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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第5章

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510 ダンジョン閉鎖



 ダンジョンが封鎖された。


「…………え」


 ええええええーーーーっ!


 これは由々しき問題である。なぜなら、私の収入源が絶たれたからだ。……まあ、ダンジョンにはこれまで1回しか入ったことないんだけどね。いや、でも、今後必要になる予定だったのだ。進学した際の収入源として……。

 あと数か月で今期の入学生に課せられている魔法学院での一年の履修期間が終了する。その際、入学生には二つの選択肢が与えられる。魔法学院に残るか、立ち去るか、である。学院に残るということは、正式に魔法学院の学生になるということで、多くの入学生が希望している。もちろん、私も進学を希望しているうちの一人なのだが、希望したからといって誰しも叶う訳ではない。進学するには、学院側からの指名か、試験に合格する必要があり、試験の合格率は希望者の二割程度……と言われているらしい。狭き門である。


 でも、である。


 実は私、少し自信があるのだ。前期試験では自慢じゃないけれど座学の学年一位、実技は……、師匠の推薦で何とか。そもそも非常勤講師である師匠にそこまでの権限があるのか不明だけれど、でも師匠の推薦が無くても、私は希少な無属性魔法の使い手、多分何とかいけるんじゃないかと思う。うん。


 この私を合格させないで、誰を合格させるというの!


 ……と、息巻いてみたものの、ここのところ、ずぅーーっと実技は自習続きで師匠が顔を見せていない。更に、院生に進学した暁には重要な収入源となるダンジョンの閉鎖と、何ンか不穏な空気が漂っている。

 これって、まさか……まさかね。


「就職も考えなくては駄目かな……」


 裕福な家庭の子供なら、元々通っていた学校に復学や、魔法学院以外の学校へ進学するという手段がある。でも、私のような庶民の場合は、就職一択だ。まあ、魔法学院の入学生だったというだけで、結構良いところに就職できる筈なんだけどね。

 何となく進学できるつもりでいたので、就職となるとすごく残念に思ってしまう。

 変だよね。

 入学した時には就職する気満々だったのに。人間ってつい欲が出てしまうみたいだ。


「師匠、早く戻ってこないかなー」


 師匠が戻ってきたら、直ぐに進路相談しよう。

 結局私が頼れる大人は、師匠だけなのである。詳しいことは分からないけれどダンジョンがドウトカで、師匠は今も各地を飛び回っているらしい。もしかして、今回のダンジョンの閉鎖にも関係しているのかもしれない。


「でも、ゲームの中でダンジョンが閉鎖されるなんてコトあったかな?」


 ゲームでは入学生に当たる一年目は各ステータスを上げる育成期間で、二年目開始と同時にルートが分岐し、攻略対象ごとの物語が展開される。……んだけど、この世界(現実)を見ると、ずれが生じ、ゲームより流れが速まっているような気がする。


「うーん」


 実を言うと、このところあまり前世の夢を見ていない。否、正確に言えば、崩壊した世界が広がるゲームの画面くらいしか見ていない。正直、あまり気分の良いものではないな。


 そもそもあれは、()()()()()()()()()()()()()


 私が夢で見る風景はゲームの画面や生活の一場面など断片的で、前世の私が何者で、どういう人間であるのか思い出すことは殆どない。その所為か、夢の中の私が今の私と同一の存在であるという実感が今一つ湧かず、まるで映画のスクリーンを眺めているような感じなのだ。

 うーん、でも、私に憑いている“おもいで精霊”が見せている筈だから、やっぱり……きっと私の中にある前世の記憶なのだろう。


 夢の中の滅びゆく世界―――


 多分……、この世界のアンズ―――杏子が選んだルートは、メインルートだ。守護騎士隊が選抜されたことからもほぼ間違いないと思う。メインルートなら、ダンジョンが閉鎖されてもおかしくない気がする。だって、世界崩壊の危機にダンジョンへ呑気に潜っている者などいる筈なく……

 そう、メインルート……―――つまり、滅亡ルート……

 世界の命運は杏子の手に託されたのである。


「……」


 本当に、あの子に託していいのだろうか?

 とはいえ、モブのモブのモブのモブの私には、何もできることはない訳で……


 ―――実は、魔王かもよ。


「……」


 う、ソレについては一先ず保留。


「あああーーーっ! 何かもやもやする。未来を知っていても、何もできないんだよ!」


 で、私が今できることといえば、結局いつものように秘密の花園に向かうことだった。



     ***



「よお、久しぶりだにゃ。邪魔しているぞ」

「にゃ!」

「おじゃましてるにゃ」


 三匹の猫がいた。なお、エピさんではない。秘密の花園で私を出迎えたのは、ダンジョンで出会った三匹の行商猫だ。あのバッタもんの聖剣を売りつけていた、あの猫たちである。


「何故、ここに?」


 思いっきり首を傾げてしまう。エピさん、もとい月来先輩(今日も猫じゃない!)と日向会長に目線をやると、手に負えないという様に首を横に振った。


「にゃぜって、ダンジョンにゃいが汚染されたからにゃ。ダンジョンが封鎖されて避にゃんを余儀にゃくされたのさ」

「非常事態にゃ」

「そうにゃ」


 何でも彼らが暮らしていたダンジョン内が“悪しきモノ”によって汚染され、私たちの住むこの世界から切り離されることになり、その際に避難民としてこちらに来たらしい。結構緊迫した事態である。だというのに、この猫達は呑気にお茶を啜っている。


「それにしても秘密の花園が秘密でなくなっているような……」

「我々に隠し立てはできにゃいさ」


 え、心を読まれた!? いえ、無意識に口に出してましたね。


「こっちで商売をやるにゃ」

「そうにゃ、にゃッポにゃッポもうけるにゃ」


 リーダーの山猫の行商人がお茶を一口啜ると口を開いた。


「一族郎党、一つの町がにゃん民として、この世界に亡命したのさ」


 にゃん民……難民……か。


「ちょっと待て。一族郎党って‥…お前ら3匹だけじゃないのか!?」


 日向会長が声を上げる。あ、そこ気になるよね。


「そりゃそうだろ、切り離され閉ざされた空間とはいえ、街を形成しているからにゃ。数万、数千……までいかにゃくても、数百人は集落を作って生活しているにゃ」

「え、何でそんなに繁殖しているの?」


 ダンジョンは閉ざされた世界の欠片なんだよね?


「それが聞くも涙、語るも涙にゃ」


 よくぞ聞いてくれたとばかり、白猫と黒猫が話し出した。まだ小さな白猫は、にゃ、にゃと相槌を打っていただけだけど。


「その昔、世界は“悪しきモノ”によって危機を迎えたにゃ。にゃんとか“悪しきモノ”を世界の果てまで追い詰めたものの、敵もさるモノにゃ、しぶとく反撃してきたにゃ―――」


 行商猫達の話によると、その昔、猫達が暮らす世界に“悪しきモノ”が現れ、世界的な危機に見舞われた。何とか世界の果て“悪しきモノ”を追い詰めたものの、完全に葬り去るまでには至らず、時の為政者は、“悪しきモノ”をその場に閉じ込め、その近辺の空間を世界から切り離すことにした。


 “悪しきモノ”を石棺に封印し、その部分を世界から切り離す。


 その作業にあたり、該当地域の住民達には退去が命じられたが、近くのある村の住人達は好奇心を抑えられず、命令に背き村民総出で封印の様子を覗きに行った。そして、空間を切り離す際、逃げ遅れ、その世界の欠片に閉じ込められてしまったのだ。それが行商猫達の先祖である。


「それで、にゃにが起こるのか気ににゃって、村人総出で覗きに行ったにゃ」

「にゃんて恐ろしい罠にゃ」

「いやいや、それ自業自得じゃね?」


 まさに好奇心は猫をも殺す。


「でも、“悪しきモノ”は石棺に閉じ込めにゃれてるし、生活する分には問題にゃいにゃ」


 で、その後村の人口が増え、数百人規模になったとのこと。それがここ最近、“悪しきモノ”が封印されていた石棺が破られたらしく、彼らの住む世界の欠片が汚染されてしまったらしい。


 う、それって、まさか……


「それで、一族郎党、村民総出でにゃん民申請したにゃ。おんにゃの人が元々の世界に戻してくれるって言ってたにゃ」

「にゃんでも()()()()()()()って言う弟子が、我々が元々住んでいた世界を探し出して、案にゃいしてくれるって言ってたにゃ」

「そうにゃ」

「ごほっ。ごほっ。ごほっ」


 お茶が気管に入った。


「きたにゃいにゃ」


 サッと猫達が距離を置いた。


 師匠、何安請け合いしているんですかっ! それも私に丸投げって、一体何考えているの!!!


随分遅くなりましたが、今年もよろしくお願いいたします

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