20話
「フェルンさん! まずどうしましょうか?」
走って鉄巨人の背中を追いながら、ゲントはフェルンに訊ねる。
「そうだね。まずは私が遠距離から魔法で攻撃を仕掛けてみるよ!」
「わかりました」
鉄巨人の歩くスピードはそこまで速くない。
このままのペースで走り続けたらすぐに追いつける距離だ。
(なんかしょっぱなから、最終ボス戦にぶち込まれたって感じだな)
女神から聞いていた楽しく遊んで暮らせるという話と180度違う。
ディアーナはこの現状がわかっているのだろうか。
(とにかく・・・今は鉄巨人だ)
まずは目の前の敵のことだけを考えようとゲントは思う。
「ルルム。ずっと魔剣の姿にさせちゃってごめん」
『そんなことマスターが気になさらないでくださいっ~~! むしろ、どんどんルルムを使っちゃってください♡』
「うん、ありがとう。これから頼む」
『あいあいさーですっ~!!』
***
走りながらフェルンは、魔導書をその場に5冊展開する。
『火の書』、『水の書』、『風の書』、『雷の書』、『光の書』だ。
連続でどんどん魔法を繰り出していく。
「如何なる焦熱もその焔となりて舞い踊る為に、大炎よ荒れ狂え――火魔法レベル8〈極大炎〉!」
「波紋の源より煌めく大流の智慧よ、泉源の力を我に与えられん――水魔法レベル7〈大瀑布〉!」
「破壊を司る無色の刃、その疾風の如くに翔け上がり宙へと舞え――風魔法レベル7〈竜巻の嵐渦〉!」
「絶え間なく落ち続ける雷鳴の威光、大地を揺るがす轟雷と共に響け――雷魔法レベル7〈ブリュンヒルデの雷鳴〉!」
「真実の光を覚醒させんと欲す、我は勝利をもたらしてくれよう――光魔法レベル8〈超大光煌破〉!」
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[魔法名]
極大炎
[魔法レベル/属性]
レベル8/火-攻撃
[必要MQ]
220以上
[魔力消費]
330
[効果]
敵グループに特大ダメージの火属性攻撃。
超高熱の究極炎により周囲の敵や障害物を巻き込み、爆心地は数日に渡って地獄の灼熱で焼き尽くされる。
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[魔法名]
大瀑布
[魔法レベル/属性]
レベル7/水-攻撃
[必要MQ]
200以上
[魔力消費]
350
[効果]
敵全体に大ダメージの水属性攻撃。
生命の源である大海の力を最大限に引き出し、流動性を高めた大洪水で広範囲を押し流す。
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[魔法名]
竜巻の嵐渦
[魔法レベル/属性]
レベル7/風-攻撃
[必要MQ]
190以上
[魔力消費]
260
[効果]
敵単体に特大ダメージの風属性攻撃。
非常に荒々しく制御不能な大嵐によって敵の視界をかき乱し、マイナスな精神的混乱を与える。
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[魔法名]
ブリュンヒルデの雷鳴
[魔法レベル/属性]
レベル7/雷-攻撃
[必要MQ]
190以上
[魔力消費]
260
[効果]
敵単体に特大ダメージの雷属性攻撃。
詠唱者の周囲に雷の盾を展開し、絶対的な雷撃を連続で放って敵を麻痺状態とする。
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[魔法名]
超大光煌破
[魔法レベル/属性]
レベル8/光-攻撃
[必要MQ]
220以上
[魔力消費]
330
[効果]
敵グループに特大ダメージの光属性攻撃。
聖なる煌めきを纏った天帝の超閃光を繰り出し、敵グループの攻撃力、防御力、命中率、回避率を大幅に低下させる。
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色鮮やかな五属性の魔法が鉄巨人の背中に向かって放たれるも・・・。
ぱぎょーーん!!
「っ!」
フェルンは思わず目を丸くした。
それから何度か同じように魔法を繰り出すも、鉄巨人に到達する前に謎の障壁によって弾かれてしまう。
『ええぇっ~~!!? ぜんぜん効いてないですよぉぉ~~!!?』
「うん・・・。なんでだろう?」
フェルンの顔にも焦りが見える。
いっぺんに五属性の上位魔法を放つという離れ業ができる者は、おそらくこの世界には数えるほどしかいないはずだとゲントは思う。
それだけフェルンは天才魔術師なのだ。
「まだまだっ!」
彼女は諦めずに五属性の魔法陣をふたたび目の前に展開させる。
それを見てゲントは手で制した。
「やめましょう、フェルンさん」
「し、しかし・・・」
「明らかに効果がありません。なにかあるんだと思います」
それにこれ以上、無駄に彼女の魔力を消耗させたくないという思いがゲントにはあった。
この異世界では、魔力は回復するものではなく減っていくものなのだ。
そして、それは己の命に直結している。
「そうだね・・・ゲント君の言うとおりだ。少し様子をみよう」
「はい」
ゲントの気迫に押され、フェルンの中に冷静さが戻ったようだ。
「俺が近づいて相手のステータスを確認してみます」
実はゲントはこれまでフェルンに合わせて力をセーブしていた。
すでにスピード系のアビリティをいくつか所有しているため、正直な話、あっという間に鉄巨人の近くまで移動することができる。
「可能なのかい?」
「問題ありません。少しの間、こちらで待っててください」
「・・・わかった。よろしく頼むよ」
もはやゲントがなにかしらの超人的な力を有していることがわかったのだろう。
今回は止めることなく、フェルンはゲントを送り出す。
パッパッパ!!
ゲントは《天駆》の力で瞬時に鉄巨人の近くまで移動すると、そこで《慧眼の睨み》のアビリティを発動させる。
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[アビリティ名]
天駆
[レア度]
A
[種類]
永続
[効果]
一定距離において神速の移動スピードを得る。
ただし、一部地形では無効。
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[アビリティ名]
慧眼の睨み
[レア度]
C
[種類]
永続
[効果]
一定時間、視力が20倍となる効果を得る。
ただし、1日1回のみ有効。
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鉄巨人の表面は、強靭な鉄器で覆われていた。
どこにも傷を受けた形跡はない。
それにまだ相手はこちらに気づいていないようだ。
まるでなにかに吸い込まれるように、ある一点へと向けて歩き続けている。
その方角に視線を向けると、その正体が判然とした。
『なにかわかったんですか~?』
「やっぱり氷土の大地へ向かってるみたいだ」
鉄巨人が向かう先には、フェルンが言ったとおり氷土の大地が広がっていた。
ここでゲントは魔晄に呼びかけて敵のステータスを確認する。
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[モンスター名]
鉄巨人
[危険度]
SS級
[タイプ]
超メジャー型
[ステータス]
Lv. 97
HP 360000/360000
[アビリティ]
《反英雄》
《火魔法ダメージ無効》
《水魔法ダメージ無効》
《風魔法ダメージ無効》
《雷魔法ダメージ無効》
《光魔法ダメージ無効》
《物理攻撃無効》
《魔王の意志を継ぐ者》
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(そういうことか)
どうしてフェルンの魔法が効かなかったのかがわかった。
ほかのモンスターとは異なり、鉄巨人はアビリティをいくつか所有していた。
しかもその内容がえげつない。
(こんなのありか・・・?)
魔法攻撃を無効するアビリティがずらりと並んでいる。
それどころか、物理攻撃も効かないようだ。
これだと本当に手出しができないということになる。
(どうする?)
少しだけ考えながら鉄巨人の姿を追っていると――。
『マスター! 鉄巨人から高熱源を確認しますっ!!』
ルルムが慌てたように脳内で声を上げる。
次の瞬間――。
ブォッボオオオオォ!!
突如、鉄巨人は巨大な体躯を真っ赤にして四方八方へと黒炎を放つ。
「っと!」
近くにいたゲントは瞬時にその場から離脱する。
ルルムの声がなかったら、一撃食らっていたかもしれなかった。
「ありがとう。助かったよ」
『とんでもないですっ! アイツぅ~!! あんな風に突然攻撃してくるなんて、危ないのにぃぃ~~! むぅきぃぃーー!!』
幸いにも離れた場所にいたフェルンまでは黒炎は届かなかったようだ。
すると、突然――。
鉄巨人はいきなりその場にドスン!と立ち止まる。
(なんだ・・・?)
やがて、両腕をゆっくりと上げはじめた。
なにか様子がおかしい。
『マスターっ! 気をつけてください! ふたたび高熱源を確認します~~!!』
「また攻撃を仕掛けてくるとか?」
『警戒しておきましょうっ!』
ゲントが魔剣を構えていると、鉄巨人は予想外の行動に出た。
ドギャァァァァン!!
なんとそのまま足を大きく振り上げると、ものすごい勢いで走りはじめたのだ。
『ええぇっ~!? なんでっ!?』
あの巨大な体躯のどこにそんな敏捷さが隠されていたのか。
猛スピードで遠ざかる鉄巨人の姿は、あっという間に小さくなってしまう。
『どうしましょう!?』
「あとを追いかけるしかない! 行こう!」
『わ、わかりましたぁぁ~~!!』
ズシューーーン!!
アビリティの力をふたたび解き放ち、ゲントは鉄巨人の背中を追っていく。




