もつべきものは...
スグリとの会話を切り上げ、僕は一人会場へと戻った。
スグリは気にしなくてもいいと言っていたけれど、さすがに二人で帰るのは気が引ける。それに、帰ってくるところを新村に見られでもしたら、その後がめんどくさそうだ。
だからスグリを先に会場へと戻し、それを見届けた後、さらに追加で3分空けて僕は会場へと向かった。
ちらりと腕時計に目をやる。
スグリと話していたせいで結構な時間がたってしまっていた。
僕は小走りでもといた席へと向かった。
「おせぇよぉ~」
新村が力なくテーブルに向かって項垂れている。
別の友達と話していてもよかったのに、律義に待ってくれていたことを思うとなんだか泣きそうだ。
「わるかったよ、にぃむらぁ~」
愛犬を愛でるように新村の身体を撫でまわす。
「うげぇ、やめろよ気持ち悪いな! 俺は犬じゃねえんだよ」
「おぉ、僕の伝えたいことがちゃんと伝わっているようだなぁ~」
「意味わかんねえことばっかいうな。てかお前トイレ長すぎ!」
「それはほんとごめんって」
そう言って新村が訝しむ。
「なんだよ。何か言いたいことでもおありですか?」
「おありもおあり、おおありだね!」
新村が大きく腕を組み、両方の鼻の穴から大きな煙をはきだす。
「言いたいこととは、なんでしょう?」
「お前トイレ行ってねえだろ。どこへ何しに行ってたんだよ」
どうしてこいつはこうも感が鋭いのか。味方だと心強いが敵に回すと末恐ろしい。
「トイレに行ってたのは本当だから」
「なんだよその言い方、怪しすぎるだろ」
じっとりとした新村の目がさらに重く細くなっていく。
「それにお前、なんか元気なくなってるんだよ」
「はっ? なってないし」
新村には僕の心の中なんてお見通しなのだろうか。
それとも僕が分かりやすいだけか?
どちらにせよ、僕は自分の感情をもう少しコントロールできるようにならないといけないらしい。
「ないことないんだよ。見ればわかんの俺そういうの敏感なんだよ」
ぐっ……。
新村がいい奴なのは分かるが、そっとしておいてほしい。けれど僕のそんな気持ちまでは察してくれる様子はなさそうだ。
「お前にはかなわないな」
ため息交じりに僕は言った。
「言え! 言いにくいことだとしてもお前は俺にちゃんと説明しろ。でなきゃ俺が同窓会のとても貴重な時間を無駄にした意味がなくなっちまうんだよぉぉぉ」
今にも掴みかかってきそうな勢いで新村が叫んだ。
その瞬間周囲の目がちらほらと僕たちに集まる。
咄嗟に横目でスグリの様子を伺ってしまう。スグリもまた僕らの様子をうかがっていたようで目が合った。
目が合った瞬間、スグリは慌てた様子で手に持っていたオレンジジュースのストローをくわえ俺に背を向けた。
なんだアイツ。
「おい鴫野! よそ見すんな!」
新村が両手で俺の肩をぶんぶんと揺する。
「分かった、悪かった!てかお前声でかすぎ。もう少し落ちつこ? 皆めっちゃ見てるから」
「周りの目なんて気にするお前じゃないだろ。職場での恨み~~~~」
「趣旨変わってるから! ちゃんと言うからもう少し静かにして!」
ようやく落ち着いたのか、新村の手がぴたりと止まる。そして流れるように、テーブルに置かれたコーヒーを口に運ぶ。
「じゃあ話せ」
そんな新村の言葉を合図に僕は要点だけを掻い摘んで簡単に事の成り行きを説明した。
もちろんスグリと話したことは黙って。
「そうか……お前の好きな人って鹿沼さんだったのか」
案外落ち着いた様子で新村が言う。
「あれ、お前あんまり驚いてないのな」
「ん? なんで驚く必要があるんだよ。鹿沼さんなんて学校でも超人気の女子だぞ。そんな子を好きな男子なんて、俺はゴミの数ほど見てきた。だからお前が鹿沼さんを好きなのは、もはや当たり前って感じなんだよ」
「やめて、ゴミって言わないで」
「それに引っ越したの知らなかったとか、お前本当に俺と同じ高校出身か?」
「それはしかたないだろ、本当に知らなかったんだから」
「まぁとにかくだ。今回は残念だったな。お前の初恋ははかなく散った」
「はあ? 散ってないだろ」
反射的に言い返してしまった。
「そりゃ、今どこに住んでるとか連絡先とか全然手掛かりはないけど、まだ散
ったとは限らないだろ!」
キョトンとした表情で新村が俺を見る。
まるで「何言ってんだお前」と言いたげなようなそんな顔だ。
「何言ってんだお前」
ほら言ったぁぁぁぁ!
やっぱ言ったぁぁぁ!
「何ってなんだよ」
「仮に今後お前が鹿沼さんを奇跡的に見つけ出せたとして、付き合える確率なんてこんなだから」
言いながら、人差し指と親指をくっつけて俺の前に突き出す。
「もうくっついてんじゃん。俺が付き合える可能性ってそんな低いの?」
「低いに決まってんだろ。鹿沼さんと付き合うってのはスグリちゃんと付き合うのと同じくらい夢見事なんだよ。わかるか?」
確かに、新村の言いたいことはわかる。学校で超、超、超人気、スーパーモテモテの女子に引きこもりの冴えない男子が告白して付き合える確率なんてほぼゼロに等しい。誰にでもわかることだ。成功することなんてそれこそ漫画やアニメみたいな世界だけの話かもしれない。
「それだけじゃない」
俺の心を読んで新村が続ける。
「それだけじゃない。俺たちが今現在学生だったなら0・1パーセントくらいはお前にもチャンスがあったかもしれない。けどもう俺たちは大人なんだ。高校生の青い恋愛とはもう訳が違うんだよ」
新村の言葉が矢のように身体に突き刺さる。
「新村お前はどこまでリアリストなんだ? お前本当に男か? もっとさあ夢見ていこうぜ……」
「まあそれでも、諦めきれないなら付き合ってやるよ」
「はあ? お前と付き合っても俺の心は満たされないぞ。お前はどうか知らんけど」
「そうじゃないだろ! お前の頭はどこまでバラ色なんだよ! 付き合ってやるってのは鹿沼さん探しのことだよ」
俺の中の暗くなってしまった心がぱっと輝くような気がした。
「にぃむらぁ……」
「すぃぐぃのぅ…………じゃぁねーんだよ。そういうことだからしゃんとしろ」
ふざけつつも新村の優しさに感謝する。
いい奴とは思っていたがここまでいい奴とは、いつか恩返ししないとな。
僕は席を立ちあがり新村を一直線に見つめる。
「ん、どうした? 食べ物とってくるのか?」
「新村ありがとう。もうここにいても意味ないしとりあえず帰るわ!」




