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突撃

『次は春前ー、次は春前ー。お降りのお客様は――』

 降車する駅のアナウンスが電車内に響き渡り、僕は重くなっている瞼を上げた。

 くそ、良いところだったのに。

 例によって鹿沼ミハルの夢を見ていた僕は両手で目をこすりながら、夢の続きを見られなかったことを嘆いた。

 しかし、夢のことなど、最早どうだっていい。 

 今日は何といっても、大人になった鹿沼ミハルに会える日なんだ。

 今日が記念すべき僕のリスタートの日、人生のターニングポイントといっても過言じゃないぞ。


 うふ、うふ、うふふふふふ。


 震える拳にぎゅっと力を込める。

 なぁに怖いわけじゃない。これは武者震いだ。


 春前駅は地元の中心地にあり、都内の方と比べても比較的発展している大きな駅だ。

 最近やっと、大規模な増築工事も終わり近未来的な外観の駅ビルも建設されたばかりで想像以上に駅には人の影が多かった。


「へぇ~大きくなったな」


 親戚のおじさんか!と心の中でツッコミを入れつつ、僕は案内板で同窓会の会場であるホテルの名前を探してみた。

 天井にかかる案内板を指で一つずつ慎重に確認していくと、目的のホテルの名前はすぐに見つかった。

 ルートを確認できたところで、腕時計へと目を向けた。

 時刻は四時四十五分を指している。

 今からホテルに向かえば、早くもなく遅くもないってところかな。

 同窓会には来たものの出来る限り目立ちたくはない。目的は鹿沼に会うことであって、学生時代の奴らと仲良く昔話をすることじゃないのだ。というか、学校行ってないから話す内容とか全くないし、知ってる人もほとんど居ないだろうし・・・・・・。

 想像するだけで、ため息が零れた。

 

 あぁ、めっちゃ帰りたい・・・・・・。


 心が折れそうになる度に頭の中で鹿沼ミハルを思い出し、その場を凌いだ。

とりあえず、最初の難関は入り口でのサインだな。

 自分が会場入り口で名簿にサインを書き受付から名札を受け取るところを想像してみる。 

 社会人になったことでコミュ障な部分はかなり改善されたものの、少しだけ鼓動が激しくなるのが分かった。

 すんなり行けるだろうと思っていたが、考えが甘かったようだ。

 そっと右手を胸にあててみると、そこには微量ながらも明らかな緊張があった。


ふうううううぅぅぅぅぅぅ。


 目いっぱいに息を吸い込み、そのまま吐き出す。

 

 緊張するな‼ 想像するんだ‼


 頭の中で鹿沼ミハルの姿を想像する。なぜか少しだけ露出の多い想像の中の鹿沼ミハルは透き通るような白い肌でガラス玉のような大きな瞳を僕に向けていた。

 いつの間にか緊張はほぐれ、表情が緩みだすと自然と下品な笑みが零れた。


 うふ、ぐふふふふふ。


 だめだ。鹿沼のことを想像するといつもこうだ……。だけど可愛いから仕方ない。俺が悪いんじゃない‼


 よし、気持ちも切り替わった。


 目的地は目の前だ‼


 待ってろバラ色の人生。

 

 待ってろターニングポイント。



 僕は威風堂々と胸を張り、ホテルにつながる連絡通路へと足を向けた。





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