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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第5章

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509 【挿話】エピフィルム 6

 運命の娘とは、この国にとって、特別な存在であるらしい。異国の人間である俺には全く無関係だと思っていたので、今まで特段気にも留めていなかったのだが、なんでも運命の娘が“選んだ人物”は、どういう仕組みなのか幸せになるらしい。そもそも“選ばれる”というのが、何を意味するのかわからない。


 良くある馬鹿げた迷信の類だろう―――


 と、思っていたのだが、強ち迷信と否定することができなくなった。もし、運命の娘が俺を選んだならば、呪いが解けないまでも、“偽ること”はできると精霊が言ったからだ。“偽る”が何を示すのかは、わからないが、今よりも悪い状況になるとは考え難い。少なくとも俺は、謂れの通り現状より幸せになれるだろう。

 運命の娘が誰なのか、葵に尋ねると直ぐに判明した。ダンジョンに潜った際に俺と葵の周りをうろちょろする鬱陶しい娘がいたが、あれが国の認めた運命の娘らしい。


 あんなのが幸運をもたらすなどと馬鹿馬鹿しい―――……


 馬鹿馬鹿しいのだが、否定しつつもその存在を頭から追い払えないのは、まだ人に成るという未練を捨てきれていないからだろう。


「選ばれれば、幸せになる……か」


 太陽の下で彼女と―――否、葵たちと一緒にどこにでも堂々と行けるかもしれない。

 日々悶々と過ごすうち、運命の娘に接触する機会が生まれた。

 学院祭の前夜祭だ。

 前夜祭であれば、日が落ちた後なので、俺でも気兼ねなく繰り出せる。普段では味わえない学生たちの喧騒と物珍しさから、つい注意力が散漫になっていたのだろう。


「うわぁ、こんなところでぇ、出会えるなんてぇ、運命感じちゃう。きゃっ」


 俺は例の運命の娘とやらに捕まった。彼女は不躾にも、俺の上着の裾を掴み、引き留めたのだ。葵ならばこんな時でもなんちゃらスマイルとか言う胡散臭い笑いを浮かべ、愛想よく振舞えるのだろうが、残念ながら俺にはそんな芸当はできない。不機嫌さを前面に押し出し、その娘を見下ろした。彼女は俺の態度に最初委縮した様子を見せたが、すぐに何事もなかったように一方的に話し出す。この無神経さは何だか誰かを彷彿とさせるような……


「明日ぁ、サプライズぅプレゼントがぁ……あたしがぁ、アイドルでぇ……あたしってばぁ、可愛くてぇ、特別だしぃ……」


 彼女は何かを伝えているようだが、全く要領を得ない。何となく自分が可愛いと自慢しているような気がする。

 この娘は可愛いのか?

 俺は幼い頃から人とあまり接触してこなかったので、人の美醜は今一よくわからない。でももし、可愛いというならば、この娘より……俺の頭にあの泣き顔が浮かぶ。

 …………否、無いな。


「月の貴公子さまってばぁ、かいちょーと同じくらいぃ素敵ぃなのでぇ……あたしはぁ、いっつも見てたって言うかぁ……あたしのことを好きになってもいいんだょ。きゃはっ、言っちゃった」


 ヒュー……ドーン!


 最後のあたりは打ち上げられた花火の音に搔き消されてしまった。それにも構わず彼女は下を向き、もじもじしながらも引き続き何かを言い続けている。


 パラパラパラ……ドンドンドン……


 花火が次々と打ち上がり、人の波が押し寄せる。俺はこれ幸いとばかり、波に乗って彼女の前から離れた。


「あれに選ばれるとは、果たしてどういうことなのか……」


 本当に幸せになれるのか?

 翌日、学院祭の本番を迎えたが、太陽の下に出られない俺にとっては、関係ない話だ。俺はいつもと変わらぬ一日を庭園で過ごしていた。違いあがるとすれば、葵が残していった一枚の写真がテーブルの上に置かれていることくらいだろうか。その写真の中では彼女が微笑んでいる。あの日の舞台での写真だ。それは、俺の記憶の中にある泣き顔とは異なっている。今も瞼を閉じれば、写真の中の彼女、あの日の舞台上の彼女(アンジェリカ)の顔を思い出すことはできる。しかし、いつもの彼女、如月明日葉という人物の顔を思い出そうとすると、どうしても泣き顔になる。それ以外の表情を思い出そうとしても、靄が掛かったような状態で思い浮かばない。いつも見ている筈なのに俺は彼女の笑い顔を思い出せない。本当にこれはどういった現象だ? まるで何者かが彼女を世界から隠そうとしているみたいじゃないか。例えば、認識阻害魔法―――


「それなら、葵は―――」


 葵は彼女の笑顔を思い出せるのだろうか? 葵からはそんな話を聞いたことがない。以前、葵は彼女の顔を可愛いと言っていたような気がする。

 何だか疎外感――――――嫉妬……なのか? を覚えた。

 もしかして、俺が半分獣だからこのような現象が起こっているのだろうか?

 俺が太陽の下でも人の姿でいられるようになれば、彼女の笑顔を思い出せるだろうか?

 もし、運命の娘が俺を選んだとしたら―――


「エピさんっ!」


 ドンッ!!!


 思考を破り、いきなり彼女が俺の胸の中に飛び込んできた。


「おい、こらっ!」


 礼儀のない行動に、俺は一応、怒ったふり。まあいつもの挨拶のようなものだ。―――が、彼女の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。


「え、ええええええっ! あの、その、ごめんなさいっ!」


 彼女は慌てて引き剥がすように俺から離れた。いつもと違う彼女の反応に俺は違和感を覚える。


「一体どうし―――」


 見下ろす視界にありえないものが飛び込んできた。俺の手だ。俺の手なのだが、獣の手である筈の俺の手が――――――人間の手だった。


「これは……どういうことだ?」


 俺は降り注ぐ日差しの下、信じられない思いで繁々と両の手を眺めた。



     ***



 あの日から、俺は度々太陽の下でも、人の姿でいられるようになった。残念ながら、いつ獣の姿に戻るのか分からないため、安心して人前に出られる状態にはないのだが、それでも――――――嬉しい。

 これで満足すれは良いのだろうが、人というものは欲深いもので、いずれは常時人の姿でいられるようにならないかと期待を抱いてしまう。


 何故突然、こんなことが起こったのか。


 色々と考えるうち、ある結論に至った。運命の娘が俺を護衛騎士として指名したからではないだろうか。そう、俺は運命の娘から選ばれたのだ。あくまでも仮説にすぎないが、他に原因が見当たらない。

 しかし、俺は護衛騎士となることを断った。異国人である俺がその任に就くのはおかしいだろう。そのためだろうか。人の姿である時間は増えたものの、完全な人であるとは言えない状況にある。このままでは、またいずれ獣の姿に戻ってしまうのかもしれない。


「俺は運命の娘の手を取るべきなのだろうか?」


 もし、あの娘の手を取れば、俺は人として生きることができるのだろうか。

 あの娘は、俺に好意を抱いている様子だった。だが―――……獣の俺は? 獣の姿の俺を見ても同じように思うのだろうか?


 獣の俺は―――俺じゃないのか?


 自己背反律。

 もしかしたら俺は、そのままの俺を受け入れて欲しいと、ずっと思い続けているのかも知れない。



ようやくエピさん編終わり。長かった……

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