確執
スマホをぎゅっと握りしめた手が小刻みに震える。
かれこれこの状態のまま三十分余りが過ぎていた。
今日は土曜日で仕事は休み。それなのにもかかわらず前日に夜更かしもせず二度寝もせず、午前六時には起床。
朝食はこんがりと焼き目のついたトースト二枚とコーンスープ、ベーコンエッグにバナナの入ったヨーグルトと胡麻ドレッシングのかかったサラダだ。
それをゆっくりと口の中へと放り込み朝の情報番組を見ながら、時が来るのを僕は待っていた。
窓の外では、これでもかというくらい太陽の光が明るくキラキラと世界を彩っている。鳥たちはそんな太陽に感謝でもするみたいに高い声で囀っていた。
「ふぅー……」
壁に掛けられた丸い時計に目をやり、九時になったことを確認した俺は、ゆっくりと深呼吸を一つした。
同時に額からはじんわりと粘り気を含んだ嫌な汗が滲んだ。
「よしっ、いくぞ……」
鼓舞するようにそう呟いて、僕はスマホに手を伸ばした。そして電話帳からお目当ての番号を素早く探しだす。
【アリス】
五十音順で表示される電話帳の中からその名前を探し出すことはとても簡単で、もう少し探すのに苦労したかったくらいだ。
しかし何分経ってもそれ以上、手が動いてくれない。
「何やってんだよ……」
なんで妹に電話するだけなのに、こんなに時間かかってるんだ。
妹とはあの出来事以来ほとんど口をきいていない――。
かれこれ5年以上だ・・・。
もう一回、精神を落ち着かせよう。
そう思ってスマホをベッドに投げた瞬間だった。
画面に親指が触れ、発信ボタンを押してしまった。
やばっ‼
慌てて切ろうかとも思ったが、くよくよ悩んでいても仕方がない。この勢いのまま乗り切ってやる。
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
プルルルル……。
プツン‼
出ることができなかったわけでもコール音に気付かなかったわけでもない。明らかに僕の電話に気付いておきながら故意に電話を切ったのだ。
懲りずに僕はもう一度【アリス】と表示された画面の通話ボタンを押す。
プルルルル……。
プルルルル……。
プツン。
「当たり前か」
ふんっと鼻を鳴らして僕は小さく笑った。
スマホをひょいっとベッドに投げ捨てる。
「お前の役目は終わりだ」
捨て台詞のようにスマホに向かって言った。
もう諦めよう。
アリスに電話して高校時代のアルバムとかあれば出しておいてくれって頼もうと思ったけど別にもういいや。
ふと、脳裏に夢で見た鹿沼との思い出が浮かび上がる。
ぐぬぬぬっ。
「あぁ、もう、わかった!」
やればいいんだろ。
「電話に出ないつもりなら、直接行けばいい。僕はもう、あの頃の僕じゃな
い。逃げない!鹿沼からも家族からも高校時代の思い出からも!」
壁に掛けられたリュックを掴み、玄関へと急ぐ。
「向こうが電話に出ないつもりなら、こっちから直接行ってやる。幸にも今日は土曜日だ。まっとけよアリス!」




