23話
(ん・・・なんだろう?)
それは土に埋もれた金色の装飾物だった。
それだけじゃない。
衝撃波で掘り起こされた土の中に、金色の欠片がいくつも埋まっているのが見える。
それを目にしてゲントはフェルンの言葉を思い出していた。
この地にはかつてニンフィアと呼ばれる黄金の王国が栄華を誇っていたという話を。
紀元前5000年以降、ここは聖地としてフィフネルの中心地となってきたという話も思い出す。
ひょっとすると、土の奥深くに眠っていた貴重な出土品が出てきたのかもしれない。
が、ゲントの意識はもっとべつの方向に向く。
(たしかこの地では、さまざまな英雄が現れては消えていったって話だよな?)
今の時代にそんな彼らが生きていたら、この状況をどう打開するだろうか。
(!)
そこでゲントはハッとした。
(ということは・・・この地には多くの英霊が眠ってるってことじゃないのか?)
その事実と今自分が持っている力をどう問題解決に結びつけるか。
仕事では日々あらゆる問題に直面する。
それをどう素早く解決へ導けるかどうかで、優秀な会社員かどうか推し量ることができるものだ。
弦人はこのような問題解決能力に非常に長けていた。
だからこそ、上司にいいように利用されてきたという現実がある。
〝実力はあるのに長年会社に飼い殺しにされている〟
多くの後輩たちが歯痒い思いで見ていたのも、弦人のこのような能力を高く評価してのことだった。
そして。
問題にぶち当たった時こそ、弦人の閃きは脅威の解像度を誇る。
『マスターぁ・・・。やっぱり、アイツ出てきちゃいそうですよぉ・・・』
「大丈夫。その前になんとか解決できそうなアイデアが浮かんだから」
『ふぇ?』
ゲントは魔晄に呼びかけると、光のパネルを立ち上げて素早く操作しはじめる。
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【刀剣選択/魔剣】
☆☆モードを選んでください☆☆
剣瞬猛怒・・・戦闘特化型
相手に攻撃する
▶︎轟斬猛怒・・・能力捕食型
相手から力を引き抜く
絶剱猛怒・・・集束裁定型
相手に力を与える
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そこで改めて轟斬猛怒を選択した。
パネル上でYESを選ぶと、魔剣はふたたび黒緋色へと変化する。
それを確認すると、ゲントは柄に力を込めた。
『あれっ~? また変えちゃうんですか?』
「このままだと引き抜けないからね」
『でもでもぉ! 鉄巨人から奥義を引き抜いても、結局意味がないんじゃ・・・』
「違うよ。もっとべつのものを引き抜くんだ」
『ふぇぇ・・・??』
ルルムはさらに困惑したような声を上げる。
それもそのはず。
周囲にはすでにモンスターの姿はなく、引き抜く対象は鉄巨人以外にいないからである。
(そうじゃない。モンスターから引き抜くわけじゃないんだよ)
奥義やアビリティだって引き抜けたのだ。
この葬冥の魔剣なら、もはやなにができても不思議ではない。
ゲントは今こう考えていた。
この魔剣なら、ひょっとすると過去の英雄の魂も引き抜けるかもしれない、と。
(もし、本当に英霊を呼び出すことができたなら、鉄巨人に唯一ダメージを与えることができるかもしれない)
英霊による攻撃は、おそらく物理攻撃ではないからだ。
突拍子もないアイデアではあったが、試してみる価値はあるとゲントは考えた。
鉄巨人からさらに離れると、ゲントは適当な地面の上に立つ。
(過去の英雄たちよ。もしこの大地に今も眠ってるのなら・・・。少しだけその力を俺に貸してください)
柄を両手で持つと、魔剣を下向きに構え、ゲントは大地に向けて思いっきり剣先を突き刺した。
最強の英雄たちを引き抜くイメージを持って祈りを込める。
すると――。
ゴオオオオオ!!!
信じられないことに、その場に白銀の煌めきを放った柱が12本立ち昇った。
(やったのか・・・?)
やがて。
その煌めきがおさまると、そこに12の人影が浮かぶ。
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座標の力が発動しました。
これにより、[十二の選ばれし英霊]を引き抜くことに成功しました。
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(そうか・・・。本当に呼び出せたんだ)
目の前に立ち上がったパネルを確認すると、ゲントは魔剣を引き抜いた。
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【十二の選ばれし英霊】
◇第一の英霊
[エメトセルク]
始祖にして最強の族長
紀元前7700年
◇第二の英霊
[オルトロス]
不屈の魂を持つ始まりの国王
紀元前5000年
◇第三の英霊
[べオルブ]
夜帝王と恐れられた屈強な大男
紀元前4400年
◇第四の英霊
[ガラフ]
平和を愛した心優しき女帝
紀元前3900年
◇第五の英霊
[アージェンタム]
道義を重んじる皇太子
紀元前3300年
◇第六の英霊
[ゴゴ]
百戦錬磨の総大将
紀元前2900年
◇第七の英霊
[シェルロッタ]
摩訶不思議な力を持つ聖騎士
紀元前2300年
◇第八の英霊
[バルフレア]
不世出の天才軍師
紀元前1800年
◇第九の英霊
[オルランドゥ]
将才を発揮した遊牧民の少女
紀元前1200年
◇第十の英霊
[フリオニール]
勇猛果敢で才能豊かな傭兵
紀元前900年
◇第十一の英霊
[ゴルベーザ]
自然に愛された神官戦士
紀元前500年
◇第十二の英霊
[ガフガリオン]
彗星の如く現れた超剣士
紀元前100年
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(すごいぞ)
そこにずらりと並んだ英霊たちの名を見て思わず息を呑む。
さまざまな時代の英雄が光の柱とともにその場に姿を現していた。
その圧倒的なオーラを前にして、さすがにゲントも驚きを隠せない。
『なになになんですかっ~!? この強そうな御方たちは!?』
「最強の英雄軍団だよ」
〝我が主。ご命令を〟
そんな言葉があたりから静かに聞えてくる。
裂け目の方に目を向ければ、巨大化した鉄巨人が大地をぶち破って、今にも出てきそうにもがき暴れていた。
まだ英霊たちの攻撃が効くという保証はなかったが・・・。
(決めるなら今しかない)
ゲントは両手で魔剣を高くかかげると、声高に号令を張り上げる。
「十二の選ばれし英霊よ! あの巨人を倒す力を貸してくれ!」
そして。
ゲントが魔剣を思いっきり振り抜くと、十二の英霊は鉄巨人に目がけていっせいに飛んでいく。
ギギギギィィーーン!!!
十二の英霊はさまざまな角度から超攻撃を自在に繰り出していく。
巨大化した鉄巨人はその場でなす術もなく、英霊たちの攻撃を一身に浴びてしまっていた。
その直後――。
ドカアァァァァン!!
巨大な大爆発を起こし、鉄巨人はその場で跡形もなく姿を消すのだった。




