第24話 柴犬・サービスシーン
何をするのか聞かされていない僕は、戸惑いながら公式配信に出演している。それに比べて、イヌイ事務所の社長さんは堂々としていて、本当にすごい。
僕は不安で、落ち着かない。緊張のせいか、息も上がっている。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「柴犬くん、緊張してるの?」
「は、はい.....」
『柴犬さんと滅多に出てこない社長さんだ!!』
『もしかして、社長は犬好きなのでは!?』
『¥10,000 柴犬さん!!スパチャだよ!!』
『¥20,000 珍しい人と推しが一緒とかレア度MAXじゃないか!!』
『¥50,000 珍しく柴犬さん緊張してる?』
何をするのかは決まっていないけれど、コメント欄は盛り上がっているようだ。
「柴犬くん、何したいの?」
「そうですね.....お風呂ですかね?」
ホブゴブリンの血が毛の中に入り込んで気持ちが悪い。だから、お風呂に入りたいという気持ちを素直に伝えた。
「そう」
社長さんはそう言うと、カメラマンさんと何か話し始めた。
結果、僕ひとりだけ画面内に取り残されてしまった。
「え、え、どこ行ったの?」
『お、1人になった』
『大丈夫かな?シッポ下がってる』
『不安なんだね....大丈夫だよ。僕達が見てるよ』
「まだかな。僕ひとりじゃ間が持たないよ……」
なんとか喋りながらウロウロして数分後にようやく社長さんたちが戻ってきた。
なんだか、社長さんはさっきの服とは違う服に着替えていて、カメラマンさんの持っているカメラも変わっている。
「じゃあ、今からお風呂に入るよ」
「え?」
そう言って、社長さんに抱えられ、どこかに連れて行かれた。
「ここは事務所のお風呂よ」
「あ、はい」
どうやら、僕は犬の姿で洗われるらしい。お風呂場に入ると、まずはシャワーで体の汚れを洗い流された。
『犬さん大人し〜』
『お風呂わんこだ〜』
『¥10000』いきなりのサービスシーンだと!!』
「じゃあ、さっきそこのドラッグストアで買った犬用シャンプーで洗うわよ」
「は、はい」
社長さんが手にシャンプーを取り、僕の体を隅々まで洗ってくれた。意外にも、社長さんの手つきは上手で、とても気持ちよかった。
鏡を見ると、泡に包まれた僕は柴犬とは別の、白い謎の生き物になってしまっていた。
『ほお、新種の柴犬なんでしょうか?』
『新発見ですな』
『白柴だ〜』
「ふう、こんなものでいわね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、流すよ」
再びシャワーでシャンプーを洗い流してもらうと、犬の習性なのか体が濡れて思わずブルブルと水を飛ばしてしまった。
「わっ、ごめんなさい!」
「こんなこともあるかもと思って、事前に着替えておいて正解だったわ」
なるほど、だから服を着替えていたのか。さすが社長だな。準備がいいな、と感心した。
「じゃあ、お風呂に入ろっか」
気づくと湯船にお湯が張られている。僕は持ち上げられ、ゆっくりと湯船に入れられた。
――お、泳げるのか!?僕は犬の姿で泳げるのか!!
心配で、湯船に入る前から両手両足をバタバタさせて準備をしていた。
『柴ちゃんカナヅチ?』
『必死すぎ♡』
『うむうむ』
「あ、意外と泳げる....」
「上手ね」
しばらく泳ぎ回っていたら疲れたので、社長にお風呂から出してもらった。タオルで体を拭いてもらい、ドライヤーで全身を乾かしてもらった。
毛が乾いた後はブラッシングもしてもらい、それが一番スッキリして気持ちよかった。
「ふう〜気持ちよかった〜」
「良かったわ」
『柴ちゃんがさらにモフモフになってる』
『可愛さが際立つ!!』
『社長さんズルい!!僕もやりたい!!』
ブラッシングが終わりキリが良いので、配信はそこで終了した。
「はい、ありがとうございます。撮影終わりました〜」
「ふぅ〜終わった〜」
「柴犬くん、ありがとう。だいぶ私もリラックスできたわ」
「そうですか?」
「そうよ」
そう言いながら、社長さんは僕の頭を撫でてきた。
「じゃあ、柴犬さん送りますよ」
「ありがとうございます」
僕はマネージャーさんの車で、家に帰った。




