五日目。
朝なのと、石作りということもあって台所は少しひんやりとしている。
テーブルの上に朝食が並べられると、ポチとタマは難しい顔をしてそれを見つめる。
メニューはパン、サラダ、ベーコンエッグ、コーンスープ。
僕にとってはごく普通に朝食なんだけど・・・。
「はぅぅ~・・。」
「むぅぅ・・・。」
「食べ物とにらめっこしてないで・・・。早く食べないとメアリーがせっかく作ってくれたんだから冷める前に。」
「は・・・はい。」
「ほらほら、いただきまーす。」
「いただきますぅ・・・」
ポチはまずスプーンを握って、スープをすくおうと皿に近づける。
だがどうしても上手くいかないらしく、皿とスプーンが何度もぶつかり、カチカチと音を立ててしまう。
「ポチうるさい。」
「だ、だって~・・・う、うぅぅ・・・だ、だめです~」
ポチはカチカチと音をたてるスプーンをおいて、皿から直接スープをすすり始めた。
「もう、お行儀がわるいぞ。」
「で、でも・・・」
「スプーンはこうやって持ってさ・・・。ほら簡単でしょ?」
僕はポチに見せるよスプーンを握って、スープを口に運んだ。
「み、見てると簡単だって思うんですけど・・・やってみるとなかなか・・・・。」
「どうしても嫌なら仕方が無いけど、これから使えたほうが便利だよ。使わなくちゃいけないことも何度もあるだろうから。」
今まで食器もまともに使わせてもらえなかったという事実を攻めるような真似をするのは、二人のせいではないだけに胸が痛い。
でもこれからはスプーンやフォーク、ナイフを使えるようになることも必要なんだと・・・僕は思う。
「は、はいですぅ~・・・」
ポチは再びスプーンを握ってスープをすくおうと皿に近づける。
「大丈夫、毎日使っていればすぐに慣れるから。」
「そうですよ。ご主人様だって昔はナイフとフォークを・・・くすくす。」
「メアリー、僕の話はいいって!」
「うぅ・・・ムズカシイです・・・。」
どうしても皿とスプーンをぶつけてしまう。こればかりは慣れなのかな・・。
「ほら、タマも・・・ね?」
見ればタマはスプーンスープの入った皿を見つめて固まっているではないか。
「わ・・・わかったわよ。ポチなんかとは違うところ見せてあげるわ。」
意を決したのかタマはスプーンを持ち上げる。
「くう・・・む?・・・むう・・・」
どう握ったらいいのか解らないのか、手の上で何度も握りなおす。
「ううううぅ、なんなのさこれー!」
不意にカランとスプーンがタマの手から抜け落ちた。
タマの手はまるで猫のように握られていて可愛らしい。
「あはは」
「むかーっ」
僕の笑い声に怒ってしまったらしい。
タマはふて腐れた顔で料理を手掴みでとり、平らげていく。
「むぐむぐ、もぐもぐ。」
スープも手にとって一気に飲み干した。もうかなりさめていたらしく、猫舌でも大丈夫なようだ。
「おいおい・・・」
「タ、タマちゃ~ん」
「ごちそーさま!タマはそれ使ったゆっくり冷えたものでも食べてなさい!」
タマは立ち上がって乱暴にイスを押しのけると、そのまま出て行ってしまった。
「やれやれ・・・。」
「大丈夫、少しづつ、少しづつですから。」
静かになった食堂にポチのならすカチカチという音だけが響いた。