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親友


「あぁ、何でこんなことになっちまったんだよ……」


 同窓会受付終了まで5分を切ったころ、俺はまだ受付を済ませることができずホテルトイレの個室に、用を足すわけでもないのに座っていた。


 どうしてこうなった?


 途中までは良かったんだよ?


 そう、連絡通路で自分を漫画の主人公のようだと思い意気込んだ所までは良かった……。なのに、会場が近づくにつれ、俺の鼓動は早太鼓のように激しさを増し、足は地面に根がはったように動かなくなった。


「結局、なんも変わってないじゃん」


 頭が真っ白になったところで、僕は回れ右をして、そのまま受付に向かうことを諦めてしまった。

 その瞬間だけは流石に鹿沼のことさえも、どうでもよくなっていたほどだ。

 トイレに向かう途中、視界に入る者たち全員が、自分をあざ笑っているように思えた。

 呼吸も荒くなり、胸を抑えたところで治まることはなかった。

 ねっとりとした嫌な汗が全身から吹き出していた。

 まあ、でも良くやったよな。

 そうやって、言い訳のように自分自身を慰める。

 不登校のくせに、よくここまでちゃんと来たよ。

 うんうん、偉い偉い、いや~やり切った。

 会場入るとか普通の神経じゃ無理だし。

 行動を起こしたその勇気だけでも認めてくれるよね。あははは……。

 

 ぎゅっと拳を握り歯を食いしばる。

 それがダメだということは自分が一番理解しているんだ。

 そんなんじゃダメなんだよ。ちゃんと鹿沼に会わないと、今の僕を見てもらわないと、このまま何もせずに帰ってしまったら、初めから何もしてないのと一緒じゃん……。

 便座の上で体育座りになり顔をうずめる。

 いくつもの思いが葛藤し、自分がどうしたいのかも、もう分らなくなってしまった。


 その瞬間だった。


 コツコツという足音と共に、二人の男がトイレに入ってきた。


「でさ~、それがめっちゃ面白いの」


「お前まだ、そういうの好きなのかよ。だから彼女できないんじゃねえの?」


 声色は若く二十代っぽい。

 もしかすると同窓会の出席者だろうか。

 そう思った瞬間胸がきゅっと縮み上がる。

 早く出ていってくれよぉ。

 念仏を唱えるように何度も何度も、その言葉を胸の奥で繰り返す。


「はあ? 俺が彼女できないのはそういう趣味だからとかじゃねえし。ただ出会いがないだけ」


「出会いならあるだろ。お前の会社、女性社員が多いんだろ?」


「多いけど、会社の奴らは俺のこと見世物としか思ってねえから!」


 男がそういった瞬間、稲妻に打たれたような感覚がして、僕は無意識に声を出してしまっていた。


「「はあ?」」


 僕の声ともう一人の男の声が重なる。


「ん? 今そこから声しなかった?」


 きっと、僕の入っている個室を指さしながら言ってるんだろうな。

 さっきまでの腰抜け具合とは打って変わり、僕は毅然とした態度で便器から腰を上げた。


「あぁ、俺も聞こえた……ってかあの」

 

 男が言いかけた瞬間、僕は勢いよく個室の扉を開ける。

 狭いトイレにバンッという大きな音が響いた。

 二人の男が視界に入り、その内の一人を見て僕はニヤリと笑った。

 そんな僕を見た瞬間、男は目を丸くしあんぐりと口を開けた。

 隣にいたもう一人の男は状況がつかめていない様子で、どこか上の空といった表情をしている。


「よっ」


 右手を上げて僕は軽く挨拶する。


「なんで、お前がここにいるんだよ! 鴫野‼」



 僕を指さしたまま新村が叫んだ。







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