13話
(魔剣だって?)
ゲントが驚くのも無理はない。
現にそれを手に入れていたからだ。
当の本人はまだ戻って来ていなかったが、これを聞いたらルルムもきっと驚くに違いないとゲントは思った。
確認の意味も込め、ゲントは同じ言葉を復唱する。
「魔剣を大地に突き刺して腐らせたんですか?」
「といっても、その現場を実際に見た者はいないから。これもただの仮説さ」
それが事実だとすると、モンスターは魔王によって生み出された存在ということになる。
世界を掌握する力を持ち合わせているところは、ゲントが想像する魔王そのものだった。
「あとひとつ。重要なことを話すのを忘れてたよ。魔王の姿はね、私たちヒト族には認識できないんだ」
「認識できない? じゃあ、なんで魔王が降臨したって人々はわかったんでしょう?」
「これも大聖文書に記されてたんだね。〝世界に大きな災いの変革が起こる時、それは魔王の仕業によるもの〟って。実は、魔王が人々に魔素を植え付けたり、26冊の魔導書をもたらすことも予言されてたんだよ」
中には魔王が所有する魔剣についての一節もあるらしく、それ以外にもさまざまな事柄が大聖文書には書かれているようだ。
ただ、すべての物事が的中しているというわけでもないらしく。
現在では大聖文書に記された残りの節の信憑性を確認するため、有識者たちが日夜議論を繰り広げているとの話だ。
(けど、グラディウスさまはある程度先を見通してたってことか)
1000年周期論をなぞるように魔王が降臨したり、人々に魔素を植え付けることや魔導書を持ち込むことを予見していたり・・・。
なぜそこまで見通すことができたのか。
謎は深まるが、フェルンもそこまでは詳しくわからないらしい。
ただ当時の人々にとって、姿の視えない魔王は脅威であったに違いない。
そこでふとゲントは気づく。
(あれ? てことは・・・魔族の姿も認識できないのか?)
だとすれば、ルルムの姿がフェルンに視えないことも辻褄が合う。
でもそうなるとおかしい。
なぜ自分だけ視えるのだろうか、とゲントは思う。
(視えるだけじゃない。ルルムに触ることもできるし。これはどういうことなんだろう?)
と、ちょうどそんなタイミングで。
「マスタ~~!! 見つけましたよぉ~!!」
ルルムが手を振りながら急いで飛んでくる。
「南東の方角に虹色の輪っかが何箇所か確認できました~! たぶん、フェルンさんの仰ってたホットスポットだと思いますっ!!」
「そっか、ありがとう。今すぐ行ってみよう」
「はいっ♪」
そんな風にルルムと話していると、フェルンがまたも不思議そうな顔を覗かせる。
「ゲント君? またなんかブツブツひとり言呟いてる?」
「いえ・・・。いろいろとお話が聞けたので自分の中で整理してまして・・・。そろそろホットスポットを探しに行きましょうか」
「え? ああ・・・そうだね。ごめん、これも私の悪い癖だ。話に夢中になると、つい時間が経つのを忘れてしまって・・・。ここも長居しすぎたね。先を急ごう」
そう言って黒いローブを払うと、フェルンはふたたび黒い大地を歩きはじめる。
ルルムとともに、彼女のあとについて行くゲントだったが――。
ガガガガガッガガガガガッ!!
(!)
その時。
突如としておぞましい地鳴りが一帯に鳴り響いた。
「・・・っ。どうやら行動するのが少し遅かったようだね」
フェルンは素早く手元に新約魔導書を発現させる。
すぐさまゲントの前に躍り出ると、無駄のない動きで魔法陣を展開させた。
「な、な、なんですかぁ!? いったいなんの音ですっ~~!?」
「・・・わからない。ただなにか不吉なことが起ころうとしてるみたいだよ」
「ひぃぃ~~!?」
ルルムは豊満な胸をバウンドさせながら、羽をぱたぱたと慌ただしそうに動かす。
(なにが起ころうとしてるんだ?)
あたりの様子を注意深く観察していると、ちょっとした異変にゲントは気づく。
大地の一部が黒く盛り上がってなにやら形を作りはじめたのだ。
それも一箇所ではない。
気づけば、あちこちが同じように盛り上がっては、なにか不気味なものが形作られていく。
「・・・闇エネルギーの円運動。いや・・・界面張力と言うべきか。しかし、いったいなぜ・・・」
フェルンは訝しそうに注意深くその様子を観察している。
まるで水の波紋のように、それは波となって大地を伝っているようだ。
やがて――。
その正体が判然とする。
(あれは・・・モンスター?)
どす黒い大地は、各々の場所が膨れた餅のように変形し、そこから次々とモンスターが発生しはじめたのだ。
「ゲント君っ! そこにいては危険だ!」
状況が把握できたのだろう。
フェルンはさらに複数の魔導書を呼び出すと、目の前に色とりどりの魔法陣を展開させる。
「マスターっ!? どうしましょうぅぅ~~~!?」
「とにかく言われたとおり下がろう」
ルルムの手を引いてゲントは引き下がる。
フェルンの強さに疑いようはない。
だが。
その彼女が今、切迫するような表情を浮かべていた。
(かなりまずいのかもしれない)




