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仲良くなりたい


「二度と会えないってどういうことだよ」


 動揺を隠しきれないまま、今度は僕からスグリの方へと詰めよる。


「どういうことって、そのままの意味よ」


 胸の前で腕を組み吐き捨てるようにスグリは答える。いつもは宝石のように綺麗で可愛い瞳が今は鋭く冷たさを帯びているように見えた。


「全然わかんないから。意味不明だから。百歩譲って、今日は出席してなくて

会えないのはわかるよ。でももう二度とってそれは言い過ぎじゃない?」


 自分の声が震えている。


額からはねっとりとした汗が滲み、動悸が激しくなっているのがわかった。

もう二度と鹿沼と会えない。

頭の中で何度もスグリの言葉が反響する。スグリは偉そうで我儘な奴だけど、こんなくだらない嘘をつくような奴じゃないのは、一番よく知っている。

だからこそ余計に、鹿沼と会えないかもしれないという不安と焦りが僕の身体を満たしていった。


「あんた鹿沼さんのこと好きだったのよね?」


「あぁ、そうだよ」


 正確には「好きだった」ではなく「今でも好き」というのが正解なのだが余計なことは言わないでおくことにしよう。


「嘘ね」


「はぁ? 何が嘘なんだよ」


「鹿沼さんのことほんとに好きなら、もっとあの子のこと知ってるくない?」


 スグリは僕の知らない鹿沼のことを何か知っている。というかむしろ僕が知らないことがさもおかしい事なのだと言っているような、そんな言い方がどうも僕の中で引っかかっていた。


「不登校だったんだから仕方ないだろ。友達だってお前くらいしかいないし」


「へぇ~、不登校だったのは知ってたけど、あんたが私の友達だったってのは知らなかったわ」


 そう言いつつさっきまで軽蔑するような目で見ていたスグリの表情が次第に柔らかくなっていく。


「そういうの今はいいから、ちゃんと教えてくれよ。なんで僕が鹿沼と二度と会えないのか」


「別にあんたがってことでもないけど、はぁ~、仕方ないわね。あんたが馬鹿でどうしようもなく無知だからこの綺麗で美しい私が心優しく教えてあげるわ」


 そう言ってスグリは一呼吸間をおいて、前髪を整えながら再び口を開けた。


「鹿沼さん、行方不明なのよ」


 予想もしていない返答に言葉がつまる。


 行方不明? 


 鹿沼が?


 思考の整理が追いつかず、頭から煙が出そうだ。それでも僕は必死に言葉を絞りだそうと試みる。ていうか、そうしないと真実が分からない。


「行方不明ってどういうことだよ」


「だーかーらー、そのままの意味だって。行方が不明なのー」


 言いながらスグリは両手で目を覆った。


「クラスメートが行方不明だってのに、何でそんなに楽しそうにしてられるんだよ」

 

 まるで鹿沼を……初恋の相手を、馬鹿にされたみたいな気がして腹が立つ。

 行方不明が本当なら、スグリのこの態度はどう考えても不謹慎ではないか。


「なにむきになってんのよ。行方不明って言ったって別に事件とかそういうのじゃないわよ」


「じゃぁ、どういうのなんだよ」


 わざとらしく大きなため息を吐き、渋々といった風にスグリが話し始める。


「不登校だったあんたは知らないと思うけど、鹿沼さんはね卒業式の1カ月前に、どこかへ引っ越しちゃったのよ」


「はぁ?」


 自分の知らなかった衝撃の事実に僕は再び言葉を見失ってしまった。

 それに、スグリが言った「どこか」へという部分がかなり気になる。


「どこかってどこへ引っ越したんだ?」


「それが誰も知らないのよ」


「誰も知らないなんてことはないだろ」


 鹿沼は学園でもかなりの有名人だった。

 校内で彼女の名前を知らないやつなんて一人もいないはずだ。だからきっと僕と違って、友達も多いだろうし引っ越し先くらい知ってるやつがいても何ら不思議はない。というか誰も知らないという方が不思議すぎるくらいで気味が悪く感じる。


 なのに、誰も知らないってどういうことだ?


「ほんとに誰も知らないのよ。生徒どころか先生も知らないらしいし」


 スグリの発する一語一語が僕の頭をかきまぜていく。


「ま、まって。とりあえず、話をまとめてみると、鹿沼は卒業式の1カ月前に突然転校した。そして、その行き先を知っている人間は、誰一人としていない。だから、今回の同窓会も欠席している。それどころか引っ越し先も分からないから招待状すら送れてないってことであってる?」


「概ね」


「概ね?」


「そう、あんたの言ったことには一つ間違いがあるわ。鹿沼さんは卒業式一カ月前に転校したわけじゃない。どこかへ引っ越しただけよ。だから籍は私たちの学校のままだし、卒業式だって出席する予定だったはずよ」


「じゃぁ引っ越した後も、そのまま学校に登校していたってこと?」


「いいえ、うざいことにあんたと同じで鹿沼さんも学力は高かったから、卒業式以外の出席は任意になっていたはず。だから引っ越してから鹿沼さんが登校してきた日は一度もないと思う」


「思う?」


「いちいちうるさいわね。鹿沼さんが登校してたかなんて私が覚えてるわけないでしょ! あの子、ずっと私のこと避けてたみたいだったし」


 スグリが鋭い目つきでこちらを睨み、ぎりぎりと大きな歯ぎしりをし始めた。


「そんなに鹿沼と仲良くなりたかったの?」


「ちがーーーーーーーーうわよ!!!! ただ思い出してムカついてただけよ!!!」


 よほど、僕の言葉が癇に障ったのか今度は両手で僕の胸をどすどすとついてくる。


「わかった、わかったから、痛いって」


 そう言って、さっきと同じように今度は両手でスグリの手を制止させる。


「きゃっ////」

 寸分の狂いもなく、さっきと全く同じ反応をするスグリに対して呆れつつ、僕は言ってやった。


「スグリさん、わざとやってます?」









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