3話
まず冒険者はランクによって分けられており、所有するバッジが異なるらしい。
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【冒険者のランクと割合】
〇下位冒険者
ブロンズランカー
全体の50%
〇中位冒険者
シルバーランカー
全体の40%
〇上位冒険者
ゴールドランカー
全体の5%
〇一流冒険者
プラチナランカー
全体の3%
〇筆頭冒険者
ダイヤモンドランカー
全体の1~2%
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冒険者のランク分けなどは、異世界作品でもよく登場するため、ゲントもすんなりと理解できた。
また、ギルドに貼り出されたクエストには、ダンジョンの難易度とボスの危険度が明記されており、冒険者のランクによって受注できるクエストが変わってくるようだ。
当然、ランクが高い者ほど高報酬を得られるクエストへのエントリーが可能だったする。
このあたりのルールもゲントはすんなりと受け入れることができた。
魔力総量やMQについての指定は特にない。
これならいけるのではと思うゲントだったが・・・。
続きの文言を見てその希望も砕け散ってしまう。
(えっと・・・。クエストを受注するには冒険者としてギルドに登録する必要があって、その際に以下の年齢制限をクリアするのが必須条件? え? 15歳から25歳までって・・・ムリじゃん、俺・・・)
そう。
冒険者として登録できるのは25歳までだったのだ。
よくよく見れば、クエストには小さく年齢制限が明記されており、たとえ高ランカーの者であっても、この条件から外れたら受注することは叶わないようだ。
(・・・てことは、ダイヤモンドランカーであっても、年齢制限をクリアしないと冒険者を続けられないってことか)
想像していた以上に厳しい現実が目の前に広がっていた。
ほんの軽い気持ちでギルドに足を踏み入れてしまったことにゲントは少しだけ後悔する。
(こうなればダメでもともとだ。話だけ聞いてみよう)
そう考え、受付カウンターまで足を運び、ゲントはクエストを受注したい旨を伝える。
しかし――。
「無理です。あなたにご紹介できるクエストはありません。お引き取りを」
若い受付嬢に冷たくあしらわれてしまう。
「そんなぁぁ~~!? 小籠包がぁぁぁ・・・」
その場で崩れ落ちるルルム。
予想していたことではあったが、こんなにもあっさりと断られるとは思っていなかったため、ゲントも食い下がる。
「すみません。そこをなんとかなりませんか?」
「なんとかってなんです? あなたみたいなあの世に足を突っ込んだ老害に紹介できるクエストなんてありませんけど?」
「はい・・・?」
「たまにいるんですよねぇ。お金に困って、自分の年齢も気にせず乗り込んできちゃう頭のネジがぶっ飛んだおじさんが。若い時はできたからって、勘違いしちゃってるんでしょうね? まずは、その老けた醜い顔面を鏡で確認してほしいわけです。ぶっちゃけ、こっちは同じ空間で息してるだけでも吐きそうなんですよ。わかります?」
ジト目の受付嬢は冷めたく言い放つ。
それはもはや人を見る目ではなく、汚物を見るような軽蔑の眼差しだった。
「ひ、ひどいですぅ!! なんでそんなこと言うんですかぁーー!?」
ぽかぽかと受付嬢の頭を叩くルルムだったが、もちろん相手はノーダメージだ。
フェルンが人格者だったため、勘違いしていたのかもしれない。
どうやらこれがこの異世界における自分の正確な立ち位置であるということをゲントは理解する。
「ギルドもボランティア団体じゃないんですよ? 無能なおじさんに支払う報酬なんてありません」
「わかりました。では、自分でモンスターを退治して来たら報酬はいただけるんでしょうか?」
「ハァ・・・? その歳じゃ魔法もろくに使えないでしょ? どーやってモンスター倒すんです? ふふふ」
薄ら笑いを浮かべる受付嬢。
本当におかしくてたまらないといった表情だ。
カウンターにいる他の受付嬢やフロアの若い冒険者たちもざわざわとしはじめる。
みんな差別的な眼差しで、ゲントのことを薄ら笑っていた。
「たとえば・・・剣とか」
「そんな旧時代の道具でムリムリ・・・! 笑わせないでくださいよ。ふふふ」
館内のそこかしこから笑い声が漏れ聞こえてくる。
剣などの武器は魔法に比べて非力なため、ほとんどの冒険者は魔導書を使っているというのがフェルンの話だ。
だから、武器を所有している冒険者はごくわずか。
そんな旧時代の道具を使っているのは変わり者というのが冒険者全般の認識のようだ。
「むっきいいいい~~!! なんなんですかっ! この場所ぉぉ~~!!」
ルルムだけは宙で地団駄を踏んで抗議するが、むなしく館内に声が響くだけだ。
「ダンジョンのモンスターをぜんぶ狩ってきたら考えないでもないですが。でも、そんなのムリムリ・・・ぜっーたいムリです! モンスター相手に剣だけで挑むなんて聞いたことないし。その歳で無一文なんでしょ? もう生きてる価値ないじゃんw 残りの人生、せいぜい後悔しながら過ごしてくださいね? ふふふ」
手でしっしっと振り払われてしまう。
「わかりました」
ゲントはその場で頭を下げると一歩うしろに引く。
(これが年齢差別ってやつか)
40歳といえば、まだまだ働き盛りな年齢のはずだが、ここフィフネルではすでに人生を終えたような年齢なのだ。
自分が世の中に必要とされていないという現実を突きつけられたようで、ゲントとしてはさすがにショックを隠せなかった。
「また出直したいと思います」
「もう二度と来ないでください? 勘違い老害おじさん♪」
にっこりと皮肉たっぷりな笑顔を浮かべて、若い受付嬢は手を振って見送る。
顔を真っ赤にして「べっー!!」と舌を出すルルムの手を無理矢理引いて、ゲントは冒険者ギルドをあとにした。




