だれ?
「まさか、お前が同じ高校だったとはな」
トイレを出て、受付を済ませてからも新村は驚きを抑えきれない様子で何度も言った。
「それ何回目だよ。僕も驚いたけどさ、こんな嬉しいことないじゃん?」
「ん、まあ、そうかもな」
新村と一緒にいた男は、いつの間にか少し離れた場所で別の友人と一緒になっているようだった。
そんなわけで僕と新村はしばらくの間、二人で行動することとなった。というか僕が助けてくれと頼んだわけなんだけど。
「鴫野って高校の時、何組だったの?」
テーブルに並べられた、豪華なホテルの料理を皿に盛りながら新村が言う。
「んー、あー、えーと……」
僕たちが通っていた奈津代高校は、1学年あたり6クラスあり、あまり学校に行ってなかった僕はもちろん3年間のクラスなんて記憶から抜けてしまっていた。
言いよどむ僕を見て、新村が呆れた表情を浮かべながら口を開く。
「お前3年間、どののクラスだったかも覚えてねえのかよ。どんだけ高校に愛なかったんだよ」
高校に愛なんてあるものか。
僕は不登校なんだぞ。
とにかく、新村は僕が不登校だったことは知らないようだ。とすると同じクラスになったことはきっと無いのだろう。不登校になってるやつというのは、名前だけは目立つからな。
「新村は何組だったの?」
「ん、俺? 俺は、6組と6組と6組」
自信満々に新村がドヤ顔をした。
「全部6?」
驚きを隠しきれず聞き返す。
「そう! すっげーだろ!」
「いやそこまで、胸張れることじゃないだろ。てか全部6とかむしろ不吉じゃ
ないか」
「そう、そこに気付くとは鴫野もやるな。高3の頃は6が三つ揃ったものだから、野獣って呼ばれていたものだ。ほれ」
唐突に新村が横を通りかかった男に声をかけた。
「よっ! 野村、元気そうじゃん」
「野獣久しぶり! そっちこそ元気だった?」
手短に挨拶をすまし、野村という名の男は別のグループへと帰っていく。
「な?」
またまた、新村のドヤ顔が出た。
『別にそんなこと、どうでもいいよ』とは流石に言えず、適当にうなずいてみせる。
新村はよしよしと満足げに笑った。
その時、ふと新村が手に持っている皿が目に入った。皿の上には豪華なホテルの料理が乱雑にかつ、零れんばかりに盛りつけられている。
「おっ、おい盛りすぎだって」
「はぁ、何言ってんだ? こんなのまだ序の口だぜ。プロローグにすらなってねえよ!」
「それは分かったから、とりあえずその分は先に食べよう? そんで、なくなったらまた取りにいけばいいだろ」
新村は少し不満そうな表情をしたが、言い返してくることはせず、渋々「へ~い」とだけ返し、僕らはテーブルに向かった。
座ってから改めて会場を見渡してみると、席についている者と、立っている者とでちょうど半々くらいに分かれていることに気付いた。
ていうか、そもそもこんなに出席率が高いとは思はなかった。
これ150人くらいは余裕で来てるんじゃないか?
パッと見だったが、その時鹿沼の姿を発見することはできなかった。
「おっ、おい、あれ見ろよ!」
声を弾ませ嬉しそうに新村が言った。
「んっ、ごふっ‼」
急に言われて、驚いた僕は食べかけていたフライドチキンをのどに詰まらせた。
「おい大丈夫か? しっかりしろよ。これ飲め」
新村が水の入ったグラスを差し出す。
たくっ、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ。とは言えずに差し出された水を一息に飲み干した。
「で、何の話だっけ?」
「あそこだよ。ほら」
新村が持っていたフォークで会場の入り口近くを指す。そこには20人くらいの人だかりができていた。
しかし、20人全員で思い出話に耽っているという様子ではなく、中心にいる一人にその他全員が群がっているように見える。
こっちからではその中心にいる人物が誰なのかまでは目視ができない。
「やっぱ、可愛いよなぁ」
とろけるような顔で新村が言った。
いつものニヤニヤ顔がさらに強調されている。
ん?
ってか、ちょっと待って。
いま可愛いって言った?
それってもしかして――。
いつのまにか自分の鼓動が高鳴っていた。
期待が膨らみ、僕は新村に問いかける。
「こっちからよく見えないんだけど、誰が可愛いって!!」




