二日目。
コンコンコンコン。
窓を叩く音が聞こえる。
外はまだ暗く、夜が明けていない。
コンコンコンコンコンコンコン。
「はいはい。今あけます。」
こんな時間に、しかも窓から訪ねてくる人に心当たりがあった・・・。
そんな人を一人、知っている。
カーテンをめくり、窓を開ける。そこには一人の女性がほうきに乗って宙に浮いていた。
「ハロー」
「ハローじゃないですよ・・・どうしたんですか、こんな時間に。」
「何を言う。これからがワシの時間なのではないか。」
彼女はマリー先生。僕の家庭教師をしてもらっている。彼女は魔女なので空中散歩も年齢を変えるのもお手の物だ。今の先生は20代後半ぐらいにみえる。格好は黒い魔女っぽい帽子。魔女っぽい服。魔女っぽいマントを着ている。見るからに魔女ということをアピールしているが。本人曰く星の付いた小さな杖を持つと宇宙人にもなれるらしい。時々不思議な発言をする先生だ。
「・・・何をしにきたんですか?」
「ん、そろそろ夜の男女の営みについて教えにな」
「・・・。」
「ついでに領主に逆らってまで守った二人を見にきたのじゃ。」
意地悪そうに微笑みながらそういった。
「そっそれ、どこできいたんですか。」
「ん?水晶で覗き見しとっただけじゃ。」
覗き見だけって・・・。
「この二人がそうか、よく寝ておるわ。」
僕のことは完全に無視し、先生は嬉しそうにそんなことを言った。
「彼女達だって眠りますよ。」
「ほう。なら今までに二人が安心して眠れることがあったと思うか?」
・・・あったのだろうか。最初に来た二人はすごく警戒していたし怯えていた。
ポチは反射的に僕を噛んだ。それは今までの扱いをそのまま現していたとおもう。おそらく今までに安心して眠れたことは無かったんだろう。
「周りの者の意に反して大事に扱っておるようじゃが奴隷を大切にするなど他にはおらんじゃろう。」
「周りの人はやっぱりよく思ってないのかな・・・。」
「いや、そうではないが心配はしておるの。なぜ奴隷を使っておるのか考えてみたか?
――――とまぁワシが問いただしたところでどうにもならん。これはおそらくこれから誰かに問われるだろうからのぅ。誰にも問われずともおそらくは・・・な。」
二人は大切な友達だ、大切にしたい。でも僕は間とても違っているんだろうか。・・・やっぱりよく思ってないんだろうか?
ただわがままなだけに過ぎないんだろうか。あの時父さんは「よくレディを守ったな」って言ってくれたけど、本当はどうなんだろう・・・。
朝の窓から差し込む日の光というものは朝起きたとき、清々しいものだ。
が、まだ眠い場合それは鬱陶しいことこの上ない。
今回は後者だ・・・。
窓から差し込む眩しい光。もっと寝かしておいてほしいのに寝かせてくれない。強い光がそれをさえぎるのだ。
ベットにすわり、起きるのもしんどく、カーテンを閉めるのもだるい・・・。
動こうとは思うものの動かない状態でいた。
「おはようございます、ご主人様。」
「ったく、いつまで寝てんのよ。」
居ることに気がつかなかったがポチとタマはベットのすぐ横に立っていた。
「お~そ~い。どれだけ待たされるのよ。」
「ごめんね。ずっとそこで待っていてくれたの?」
「ついさっきからです。タマちゃんね~、さっきまで起きられなくて大変だったんですよ。」
「ポチ、あんたうるさい。」
「うぅ...」
「・・・ほら、朝食いくよ。早く食べ行かないの。」
「いきますっ!」
少し僕は安心した。・・・いやほんとに、泣かなくてよかった。
朝食が終わり、お楽しみへと向かった。
ゴロンゾが帰った後、「探検」と屋敷の中を回った。
だいたい見て周りこれが最後の中庭。二人ともが楽しみにしていた。だからお楽しみ。
ポチは本当に楽しみだったみたいだ。喜んで庭を駆け回っている。
・・・犬だからかな。
タマは・・・ポチとは反対側に居たと思ったけど姿が見えない。
座ったまま首だけ動かして探す。
ぽかぽかしていて気持ちがいいし、正直このままのんびりしていたい。
なにも考えずのんびりと、何が正しいのかも気にせず。
ただのんびりと時が過ぎていくのを楽しんでいたい気分だった。
不意に目の前を白いモノがひらひらと通り過ぎた。
そして、何か黒く大きいものが視界に飛び込んできた。
それは僕の顔に強烈な二連撃を与え、目の前に降り立った。タマだ。
おそらくは2度蹴り。方向転換用。壁代わりに、蹴飛ばされた。
タマはうつぶせになり、猫のポーズ。
両手を前に出し、体を引き狙いをつける。尻尾は楽しそうに振っている。
その先には白いチョウ。おそらくは目の前に飛び込んできた白いモノ。
タマはあれを追いかけていたのだと思う。体がうずいている、顔もなんだか猫っぽい。
猫じゃらしに反応する猫みたいに右手をすばやく突き出す。
・・・あっ逃げられた。
これもポチと同じ反射・・・なのかな。痛む鼻をさすりながらそんなことを考える。
こうしてみると本当に二人は普通のペット・・・女の子と変わりない。
二人とも存分に楽しんでいるようで、見ているとこっちも楽しくなる。
・・・だんだん二人もなれてきたかな。