21話 レモンSIDE
――幻影飛魔天 第7層――
そのあと。
レモンはうしろからゲントを監視するようにしてダンジョンを進んでいた。
今のところこれといって不審な行動は取っていない。
「あの・・・レモンさん?」
「なに?」
振り返ってきたゲントに素早く銃口を向ける。
「いや。ちょっと歩きづらいなぁと思いまして」
「気にしないで」
「と言われましても・・・」
ただそれ以上、ゲントがなにか言ってくることはなかった。
言っても無駄だとわかったのだろう。
ふたたび前を向いて歩きはじめる。
もう1時間近くこんな感じで、ただひたすらにダンジョンの通路を歩いていた。
(やっぱり嘘なんだよ)
ここまでの間、ゲントが剣を抜くような素振りは一度もなかったからだ。
が、ここでレモンはハッとする。
(でも・・・ちょっと待って。なんかおかしくない?)
1時間もダンジョンを歩いていて、一度もモンスターと遭遇しないなんてことが果たしてあるのだろうか。
もうすでに第7層まで下りて来てしまっている。
確率的にあり得ない、とレモンは思う。
それに気づいた瞬間、背筋が一気にゾッとするのを感じる。
まさかと思いながら、レモンはおそるおそるゲントにそれを問い質していた。
「たしかにそうですね。今のところ、モンスターはぜんぶ倒しちゃってます」
「ハ・・・?」
「あ、そうでした。第5層より下は透明なモンスターしか出現しないみたいなので。レモンさんには視えてなかったですよね。あの・・・なにかマズかったでしょうか?」
「いやいや! どーやって倒してたの!? 剣は一度も抜いてないじゃん!」
「いえ。ふつうに使ってましたけど」
さも当然のことのように、さらっとゲントは口にする。
「あ、でもそうか。青銅の剣を使うのを忘れてたな。いつもの癖で・・・」
なにやら自己完結するような、そんなひとり言をゲントは呟く。
(いったいなんなの・・・)
どこか焦りにも似た感情を抱きながら、レモンが悶々としていると。
ぴたり!とゲントが突然その場で立ち止まる。
「ちょっと、いきなり止まらないでよー!」
「ごめんなさい。けど・・・少し厄介なところに踏み込んでしまったみたいでして。すみません、話に夢中でつい」
謝罪しながらゲントは、ここでようやく腰にぶら下げた青銅の剣を引き抜いた。
2人は今、あるフロアに足を踏み入れていた。
レモンの目にはだだっ広い空間がぽつんとそこにあるだけだが。
「・・・」
ゲントの表情はこれまで見たことのないくらい真剣だった。
剣を構えながら、空っぽの空間をゆっくりと見まわしてこう口にする。
「レモンさん。今回はちょっと手伝っていただくかもしれないです」
「手伝うってなにを?」
「どうやらモンスターハウスみたいです。ここ」
「モンスターハウス・・・?」
「あれ? やっぱりこっちの世界だとこの表現は伝わらないんですね。ごめんなさい。なんでもないです」
またもなにか自分の中で完結するようにゲントは頷く。
とにかくレモンとしても、ここらあたりが見限るタイミングだった。
(はぁ、なんかもう疲れちゃったよ。やっぱ帰ろ・・・)
自分でもすごく混乱しているのがレモンにはわかった。
このままこの中年男と行動をともにしていても神経がすり減るだけだ。
そう思い、今度こそ踵を返そうとするレモンであったが。
「レモンさん! 危ない!」
「えっ・・・」
またもそんなかけ声が飛んできたかと思えば。
(!?)
ビュゥゥ!!
先ほどと同じようにレモンはゲントに抱きかかえられ、一瞬のうちにフロアの端へと移動させられる。
すぐその場に下ろされると、魔弾銃を構えるようにとゲントに指示された。
「たぶん、自分だけだと捌ききれないと思うので」
「まさか・・・モンスターがこのフロアにいるの?」
「はい。それもかなりの数です。400体、450体・・・いや、それ以上いるかもしれません」
「そんなに!?」
レモンの視界には、なにもない空間がそこにぽつんと広がっているだけ。
こんな中にそんな多くのモンスターがひしめき合っているなど到底想像もできない。
しかし、次の刹那。
「レモンさん、右斜め上に2発撃ち込んでください!」
「!」
その言葉にレモンの体は反射的に反応する。
ずぎゅーーん!!
照準を合わせる間もなく、ぽっかりと空いた空間に魔弾を撃ち込んでいた。
(・・・っ)
予想外の行動をとった自分にレモンは驚く。
ひょっとすると、心のどこかで彼の言葉を信じていたのかもしれない。
そして。
レモンはその選択が間違いではなかったことに気づく。
ぼとん!
(え、うそ・・・)
その場に姿を現したモンスターの亡骸を見て、レモンは思わず目を疑った。
「お見事です。今度は左斜め方向に3発連射でお願いします!」
「・・・う、うん、わかった!」
魔弾銃をすぐさま構え直すと、レモンは指示された方角へ魔弾を撃ち込んでいく。
すると。
ぼとん! ぼとん!
今回もモンスターの亡骸が折り重なるようにしてその場に姿を現した。
(そんな・・・。ホントに透明なモンスターの姿が視えてるってこと!?)
ゲントの方へ視線を飛ばせば、彼はなにもない空間で、目にも留まらぬ速さの殺陣を繰り返していた。
きっとモンスターと戦っているに違いない。
それを見てようやくレモンはゲントのことを信用する。
「レモンさんっ! 俺の後方に魔弾を2発お願いします!」
「りょーかいっ!」
ライフルをふたたび構え、指示された方向へレモンは魔弾を放つのだった。




