら、社長さんはそのおにぎりを食べ始めた。
僕も買って貰ったカツサンドを食べた。
カツサンドが食べ終わった後に、僕のベットの横で寝ていたのか聞いた。
「あの、社長さんはなんで僕が泊まってる場所で寝てたんですか?」
「じゃあ、散歩しようか。」
質問に答えるどころか、話を丸ごとスルーされた。僕は社長さんに連れ出され事務所の外に出た。
この話題、触れたらダメなのだろうか?
気がつくと、僕の首にはリードがつけられていた。
「あの、別に僕、逃げたりしないので....首輪、外してもらえません?」
「犬の散歩にはリードが必要だから。ダメ」
たしかに犬の散歩をする時は...リードをしなければならない。これ、もし僕が人間の姿だったら....うん、ヤバい絵面だ。想像するのはやめておこう。
諦めて散歩をしていると、なんだか胸がざわつく。先に進むのがすごく嫌な感じがする。どこに向かっているんだろう。
やがて目の前に見えてきたのは....あの場所だ。
ダンジョン適応症で倒れたときにお世話になった、一軒家の病院。
「あの....どこに向かってるんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「注射よ」
「嫌だぁああああ!!!」
瞬時に叫んだ。絶対に嫌だ。注射なんて痛いだけじゃ無いか!!
「行くよ」
「嫌だああああ!!!!」
僕は全力で抵抗した。後ろに踏ん張るけど、顔がムギュっとなるほど力を入れリードを外そうとしたがダメだった。それに、人間の力には勝てない。あっという間にリードを手繰り寄せ体を持ち上げられ病院に無理やり連行されてしまった。
「おやおや〜ようやく注射をしに来たんだね〜」
先生がニヤリと笑って、手にはしっかり注射器を持っている。
「しゃ、社長さん....」
僕は、社長さんの方の顔を見たが、顔をそらされた。
「キャイイイイイイン!!!」
一瞬だったけど、痛かった。めちゃくちゃ痛かった。僕は涙目で社長さんの方を睨む。
「ごめんね。事務所の方針で義務なんだ」
僕は注射を打たれた後、トボトボと家に帰り元の姿に戻った。少しして、社長さんが僕の家に来て何かを頂いた。
早速、フライパンで赤身肉を焼いて食べてみたが、とても美味しかった。
「社長さんもどうぞ」
僕は、社長さんからいただいたお肉を焼き、焼き上がった分を家にあげた社長さんにも渡した。
「うん、美味しい」
僕も厚切り牛タンを一口食べると、その柔らかさと美味しさに驚いた。
「美味しい!!ありがとうございます!!」
やはり、牛タンが美味しいなっと改めて思った。
社長さんがくれたお肉があまりに美味しかったので、無理やり注射をされたことはもう許すことにした。




