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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第4章 たぶん、正義の味方(代役)

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408 モヤモヤ

「クスクスクス……」


 隣の席の男子に耳打ちされ、潜めた笑い声と共に兎の耳のような巨大なリボンがゆらゆらと揺れる。私はその様子をぼんやりと眺めながら考える。

 杏子は猫が好きだろうか。それも、巨大な猫。

 子猫なら、『子猫をかわいがっている私って可愛いー』とか何とか思いながら、動物好きをアピールしそう。

 でも、もしそれが巨大な猫だったら? 虎だったらどうだろう?

 思いっきり抱きついて、そのもふもふの毛並みに顔を埋めたりするのだろうか?

 …………。


 ―――何か……ヤダ。


 心の奥底がモヤモヤする。

 何で杏子なんだろう?

 この世界の主人公だから?

 精霊が言うには、エピさんが人間の姿になるためには、運命の娘に選ばれる必要があるんだって……

 選ばれるってどういう意味?

 ゲームに似た世界だもの、やっぱり恋愛対象として選ばれるってことだよね。でも私が知る限り、ゲームにはエピさんが恋愛対象となるルートは無かった筈。

 エピさんは巨大なもふもふの猫。きっと、エピさんの人間の姿は、お腹がポヨンポヨンとしたちょっとぽっちゃりの男の子か、むくつけき髭面の大男だよ。


 うん、杏子の好みじゃないね。


 杏子の好みは、顔が整って、スラッとした王子様のような人の筈。ほら、日向会長とか夜の人のようなね。

 うん、エピさんは、残念だけど杏子の好みジャナイ。絶対。

 何だ。そう考えたら、エピさんが杏子に取られることなんてないじゃない。


 …………。


 ああ、自己嫌悪。

 本当ならエピさんを応援しなければならないのに、私って何て嫌なヤツなんだろう。自分自身が嫌になる。


 だって―――、エピさんの心が杏子に向いたら嫌なんだもん……


 視線の先では、有明先生が杏子達の私語を注意している。杏子は可愛らしく「すみませーん」なんて巨大なリボンを揺らして謝っているけれど、本当に思っているのかな?

 可愛い、可愛い杏子。全ての人に愛されて、何をしても許される―――


 あなたは、何でも持っているでしょ!

 アノ人ダッテ、オ**サンモ、オ**サンモ、アナタノ側ニイルジャナイノ。

 コレ以上、私カラ奪ワナイデ!


 ……ん? あれ? 今私、何考えた?

 キョロキョロと教室内を見回す。教壇には有明先生がいて、一瞬目が合ったように思うけど、先生は何事も無かったようにスッと視線を外した。ここはへ組の教室、へ組の皆が席に付いていて、今はホームルーム中だ。


「この組からは他に武闘大会への出場者はいないな」

「せんせー、今からでも出場登録(エントリー)できるんですか? 俺、ヤっちゃおーかなー。ついに俺の秘めた力が今白日の下になっちまうぜ」


 クラス一のお調子者が手を上げ質問した。彼も杏子の取り巻きの一人だった筈だけど、そういえば最近杏子の側であまり見掛けないような気がする。


「お前の実力じゃ、危ないから止めておけ。ま、ボコボコにされたいのなら止めはしないがな。出場希望者は今日の十七時までに申込書を持ってこい。時間厳守だ」


 もうすぐ王立魔法学院の学祭が開催される。

 始まりは魔法騎士科と魔法戦士科の戦闘系学科の試験として開催されていた武闘大会だった。大会で活躍した院生は、騎士団や魔術師団に勧誘されることから、いつしか騎士や魔術師への登竜門と呼ばれるようになっていた。その後、門戸が広げられ、学科に限らず入学生でも大会に出場可能となったのだが、まあ、大抵は手も足も出ず予選敗退することになる。

 ちなみに白百合の君や竜胆は、入学生でありながら大会で優秀な結果を残し、騎士候補生として王国騎士団に籍を置いている。もちろん、彼らは例外中の例外である。

 武闘大会が盛り上がる中、武闘系だけでは不公平であると、武闘大会の開催に併せ魔術解析学や魔法工学、魔法薬学などの研究系の発表会も行われるようになった。

 さて、ここで自治会の登場である。この時期に蚊帳の外に置かれる入学生達も楽しめるようにと、武闘大会や研究発表会の他にも催し物や出店など幅広く開催し、学院祭というかたちにしたのだ。殆どの院生にとっては試験の場にして、就職活動の場であるのだが、入学生や一部の院生にとっては学院をあげてのお祭りなのである。

 そう言えば、前世のゲームの中では、アンズの愛の力? で、王子と騎士は武闘大会で優勝、文官は研究発表で最優秀賞を取っていたっけ……

 もしかしたら、大会の結果によって杏子がどのルートなのかわかるかもしれない。

 でもそれはルート分岐してからの話で、一年後の筈。それとも、ルートによって時間の流れが違う?


「へ組では喫茶店を申請していたな。準備は進んでいるのか」

「ええ、お兄……有明先生、深海カフェですわ。飲食店は希望が多いらしく、抽選とのことでしたが、運良く許可されましたの。是非、おいで下さいね。サービスいたしますわ」

「へっ!?」


 え、え、え……へ組で何かをやるなんて初耳なんですけど……

 もしかして私、仲間はずれにされた? いくら存在感が薄いといってもそれは酷すぎない?


「えーっ、そんなの聞いてなーい!」


 あ、これは私じゃないよ。杏子が勢い良く立ち上がって、抗議の声を上げた。どうやら、知らなかったのは私だけではなかったようだ。


「なんでぇ、あたしに黙って勝手なことしてるのーっ! あたしに黙って決めるなんて、ひどーい!」


 いつも中心にいなければ気が済まない杏子は、声を荒らげ董子に食って掛かる。まあ、今回だけは杏子に賛同する。でも、私は怒りよりも哀しみの方が大きいかな……


「佐倉さんには、お声がけしませんでしたもの。お忙しいのでしょう? へ組の有志があつまりましたの。運営は董子たちが行いますから、お気にならさないでください」


 もしかして、私達が自治会の仕事をしているということで、親切心から除外されたのだろうか? アイドル活動とかもしていたしね。でも一声掛けてくれても……


「有明先生、深海カフェのことでちょっとご相談がありますの。この後、お時間いただけますかしら。では佐倉さん、打合せがありますのでこれで失礼させていただきますわ」

「ちょっとーぉ」


 董子が有明先生に腕を回し、教室の外に連れ出し、その後を追うようにガタガタッと皆が席を立つ。結構な人数がいて、そこには杏子の取り巻きも少なくない。


「もー何なのぉ!」


 杏子の周りに残された取り巻きの数は三人と、いつもよりも少なかった。

 は?これってどういうこと?


「ちょっとーっ、待ちなさいよぉ」

「あ、あんずちゃん」


 杏子達が董子を追って教室を出ていった。

 なんか釈然としないまま私はポツンと教室に取り残されたのだった。




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