ヒロイン属性-3
「私の胸を見てたのは悪いけど、殺すはどう考えても罰が重すぎるよ。それに、私殺人犯になりたくないし」
本日2回目の冷静なツッコミをありがとう。
僕は心の中で感謝の言葉を天使に贈る。
「ごめん。胸にフォーカスしすぎて水溜りの良さ分かってない……」
「ちょっとカッコよく言ってもダメだよ‼まぁでも、わかんないよね」
鹿沼の顔がすこしだけ曇る。
まるで何かに思いを馳せているような、微妙な表情をしていた。
「ご、ごめん」
「ううん、大丈夫。今までもそうだったし、私の言うことってあんまり理解されないんだよ」
もじもじと居心地を悪そうにしながら鹿沼ミハルは言った。
雨上がりの爽やかな空気とは裏腹に重い空気が僕らの周りに漂いはじめる。
やばい、何か話さないと気まずいぞ……‼。
「鹿沼……さんはさ、水溜りのどんな所が好きなの?」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに鹿沼の顔がぱっと明るくなった。
幸いにも僕の質問は彼女の機嫌を良くするくらいには力があったらしい。
子どものように無垢な笑顔を向けながら僕の質問に対して鹿沼ミハルは口を開く。
「鴫野君、もう一度水溜り見てみて」
そう言われてもう一度、水溜りをじっくりと観察してみる。
「何か気付くことない?」
「鹿沼さんと」
「鹿沼で良いよ」
「じゃ、じゃぁ鹿沼と僕が映ってる……」
「それ、それだよ鴫野君‼」
「ど、どれでしょうか、鹿沼さん」
鹿沼が「何で分からないの?」という風に首を傾げる。
いやいやいや、これで分かる奴の方が少数派だからね。
「鴫野君。私ね水溜りに反射する景色がすごく好きなんだよ」
そう言われてさらにもう一度、水溜りを真剣に見てみる。
こんなに水溜りに対して真摯に向き合ったのはきっと僕の人生で初めてのことだった。
確かに、水溜りには僕らの他にも美しい夕空や薄くて赤い雲、空を飛ぶ数羽の鳥なんかがくっきりと鮮やかに映し出されていた。
「吸い込まれそうだ」
自分でも驚くほど無意識に漏れるようにそんな言葉が出た。
「そう! それだよ鴫野君‼」
嬉しそうに鹿沼が俺を指さして微笑んだ。
「私は空の景色が好き。そして、水溜りはそんな私の大好きな空の景色をもっと鮮やかに限定的に加工してくれる存在なんだよ‼」
楽しそうに話す鹿沼を見ていると自分もなんだか楽しい気持ちになってきた。
「そうだね、そんな感じがする」
「たまにね、思うの。ここに映っている空は私たちが普段住んでいる世界とは別の世界の空なんじゃないかなって」
ちょっと待てい!!!
急に電波路線になったぞ‼
「べ、ベツノセカイ……?」
「そう。別の世界」
恥ずかしげもなく凛とした佇まいで鹿沼が言い切る。
可愛いは正義か?
何を言っても正解になるのか?
否っ!
「鹿沼さん?僕らって、今高二だよね?」
「もしかして鴫野君私の事、痛い奴っておもってる?」
「少しだけ……」
そう言うと鹿沼が笑い声をあげた。
「怒った?」
「これが怒ったように見えるの? 鴫野君が思ったより素直だから嬉しくて」
「なんだよそれ」
「そう言うとこだよ?」
「ど、どう言うとこだよ」
何気なく聞き返した瞬間、鹿沼の目がぱっと見開き驚いた表情を浮かべる。
「う、ううん!何でもない!間違えた、エヘヘ・・・・・・」
間違えたことを恥ずかしがっているのか、鹿沼は自分の頬を指で搔きながら力なく笑った。
鹿沼のペースについて行けず、僕は苦笑いを浮かべた。
鹿沼がここまで不思議ちゃんだったとは予想外だったぞ。
しかしそれが良い‼
心の中で「鹿沼サイコー‼」と叫ぶ。
「さっきの話に戻るんだけどね」
戻すのかよ!
どこまでマイペースなんだ。しかし、鹿沼の顔を見ているとツッコむ気にもなれず、諦めて僕は話を聞くことにした。
「はい、なんでしょう」
「私ね――――」
「おい! 起きろ‼ 鴫野‼」
強く体を揺さぶられ僕は閉じていた重い瞼を開いた。
なんだ、夢だったのか。




