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招待状

 長時間の労働でクタクタになった身体を引きずるようにして、なんとか自分の家の扉の前にまで到着した。


「つかれたぁ~」


 今日は本当に疲れた。休み明けの月曜日というのもあって、いつも以上に疲労が蓄積されている気がする。


「おいおい、まだ月曜日だぞ。こんなんで金曜日まで乗り切れんのか?」


 ぼそぼそと独り言を吐き出しながら、俺は扉と一緒になっている郵便受けに目をやった。

 ん? 

 なんだ?

 そこには見覚えのない白い封筒が一通、丁寧に挟まれていた。

 

 普段、封筒なんて滅多に送られてくることがないから、きっと緊張していたのだろう。

 鼓動が妙に脈打っているのが自分でもわかった。

 どれどれ、いったい誰からの手紙だ?


「同窓会……?」

 

 そこには僕が通っていた高校の名前と同窓会という文字、それに代表幹事の名前が控えめに記されていた。


「ははっ……。なんだこれっ。僕をからかってんのかよ……」 


 僕は掴んでいた封筒をぎゅっと力いっぱい握りつぶした。

 メリメリと軽い音を立てながら、いとも簡単に封筒が変形する。


「ふざけんなっ‼」


 叫ぶと同時に、手紙を力いっぱい床に叩きつけた。

 不登校だった自分を馬鹿にされているような気がしてむしゃくしゃする。さっきまで疲れて重くなっていた体が不思議と今は軽くなっていた。

 怒りの力というのは恐るべしだ。

 いっその事同窓会をぶっ壊してやろうか!


 高校にさえまともに行ってなかった僕に同窓会の案内?

 行くわけないだろ‼

 誰が僕なんかに会いたいんだよ。

 そんなの分かりきってるくせに律義にこんなもの送ってくんじゃねーよ。

 

 いや、ちょっと待てよ・・・・・・。

 床に落ちた、くしゃくしゃの案内状を拾いながら、一つの考えに至る。

 むしろ、これはチャンスじゃないのか?

 同時に、今日会社で見た夢の事を思い出す。


 雨上がり。


 夕暮れの坂の途中。


 そこに立つ俺と鹿沼。

 美しい空を鏡のように映し出す水溜り――。


 そうだ、これはチャンスだ!


 神様の思し召しだ!


 会社で見た夢は前兆だったんだ!

 頻繁に同じ夢を見ているというのはこの際考えないようにしよう。

 僕はもうあの頃の僕とは違う。

 社会人になって変わったのだ。

 今は清潔感もある!

 コミュ力だって多少は身につけた!

 友達だって少ないけれど、いないわけじゃない!

 同時に手を振る新村の姿が頭に浮かびあがる。

 お前は今は出なくていい!


 興奮で自然と笑みがこぼれる。


 ンフッ、ンフフフッ‼

 

 好機此処に来たり‼

 決めた!出席する!

 見とけよ、これを機に絶対に鹿沼と仲良くなってやる。

 これからはそれが僕の生きる目標だ‼

 そして、あわゆくば鹿沼と恋仲になってやるっ‼


 僕はクシャクシャになった封筒からクシャクシャになった手紙を丁寧に取り出し、出席と印字されている箇所に勢いよくボールペンで○を付けた。

 先ほどまでの苛立ちとは別の熱が全身からふつふつとわいてくる。



 今からワクワクが止まらない!







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