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9話

 銀色のツインテールにとがった耳。

 澄んだアメジストの大きな瞳と長いまつ毛。


 それだけ見れば、可憐な美少女という印象だが。


(とんでもない恰好してるぞ。いったいどうなってるんだ?)


 思わずその体に視線が向いてしまう。


 ほとんど裸同然の煌びやかなボンテージの際どい衣装。

 谷間はエグいくらいに開いており、大きな胸が今にもこぼれんばかりだ。


 そのえちえちな体つきは、童顔で可愛らしい顔立ちとは対照的で、なんともアンバランスで官能的である。


 腕には黒のレースグローブをつけ、フリルのミニスカートからは瑞々しい網ストッキングの美脚が覗けていた。


 男の煩悩をそのまま具現化したような、まさに童貞を殺すに相応しい恰好と言える。


 が、そこでゲントはある違和感に気づく。


 少女の体にばかり目が行っていたが、ふつうの人間にはあり得ないものがついていることに。


(羽だよな、あれ)


 少女の背中からは、小ぶりの黒い羽が生えていた。


 それだけじゃない。

 頭には2本の小さな黒い角があり、お尻のあたりから黒いしっぽが生えているのが見える。


 どこからどう見てもサキュバスだった。


 気になることはまだいろいろとあったが、さすがにいい歳した大人のおっさんなので、それ以上ジロジロと覗き見るようなことはしない。


 あくまでも紳士に対応する。


「あの・・・大丈夫ですか?」


 サキュバスの少女は目を閉じたまま、宙で体育座りの恰好をしていた。

 ひょっとしたら眠っているのかもしれない。


 年齢は中学生くらいだろうか。


 フェルンよりもさらに若いかもしれないとゲントは思う。


「・・・」


 その時。

 瞼をぱちりとさせて少女は大きな瞳を覗かせる。

 

 そして、いきなりゲントに抱きついた。


「マスター! ありがとうございますっ~!!」


「って・・・はい?」


「この時をずっ~と待ってましたぁぁ~~♪」


 羽をぱたぱたとさせながら、サキュバスの少女が嬉しそうにまとわりつく。


 あまりに突然の出来事にゲントもなにがなんだかわからない。


「えっと・・・きみ、誰?」


「あっ! 自己紹介がまだでしたね♪ 魔界第9区域出身のルルムと申します~。よろしくお願いしますね、マスター!」


「魔界?」


「はい~♪ 魔族になります!」


 あっけらかんと、さも当たり前のようにサキュバスの少女――ルルムはそう口にする。


(なんか開けちゃいけないパンドラの箱を開けてしまった感じ?)


 只でさえ今は困った状況にあるのだ。

 厄介事を抱えてしまったようで、思わずゲントは頭を抱える。


「ぜひルルムちゃんと呼んでください♪」


「うーん・・・。困ったな」


 ゲントは人差し指をこめかみに当てる。


「ええぇっ!? どうされましたマスター!? 頭が痛いんですかぁ~!?」


「いや、大丈夫。それで・・・。きみはなんでこんなところにいたの?」


 しかも魔剣の姿で。

 疑問は溢れて止まらない。


 だが、当の本人もそれについてはよくわかっていない様子だ。


「えっとぉー。それはルルムにもわからないです。なんでこんなところにいるんでしょう?」


「さあ? でも自分の名前はわかるよね?」


「あと年齢もちゃんと覚えてますよ~。ちょうど1万5000歳になります♪」


「1万5000歳・・・?」


「はい~☆ と言っても魔族にとっての1000年は、ヒト族の皆さまにとっての1年くらいですので、ヒト族換算で15歳といったところでしょうか~♪」


 どうやらそういった基本的な情報は覚えているようだ。


「それで。この時をずっと待ってたっていうのは?」


「えっと・・・長い間、ずっと待ってた気がするんです。どなたかルルムを見つけてくださるのを」


「それを俺が見つけたってこと?」


「はい♡ だから嬉しいんです~♪ ありがとうございますマスター!」


 サキュバスの少女はふたたびゲントにぎゅ~と抱きつく。


「ごめん。さすがにそういうボディタッチは困るんだ」


「ふぇ? なんででしょう?」


「倫理的にね。それにいろいろと当たってるから」


「っ!? し、失礼しましたぁ~~!?」


 羽をぱたぱたとさせながら、宙で何度も転回して謝るルルム。

 いろいろとツッコミどころの多い少女だ。


「それに俺、40のおっさんだし。かなりマズいと思う」


 たとえ相手が1万5000歳だとしても、その見た目は明らかに未成年だ。


「おっさんだなんて・・・とんでもないですよぉ!! マスターは超絶イケメンですっ! お若いですっ!! かっこいいです~♪」


「イケメンなんて人生ではじめて言われたけど」


「ルルムは大好きですよぉ~~♡」


「うーん・・・」


 なんかよくわからないうちにサキュバスの少女に懐かれてしまったようだ。

 出会ってまだ5分も経っていないのに。


 ひとまず抱きつかれているところを誰かに見られたらマズい状況であるのは確かだった。


(ん?)


 そこでゲントは立ち上がったままのパネルが切り替わっていることに気づく。


 そして。


 そこに表示された文字を見て目を見開くことになる。


==================================


 座標の力が発動しました。

 これにより、ユニークスキル【太刀奪い】は【抜剣覚醒】へと昇格します。


==================================


 なんだかよくわからなかったが、魔剣を抜いたことでスキルが昇格を果たしたらしい。


(スキルの覚醒なんかは、異世界作品の定番展開って言えるけど・・・)


 果たしてこれはチートと言える性能を有しているのだろうか?


「ステータスオープン」


 気になったゲントは、魔晄に呼びかけ光のパネルを立ち上げてみることに。


==================================


【トウマ・ゲント】 


Lv. 1


HP 100/100

MQ 0


魔力総量 0

魔力 0


魔法攻撃力 0

魔法防御力 0


火属性威力 0

水属性威力 0

風属性威力 0

雷属性威力 0

光属性威力 0


筋力 5

耐久 5

敏捷 5

回避 5

幸運 5


クラスF

堕威剣邪


[ユニークスキル]

【抜剣覚醒】


==================================


 ユニークスキルの項目が変化したくらいでほかに変わったところは無さそうだ。


「それでマスター! これからいかがしましょうか?」


「えっと・・・。これからついて来る感じ?」


「はい♪ もちろんです~!」


「ごめん。今ちょっと取り込み中なんだよね」


「?」


 そこでゲントはルルムに手短に事情を説明する。

 それを聞くとルルムはぽんと手を叩いた。


「そういうことでしたらお任せください! ルルムもきっとお役に立てると思います~♪」


 どうやらついて来る気満々のようだ。

 

 こうしてゲントは見知らぬサキュバスの少女と一緒に行動をともにすることになった。




 ***




 そのまましばらく2人で道を進んでいると、遠くの方から声が聞えてくる。


「あっ! マスター! どなたか呼んでますよ~?」


「本当だ」


 人影が手を振っているのが確認できる。


 やがて。


 輪郭がはっきりしてくると、相手がフェルンであることがわかった。


 ゲントはルルムと一緒に急いで駆けつける。


「フェルンさん!」


「ゲント君っ! よかった・・・。無事だったんだね」


「すみません。なんか寝ている間にべつの場所へ飛ばされてしまったみたいで」


「こっちこそすまなかった。私も認識が甘かったよ。ダンジョンの中を進まなければ、飛ばされる心配はないと思ってたから」


 ホッと胸を撫で下ろすフェルンの横で、ルルムが小声で話しかけてくる。


「マスター。この方がさっき話されてたフェルンさんですか?」


「え? ああ、うん。ここまでいろいろと助けてもらったんだよ」


「そうでしたか! ということは、マスターの恩人というわけですね♪ ルルムもぜひご挨拶させていただきますっ~!」


 ルルムは宙にふわふわと浮きながら、フェルンの前でぺこりとお辞儀する。


「はじめまして~♪ 魔界第9区域出身のルルムと申しますっ!! マスターがお世話になりました!」


 だが、フェルンは無反応だ。

 というよりも、ルルムが目に入っていない様子だ。


(あんな裸同然の恰好したサキュバスの女の子なんて、真っ先に目に入るものだと思うんだけど・・・)


 それからルルムがわーわーと騒ぐも、まるで気にすることなくフェルンは話し続けていた。


「マスターぁ~・・・。なんかルルム、嫌われちゃってるみたいですぅ・・・ぐすん・・・」


「いや、ひょっとすると視えてないのかもしれない」


「ほぇ?」


「ちょっと試してほしいことがあるんだ」


 フェルンに気づかれないようにゲントは耳打ちする。

 ルルムはこくんと頷きながら、大きな胸に手を当てた。


「わかりました! やってみますっ~!!」




 ***




「――それで、そっちはなにか変わったことありました?」


「ううん。特になにもなかったよ。あ、でもここへ来るまでの間、モンスターに一度も遭遇してないね。変わったことと言えばそれくらいかな」


「こっちもモンスターとは一度も遭遇してないです」


 ゲントはその他に変わったことはないかと訊ねる。


「たとえば・・・。今、目の前で変わったことが起こってるとか」


「? なにか異変があるのかい?」


 ここでゲントが目配せすると、ルルムが突然フェルンに抱きついた。


「失礼しまぁ~す♪」


 ぷにぷにとあらゆるところを触るルルムだったが。


(やっぱり)


 フェルンはまるで反応がない。

 ルルムもようやく自分の姿が視えていないことがわかったようだ。


「マスターぁ・・・。なんかルルム、視えてないみたいですぅ・・・」


「そうだね」


「どうしましょうぉぉ~~?」


「理由はわからないけどちょっと様子をみよう」


「ぐすん・・・わかりましたぁ・・・」


 かなり寂しそうにしながら、ルルムはフェルンから離れる。


「あのー。ゲント君? さっきからひとり言をぶつぶつと呟いてるようだけど・・・大丈夫?」


「え? あ、はい」


「まさか変わったことって・・・キミ自身のことを言ってるのかい? なにか変なものでも食べたんじゃ・・・」


「ごめんなさい。特に変わったことがないんならいいんです。さあ、先を急ぎましょう」


「?」


 不思議そうに首を傾げるフェルンを置いて、先を歩き始めるゲント。


「ひとまずフェルンさんの前ではあまり話をしないようにしよう」


「ラジャーです!」

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