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19話

 目の前のモンスターを見て、フェルンは口元を押さえながら大きく驚く。


「・・・まさか、あれは・・・」


 次の瞬間。

 ものすごい爆風がゲントたちの方へ飛んできた。


「フェルンさん! 下がってください!」


「えっ・・・」


 ゲントはすぐさま魔剣を構えると、一線に駆け抜けながら奥義を撃ち込む。


「奥義其の9――〈乱閃の投刃〉!」


 バギィィィン!!


 すると、乱れる剣閃が四方に向けて放たれ、瞬く間に爆風を切り裂いた。


==================================


[奥義名]

乱閃の投刃


[威力/範囲]

B/全


[消費SP]

13%


[効果]

神速の抜刀により刃の軌道が螺旋を描くリスキーな投撃。

敵全体に中ダメージを与える。


==================================


『さすがマスター! お見事ですっ♪』


 ゴブリンキングから引き抜いておいた《鬼人強走》のおかげでなんとか間に合ったようだ。


==================================


[アビリティ名]

鬼人強走


[レア度]

C


[種類]

インスタント


[効果]

一時的に鬼人化し、移動速度が大幅に上昇する。

また、攻撃力とダメージ量が増加する。


==================================


 一方でフェルンはというと、その目にも留まらぬ神業を目の当たりにし、言葉を失っていた。


「キミ、どうやってそんな技を・・・」


「今はそれよりもあのゴーレムです。あれはなんなんですか?」


「え? あぁ・・・あれは・・・たぶん鉄巨人だと思う」


「鉄巨人?」


 ゲントは一度、敵に目を向ける。


 その見た目は非常に大きく、高さは15mほどありそうだ。

 全身は重厚な装甲で覆われており、筋肉は鋼鉄のように剛毅に見える。

 

 頭部にはふたつの炎を宿しており、目からは赤い光が輝いていた。


 手には禍々しい巨大なソードを持っており、その風貌は恐ろしい存在感をその場に放っている。


 大地に降り立つと、鉄巨人はある方角へ向けて歩きはじめていく。


 ドスン!! ドスン!!


 鉄巨人が大股で一歩ずつ歩くたびに地鳴りが起こった。


(あいつ、いったいどこへ向かおうとしてるんだ?)


 振動で足場が悪くなる中、フェルンは巨人の背中に目を向けながらこう続ける。


「大聖文書に記されてるんだよ。大地の中から目覚める悪魔の巨人のことがね」


「それが鉄巨人なんですか?」


「うん。これは言伝に聞いた話で詳しくはわからないんだけど、あれは魔王のしもべのような存在で、どうやら魔王の危機を回避するために動き出すものらしいんだよ」


 大聖文書はグラディウスが残していったものだ。

 人々の脅威となる可能性があるからこそ、そのことを記していたに違いないとゲントは思う。


「あれはどこへ向かってるんでしょうか?」


 徐々に遠くへ行きつつある鉄巨人に目を向けながらゲントが訊ねる。


「これは私の推測だけど・・・。ひょっとすると、氷漬けとなった魔王を〝地鳴らし〟によって救い出そうとしてるのかもしれない」


「〝地鳴らし〟?」


「これも大聖文書に書き残されてるんだ。鉄巨人は、大いなる災いをもたらす邪悪な力を秘めているってね」


 どうやらそれが発動してしまうと、ありとあらゆるものが消し滅んでしまうのだという。


『わわわっ~~!? そうなったら大変ですぅぅ~~!?』


 ルルムの慌てたような声が脳内に響く。


 たしかにそんな力があれば、氷の結界を壊すことも可能かもしれない。


「きっとあれは、魔境が1000年近くため込んできた膿のような存在なんだろうね」


 フェルンのその表現はゲントにとってしっくりきた。


(膿か・・・。なるほど)


 ゲントは、こんな風にモンスターがいっせいに発生するようになった原因について薄々勘づいていた。


(たぶん、俺が魔剣を引き抜いたせいだ)


 これまで押さえ込んでいたものを解き放ってしまったのだろう。

 それによって、1000年近く続いてきた黒の一帯の秩序が壊れてしまったのだ。


 こうなってしまったら、もう仕方ない。


 あとは出てきた膿をすべて消し去るだけ。

 そうすれば、この大地はもとどおりに戻るに違いない。

 

 そんな考えがゲントの脳裏に浮かぶ。


(それに、このままあの巨人を放っておくわけにはいかないよな)


 これまでの敵とは比較にならない相手だったが臆している暇はなかった。


「フェルンさん。俺、あいつを倒してきます」


「それはさすがにムリだ。ゲント君、危険すぎる。無謀だよ」


「でも、あいつを倒さないと魔王は復活するかもしれないんですよね?」


「それはそうだが・・・」


 実際に大聖文書の一節を知っているからこそ、フェルンは鉄巨人の恐ろしさがわかっているのだろう。

 天才魔術師の彼女がこれほど言うということは、相当の敵に違いないとゲントは思う。


 けれど。


「俺はあの巨人を見逃せません。あいつによって、この世界の人々に脅威が迫るかもしれないわけですから。だったら、ぜったいに止めないと」


「ゲント君・・・」


『うぅぅ~~。さすがマスターですぅ・・・! ほかの皆さんのことを想って行動されるなんて~!』


 ルルムの感動する声に耳に傾けながら、ゲントは自分がそんなにもこの世界のことについて想っていたことに気づく。


 まだフィフネルへ降り立ってから半日も経っていない。

 

 一撃でもダメージを受ければ死んでしまう身だというのに・・・。

 どうしてここまで熱くなっているのだろうか。


 だが。


 なぜかフィフネルの人々のことを想うと、ゲントは不思議と懐かしい気持ちとなるのだ。


(この無限界廊から抜け出さない限り、もとの世界へは戻れないわけだし。とにかくあの巨人を倒すしかないんだ)


 そこでスッと立ち上がると、ゲントは決意を込めた表情で口にする。


「フェルンさんはここで待っててください。俺がなんとかしてきます」


 またも有無を言わさぬ間で、ゲントはそのまま走り出そうとする。

 

 しかし――。


「待ってくれ! ゲント君っ!」


「すみません。止めても行かせていただきます」


「わかってるよ。今のキミはそんな顔をしてる。私が止めても無駄だってわかったよ。だから・・・私も一緒に行く」


「フェルンさん・・・?」


「このままゲント君ひとりに行かせるわけにはいかないからね。キミがどんな力を持ってるのか、正直私はまだよくわかってないけど。私だって役に立てるはずだからね」


 笑顔でそう口にするフェルンを見てゲントは頷く。


「・・・そうですね。わかりました。一緒にあの巨人を倒しましょう」


「うん。私たち2人ならできるはずさ」


『おふたりともかっこいいですぅぅーー!! ルルムもお役に立ちますよぉぉ~~!!』


 こうしてゲントたちは、氷の結界へと向かう鉄巨人のあとを追いかけることになった。

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