11話
「痛みを引き抜く?」
『はーいっ♪ 英霊さえも引き抜けたんですっ! マスターならそれくらい余裕だと思いますよぉ~?』
突拍子もない考えに思えたが、たしかに理に適っているとゲントは思った。
「ちょっとやってみるよ」
『わかりましたっ~! ルルムも力をお貸ししますねっ☆』
一度フロアに動きがないことを確認すると、ゲントは轟斬猛怒に切り替え、葬冥の魔剣の剣先を自らの胸元に突き立てる。
(大丈夫。きっとうまくいく)
ゆっくりと息を整えると、ゲントは意を決してそれを思いっきり自分の胸に刺した。
ザシュッッ!!
貫通するような感覚がたしかに手を伝うも、体の痛みはまるで感じない。
そのまま痛覚を抜き取るイメージを膨らませていく。
そして、思いっきり魔剣を引き抜いた。
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轟斬猛怒の権能により、
アビリティ《痛覚無効》を獲得しました。
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[アビリティ名]
痛覚無効
[レア度]
S
[種類]
永続
[効果]
あらゆる神経を遮断し、痛覚を無効化する。
また、すべての属性攻撃に対する耐性を微小ながら得る。
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光のパネルがふたたびゲントの前に立ち上がった。
『マスター! やりましたよっ~!!』
「なんとかなったみたいだ。ありがとう」
『ルルムはなにもしてませんよぉ~♪ すべてマスターのお力によるものですっ!』
そんな嬉しそうな声が返ってくる。
とにかくこれで準備は整った、とゲントは思う。
(あとは実際にガノンドロフに近づいて倒すだけだ)
***
魔剣からもとの姿に戻ったルルムとともに、ゲントはフロアの片隅に目を向ける。
進化したガノンドロフは不気味にその場で佇んでいた。
「大丈夫ですっ! マスターならかならずできちゃいますっ♪ ルルム信じてますよっ~!!」
「うん、やってみる。あとは・・・作戦どおりでよろしく頼むね」
「はいっ♪ すぐうしろについて行きますねーっ☆」
丸腰のゲントは一歩前に出るとゆっくりとフロアを進んでいく。
その時。
ガノンドロフの巨大な触手がにゅるりと蠢いた。
敵の鋭い眼光がふたたびゲントを捉える。
あるラインを越えたら躊躇いなく攻撃を仕掛けるぞと、無言の威嚇をしているようだ。
「・・・」
そこで一度立ち止まると、振り返ってゲントは視線で合図を送る。
うしろに控えていたルルムがそれに応えるように静かに頷いた。
(よし。いくぞ)
心の中でそう呟くと、ゲントはフロアの片隅に目がけて思いっきり走っていた。
それとまったく同じタイミングで。
ガノンドロフは複数の魔法陣を瞬時に発現させる。
次の刹那。
ドオオオオーーン!! ドオオオオーーン!!
敵は間髪入れずに火属性、水属性、風属性、雷属性の攻撃魔法を織り交ぜながら、無詠唱で撃ち込んできた。
ほとんど避ける間もない一瞬のことだ。
(っ!)
直後。
ゲントの体にすべての攻撃魔法がぶち当たる。
相手からすれば、間違いなく仕留めたと確信できるほどの完璧なタイミングだった。
しかし――。
「ルルムッ!」
「らっじゃーですぅっ~!!」
ゲントが手をかかげると、フロアの頭上に避けていたルルムが黒い稲妻を発しながら瞬時に魔剣へと姿を変える。
そう。
自分に攻撃を集中させることで、ゲントはルルムの囮となっていたのだ。
体に衝撃は受けたが《痛覚無効》のおかげでゲントはまるで痛みを感じない。
(この時を待ってたぞ!)
魔剣を握り締め、ゲントは一段と冷静になった。
ここからはコンマ数秒の世界。
ちょっとした判断のミスが命取りとなる。
「グゥゥヮワアァァアアア~~!!」
ゲントの姿を目で追うと、ガノンドロフはふたたび複数の魔法陣を目の前に立ち上げる。
そのどれもが光属性の魔法陣だった。
間近までゲントが迫ってきたことで脅威を感じたのかもしれない。
ガノンドロフはここで一気に蹴りをつけようとしているようだ。
これだけの至近距離で敵の攻撃を受けたらまず避けられない。
はずなのだが・・・。
(今だ!)
アビリティ《不意討ち》のおかげで、ゲントはガノンドロフが魔法を放つよりも前に魔剣を振り抜いていた。
「奥義其の27――〈兇変の舞〉!!」
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[アビリティ名]
不意討ち
[レア度]
D
[種類]
インスタント
[効果]
モンスターとの戦闘で必ず先制攻撃を行う。
また、命中率とダメージ量が増加する。
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[奥義名]
兇変の舞
[威力/範囲]
A+/全
[消費SP]
25%
[効果]
奇天烈怪奇な抜刀術を繰り出し、千の刃で敵陣を切り刻むの武人の舞い。
敵全体に命中率の高い大ダメージを与える。
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ガバァァーン!!
荒ぶる衝撃波の軌道が向かう先は、乱立した光の魔法陣。
が。
それを斬って発動をキャンセルするわけではない。
予想外の一手にガノンドロフも一瞬怯む。
なぜなら。
衝撃波が敵の魔法陣に新たな模様を描き加えていたからだ。
『マスターぁ!! やっちゃってください~~!!』
ガノンドロフがそれに気づくもすでに遅い。
「クゥァゥォクゥァゥォピィャピィャ~~!?」
光の魔法陣は、魔剣が描く刃の軌道によって制御を失い、暴走しはじめる。
そして――。
どおおおおーーん!! ごおおおおーーん!!
暴走した魔法陣が連なるようにして大爆発を引き起こし、その爆心地ですべての衝撃を直に受けたガノンドロフは、一瞬のうちにして粉々に消し飛ばされるのだった。




