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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第4章 たぶん、正義の味方(代役)

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418 魔王、かもしれない……

 暦の上では秋だというのに日差しがジリジリと照りつける。

 武闘大会は結局、白百合の君こと高砂小百合先輩の優勝で幕を閉じ、あの騒ぎも怪獣ショーとでも思われたのか、特段問題にもならなかった。ちなみに学院祭での大飛少年主催のアイドルブロマイドやその他グッズの売上げはかなりのものだったらしい。アンジェリカの売上げ分のいくらかは、私に還元してくれても良いのではないだろうか……


 無理? うーん、でもそれって肖像権の侵害じゃない?


 まあ、そんなこんなで魔法学院は日常に戻り、一部……大多数? の学生を除き院生への進学を目指して再び勉強、勉強、勉強の毎日である。私も勿論、進学に向けて日々師匠と魔法の訓練……と言いたいところなのだが、魔法実技の講義時間だというのに目の前には風で飛ばされないように石が載せられた一枚のメモ書きがあるだけだ。


『ごめーん、色々忙しくて講義ができません。テキトーに自習、ヨロ』


 当然、この場にこのメモ書きを残した師匠の姿はない。


「また今日も自習……ヨロ、じゃないよ。まったく、もう」


 武闘大会の時から、殆ど師匠の姿を見ていない。何でもダンジョンが新規発生したり、突然活性化したり、空間が安定しなかったりと各地で色々と起こっているらしく、時空の魔女である師匠に各地から引き合い(オファー)が絶えない……とのことである。お蔭でしわ寄せが私にやってきて、今日の講義も自習である。


「進学できなかったら師匠の所為だからね!」


 そして、何より問題なのは、碌に教えてくれないくせに課題だけは、山積で残していっているということである。


『訓練場の端から端まで空間移動出来るようになりましょう。

 異空間収納の大きさを十畳程度まで拡大しましょう。

 自分の分身とフォークダンスを踊りましょう。

 帰ってきたら試験するから、ヨロシク。明日葉ならできる!』


 碌に指導してくれないのに全く何を根拠に……

 仕方が無いので、一人寂しく訓練することにする。


「亜空間収納は、結構順調に進んでいると思うんだよね……」


 私の亜空間収納は何と四畳半の部屋……にある押し入れぐらいまで拡大した。


「そりゃあ、十畳まではまだまだだけどさ……あー、独り言が虚しい」


 ということで、空間移動の訓練をすることにする。決して現実から目を背けている訳ではない。

 空間の裂け目を生み出し、所定の空間へと繋げる。残念ながら10m程度離れると安定性が無くなる。ちなみに分身は影法師みたいな存在感が薄いボヤッとしたやつなら何とか生み出せる……。


 ししょー、課題のクリアってかなり厳しくないデスカ?


 兎に角、訓練あるのみ。私は淡々と同じ事を繰り返す。

 機械的に同じ事を繰り返していると、つい色んなことを考えてしまう。

 師匠のコトとか、試験のコトとか、進学のコトとか、これからのコトとか、前世のコトとか、杏子のコトとか、世界のコト……それから……


「ここのところ、エピさんに会えていない……」


 目の前の空間がぐにゃりと歪み、その奥の方に見慣れた“秘密の花園”の風景がぼやっと浮かぶ。その距離はとても遠い。

 学院祭の後からエピさんの姿を見掛けなくなった。秘密の花園に行ってもエピさんがいない。以前も必ず会えていた訳では無いけれど、ここまで会えないのは……避けられているからとしか思えない。


「あのもふもふの身体に思いっきり抱きついて、癒やされたい」


 この間も秘密の花園に行った時、エピさんだと思って抱きついたら……、月来先輩だった。……思い返しても顔から火が出そうになる。

 実は……何度も同じ失敗を繰り返していたりする。

 エピさんと月来先輩が、何となく……雰囲気? が似ているのが悪いんだと思う。姿形は全然違うんだけど……。それより、何であんな処にいるの? 今まであそこで出会わなかったよね? あんな処にいるのが悪い。私の所為だけジャナイ! ……と思いたい。

 いや、そんなコトよりエピさんだ。


「エピさんは私のことが嫌いになったんだろうか……」


 もしかして、私の知らない所で杏子と会っていたりして……だとしたら、何だかとってもイヤだ。私にとやかく言う権利はないのだけれど……。

 杏子は相も変わらずで、とても世界を救う選ばれた乙女には見えない。これって私の偏見? 嫉妬? でもでも……本当に杏子は選ばれし運命の乙女なんてご大層な存在なのだろうか?


 この世界が前世のゲームと同じ道を辿っているとして―――

 選ばれなかった未来は、一体どうなったの?

 アンズが選ばなかったルートで起こった出来事は、その世界において“無かったこと”になるのだろうか?

 もしそれぞれのルートの出来事が、世界のどこかで並行して起こっているとしたら?

 アンズが関わっていないだけで、その裏ではそれぞれのルートのイベントが起こっていたとしたら?

 アンズがアイドル活動をしている裏で、アンズが誰かとイチャイチャしている裏で、魔王が召喚され、世界が滅亡に向かっていたとしたら?

 現実世界でも杏子がどのルートを選択しようと、世界は滅亡の危機に瀕しているのかもしれない。


 考えすぎ?


 武闘大会で起こったことは、あれはやっぱりメインルートのイベントだと思う。現実はところどころゲームと違うものの酷く似通っている。

 ゲームの中では、ソウビ、ユリ、スミレ、ヒナギクのライバル令嬢四人が魔王の手下となり、魔法学院の学生達を贄として魔王を召喚しようとするのだ。召喚するのは二回、どちらも召喚を阻止できなければ、それで終わり(ゲームオーバー)だ。

 一回目の召喚は、ブラックデイジー(ヒナギク)が、歌に呪文を乗せ魔法陣を展開し、ブラックローズ(ソウビ)が魔法陣を解放し、異世界から魔王を降臨させようと目論む。

 現実では、ブラックデイジーに代わり見知らぬアイドルが召喚呪文と思われるモノを歌っていて、歌手の雛菊(デイジー)、つまり菊子はこの件には無関係のようだ。


 ということは、あの四人は魔王の手下にはなっていないのかな?


 今朝も菊子はいつもと変わりなかった。他は董子、高砂先輩、野茨先輩……最近の野茨先輩は何だかおかしいように思う。


「……まさかね」


 ゲームではアンズが魔王の降臨を阻止するものの、その魂の欠片が器となる人物の中に入り込んでしまい、魔王覚醒の切っ掛けとなってしまう。現実でも杏子が魔王の降臨を止めたようにみえるけど、魔王の魂の欠片が誰かに入り込んでしまっていたら?


「もし、魔王になる人物がいるとしたらそれは誰だろう?」


 前世のゲームの中で誰が魔王だったのか私は知らない。まだ思い出していない。

 では、現実世界では?

 日向会長を始めとする攻略対象達は、アンズと力を合わせて魔王を倒す側だから違う。

 野茨先輩たち、ライバル令嬢は、魔王の手下なので却下。

 私が知る限り最も魔王らしいと言えば、師匠だけれど……、この世界がゲームとひどく類似した世界だと考えれば、この手のゲームでは、魔王が隠し攻略対象の場合が多い。であれば、目立つ存在なのにゲームの登場人物の誰にも当て嵌まらない―――


「“夜の人”こと月来先輩」


 彼である可能性が高いのではないだろうか。

 それから、もう一人――――――


「エピさん……?」


 まさかね……。

 そんなのありえない! 絶対、絶対ありえない!!

 そうだよ。この世界がゲームの世界なんて馬鹿げている。師匠が、月来先輩が、エピさんが魔王?


「はは、嗤っちゃう」


 そんなのあるわけないじゃない。


『デモ、周りノ人タチハ、ゲームノ登場人物ト奇妙ニ一致スルジャナイ―――』

『デモ、ゲームト同ジヨウナコトガ起コッテイルジャナイ―――』

『デモ、誰カガ魔王ヲ召喚シヨウトシタジャナイ―――』


 目の前の空間がぐにょんと歪み、私は勢い余って空間の歪みに突入してしまった。ズサーッと転がり込んだのは、ご存じ秘密の花園だった。しかし、そこにはエピさんの姿も、誰の姿も無い。


「え? もしかして私、この距離を繋げたの?」


 嘘でしょ。私にそんな力はない筈。

 まさか、まさか、まさか。

 目を瞑り、指を組んで集中する。フッと気配がして目を開けると、目の前に私が居た。私が右手を伸ばすと、もう一人の私が左手を伸ばし、まるで鏡に映った私のようだ。もう一人の私が微笑むとその姿が淡くなり消えていった。

 何これ、今までできなかったコトが突然できるようになった。


「どういうこと? もしかして、魔力量が上がってる?」


 一体いつからだろう? 心当たりなんて…………まさか、あの武闘大会の時から……?

 心臓がバクバクと脈打つ。


 そう……、まだ魔王候補がいた。


 ゲームには登場していないのに、奇妙にゲームに関わっている人物が……

 もしかして、魔王は―――





「私?」





魔王ダービー

本命:夜の人

対抗:師匠

大穴:エピさん

ダークホース:・・・


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