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四日目。

部屋は窓から差し込む朝日の光によって、もう夜が明けたことを知らせていた。

開け放たれたカーテンから、ベッドまで直射日光の柱が伸びて、それが僕の顔を照らす。

「ん・・・」

ぎゅっと目を閉じてみるが

「・・・眩しい。もう起きろってことか・・・」

ゆっくりと体を起こし、まだ眠い目を擦ると、横に耳のついた二人の人影が見えた。

「わっ」

・・・まさかそんなところに立っているとは思わなかった。声まで上げて自分でも少しかっこ悪いと思う・・・・もう少し気を強く持とう・・・。

「・・・もう二人ともおきてたのか。」

見ればもうパジャマでなく、普段着に着替えていた。

もしかするとずいぶん前に起きて、僕の寝ているところを観察でもしてたのだろうか?

・・・おかしな寝言や妙な寝顔にはなってなかったと思うけど・・・。なぜか不安だ。

「おはようございますご主人様。今日も一日よろしくお願いしますですよ。」

「おはよう。・・・ひょっとしてずっと立ってたの?」

「あ、はい。でも、ずっとという程でもありませんけど。・・・どのくらいだっけ、タマちゃん?」

「・・・しらない。」

タマは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で無愛想に答えた。

とにかく、二人はずっとそばに立っていたらしい。

「僕、変な顔してなかったよね?」

「あっ、それなら大丈夫ですよぉ。それにご主人様の寝顔って結構・・・」

「結構・・・?」

「あっ、いえ、えへへ・・。なんでもないですよ。」

ん~なんだかよく分からないけど気になることを言ってくれる・・・。

って言うか恐くてこれ以上聞く気にならないんだけど・・・

「まぁ・・・観察してもそんなに面白いものじゃないから・・・。」

「そんなことないですよ。」

・・・。結構・・・どうたったのだろう。

「おはよう、タマ。」

僕はタマに2度目の挨拶をした。

彼女はさっきからずっと不機嫌そうな顔をして立っているだけだ。

「・・・。」

「ほら、タマちゃんっ」

タマは一瞬ポチを一瞥するように睨み、そのままソッポを向いて、部屋を出て行ってしまった。

「タ、タマちゃ~ん。」

相変わらず無愛想なタマの態度に、まだおきたばかりだというのにポチは既に泣きそうな顔をしている。

「もうっ、タマちゃん。す、すみませんご主人様」

「大丈夫。気にして無いよ。」

「は、はい。」

タマを追いかけるように、ポチも部屋を出て行ってしまった。

「そう簡単には打ち解けてくれないのかな・・・。」

僕は再びベッドの寝転んで天井を眺めた。

「ん・・・。」

でも・・・起きたときタマがいたってことは、ずっとポチと一緒に居てくれたってことだよな・・・。

起きてすぐ部屋の外に出れたはずなのに・・・。

「嫌われてるけど・・・すぐに出て行かなかった分、大嫌いというわけでもない・・・・のかな。」

このまま寝てたらまたメアリーが起こしに来るかな。

僕はゆっくり起き上がり、部屋を後にした。




昼食も終わり、僕は庭へでた。

芝生が同じ高さに切りそろえられた庭は、歩くたびに靴を心地よく受け止める。

決して広くは無いが、だからこそ細かなところまで手入れがいきわたってるといえる。

「今日もあったかいや。」

日差しはそこまできつくない。ぽかぽかと気持ちがいい。

庭の隅に取り付けられた簡素な物干し台では、ちょうどメアリーが洗濯物を干しているところだ。

「ん・・・?もう一人いる?」

良く見ればもうメアリーと一人、干したシーツの向こうでもぞもぞと動く人影がある。

「ポチ・・・かな?」

太陽に照らされた純白のシーツに透き通る小柄な影は、姿こそ見えなくとも間違いなくタマだ。

僕はゆっくりそのシーツへ近づいていった。

「あら、まぁ・・・」

先にメアリーが僕に気がついて微笑みかけるが、タマは相変わらずシーツの向こうでもぞもぞと動くばかりだ。

「うんしょ、うんしょ。」

「ポチ?」

どうもシーツ干し方が上手くいってないようだ。

眉間にしわを寄せて、難しい顔をしながらシーツをぺたぺたと触っている。

「うんしょ・・・シワの無いように・・・と。」

シワを伸ばせばまた別のところにシワができてしまい、なかなか上手く干せない。

「ポチ~?」

「う~・・・難しいです。」

「ポチってば」

話しかけても目の前のことに夢中で全く気づく気配が無い様子のポチに僕はそっと肩に手を置いた。

すると

「!!!はうわっ!!!!」

さすがに気がついたものの、ポチは悲鳴にも近い声を上げた。

「あ・・・あれ?ご主人様?びっくりしました・・・。」

「ご、ごめん。別に驚かせるつもりは無かったんだけど。」

「あ・・その、私のほうこそ驚いてしまって・・・あ・・・あれ?あぁぁぁ!またシ、シワが。」

驚いた拍子に物干しにかかったシーツを大きく動かしてしまった。

くしゃくしゃになったシーツを前に一瞬は呆然としていたものの、すぐにシーツに手を伸ばす

「あ、ごめん。・・・・手伝おうか?」

「いえいえいえ、大丈夫です。」

あたふたとシーツを直す手つきは流石にメアリーに比べるとたどたどしい。

「でもどうしてシーツを干すのを手伝ってるの?」

「はいっ、お世話になっているので少しでもお役に立たないと!」

僕の問いにポチは微笑みながら答えた。

「そんなに気を使わなくても・・・」

「そんなわけにはいきませんよぉ・・・・ご飯だって食べさせていただいてるんですから。」

僕は別に無理やり彼女に家事をさせようとは思っていない。

けれど、ポチが率先してやりたいというのだから、それをとめたら逆に失礼だ。

むしろそうやって何かを覚えていくうちに、やりたいことでも見つけてくれたら、僕だってうれしい。

「でも苦戦してるみたいだね。」

「はいですぅ・・・見ているだけだと簡単そうなんですけど・・・それがなかなか・・・。」

「ふふ、一朝一夕にはなかなか身につかないものですよ。ゆっくり、ゆっくりですよ。」

「メアリーはもう熟練してるものなぁ」

「殆ど毎日やっていますからね。ご主人様の下着の種類や枚数だって頭に入ってますわ。たとえば今は居ているものは・・・。」

どうしてそっちへ話が進むのかわからないが、おかしな方向へと話題が進んでいるようだ。

「ちょ、ちょっと・・・。」

言葉をさえぎるように手を振って慌てる僕を見てメアリーはやさしく笑う。

「ふふふ、冗談ですよ。」

ポチはというとシーツをつかんだまま手を止めてメアリーの話に聞き入っている。

そして、好奇心に輝く瞳を僕とメアリーのほうへ行ったりきたりさせている。

「知りたい?」

「はい!」

「別に普通だってば!」

「だ、そうです。」

「え~」

ポチは少しがっかりしたようなこえを上げながら、微笑んでいる。

「ま、まぁメアリーならこういう仕事も教えるの上手いだろうし、任せても大丈夫かな?」

「はい。きちんとやろうとする心があれば大丈夫ですわ。ポチさんは少し不器用ですけど綺麗にしたいという気持ちはきちんとこのシーツにも現れていますわ。」

少し間があって、

「お洗濯だけに。」

「・・・」

メアリーのいっていることの意味が分からなかった。

が、すぐに理解できた僕は言葉を失った。

「え、え?どうしたんですか?」

「あ・・・いや。何て言ったらいいんだろう。」

この場を流してあげるのも・・・やさしさかな?

「さ、ささポチさん。残りもやってしまいましょう。」

「え。は、はいっ!」

ポチの直したシーツは流石にメアリーと比べると上手ではないが、直向な気持ちは現れているような気がした。

「無理しないで、気をつけてね。」

「はいっ、大丈夫です。」

ポチの笑顔は、僕のほうも嬉しくなってします。まだ少し他人行儀名ところはあるけれど、本当はやさしい見た目通りの子なんだろう。

初めて会ったときより、ずいぶんやわらかくなった気がする。

二人に手を振って僕は庭を後にした。


やっとです・・・。はい。

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