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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第4章 たぶん、正義の味方(代役)

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407 【挿話】天城三千代

 私の名は、天城三千代。人は私を美しき時空の魔女と呼ぶ。

 私は如月家の現当主の娘として生を受けた。如月家は、希少な空間魔法の使い手を輩出している家門で、この国の空間魔法の使い手はほぼ如月の血筋と言っても過言ではない。

 如月家の長子であり、超優秀な私は、いずれ婿を取り次期家長となる予定だったのだけれど、なんと魔法学院在学中に夫と運命の出会いってヤツをしてしまった。陳腐なロマンス小説みたいだけど、ホントなのだから仕方がない。

 夫は名門天城家の一人息子だったため、両家の話し合いで私が嫁として天城家に入り、生まれた子供に空間魔法の能力が発現したら、如月家を継がせるということになったのだけど、幸か不幸か二人の息子のどちらにも空間魔法の能力は遺伝しなかった。もう一人子供を、と実家からの圧力が増す中、無能力者である妹に予期せず能力持ちの子供が生まれ、私は重圧から解放されたのだった。


 グッジョブ妹! この点では感謝している。


 まあ、その後も色々あったけれど、兎に角、後継者問題は解決されたのである。でも私が如月の名前を継がなくても、希少で超優秀な空間魔法の使い手には変わりがない。空間魔法の使い手には、とても重要な役目があるのだ。


 “ダンジョン”というものをご存知だろうか。


 この世界には、こことは異なる空間、つまり異世界と繋がっている場所がいくつか存在する。ただ、異世界と言っても閉ざされたテラリウムのような空間で、どちらかというと“異世界の欠片”といった方が適切かも知れない。この異世界の欠片と繋がる地点には偏りがあるようで、ある特定の場所に複数の欠片が集まる傾向があるらしい。当初政府関係者は、そのような場所を世界の衝突点と呼んでいたけれど、いつの間にか世間ではダンジョンと呼ばれるようになっていた。閉ざされた空間が地下の牢獄を想起させたのかもね。


 兎に角、異世界の欠片は宝の山である。この世界でもお馴染みの金銀鉄などの鉱石に加え、未知なる鉱物や動植物などの多種多様な素材が採取できるのだ。異世界の欠片はこの世界に稀少な資源を齎す一方で、危険も齎す。魔獣(モンスター)と呼ばれる未知の生物が跋扈していることも少なくなく、それらが、こちらの世界に侵入してくる可能性もある。

 まあ、こちらから行けるということは、当然あちらからも来られるということだ。

 あちらから漏れ出した生物は、こちらの世界で繁殖することもあり、それらが資源か脅威か、微妙な面もある。その昔、冒険者だか、探検者だか言う狩人が、こぞって獲物にしていたということだが。この国では生計を立てることが難しく廃れて久しい。異世界の欠片は限られた空間であり、資源も無限に供給されるわけでもなく、やがて枯渇してしまう。辺境ではダンジョンから採れる資源が枯渇し、経済的に危機に瀕しているとも噂されている。


 お気の毒。まあ、私には関係ないけど。


 しかし、このところ新たな異世界の欠片の衝突が多数確認されており、これはこの国でだけでなく、世界的な傾向であるらしい。これを国家が放っておく筈がない。新たな世界の衝突が起こると、すぐさま調査隊が派遣されることになる。今まで調査隊からは、閉ざされた空間のみ報告されているが、もしかしたら、そのうち欠片とは言えないような巨大な世界に繋がるかもしれない。幸いか、残念か、今のところそのような世界は発見されてはいない。


 まあ、どうでもいいけど。


 さて、ここで空間魔法の使い手の登場である。まず空間魔法の使い手は、異世界の欠片をこの世界に固定する。異世界の欠片がこの世界から離れてしまっては、安心して探索ができないからね。そして、場合よっては、あちらからの侵入を防ぐために扉を設ける。とはいえ、その扉も完全なものとは言い難く、この世界への侵入を許すことも多々あるのだけど、もちろん、超優秀な空間魔法の使い手であるこの私がそんな中途半端なことをする訳なんてない。

 兎に角、私はこの所の異世界の欠片の衝突ラッシュに駆けずり回っていた。いくら空間魔法で有名な如月家とはいえ、優秀な空間魔法の使い手は限られている。超優秀な私への負担は大きく、魔法学院の特別講師としての着任が遅れてしまった。

 魔法学院、通称魔学では、久々の無属性の入学生に、超、超優秀な空間魔法の使い手である私、天城三千代を招聘した。無属性、それも空間魔法については、既存の教師では対応できる訳がない。ちなみに、その無属性の入学生は私の弟子で、私が特別講師として指導できるように手を回したのだけどね。でも私が講師として現れる事はあの子には()()()


 ふふふ、弟子の驚いた顔を見ることができて、私は大満足だ。


 私は悪い師匠である。

 私の弟子である明日葉には、まだ幼い頃に認識阻害の魔法を掛けた。そこに存在することは認識できるが、はっきりとは印象に残らない、曖昧な記憶の中に存在する人間となる魔法だ。かなり匙加減の難しい魔法で、多分私で無ければ、これだけ微妙で高度な魔法は使えないだろう。

 だた、それであの子は辛い思いをしてきたかもしれない。でも私にはそれくらいしか思い付けなかったのだ。あの子を世間から隠す必要があったから―――

 あの子の能力は特別だ。その力を知ったら為政者は、否、誰もが欲しがることだろう。

 あの子を守るためには、仕方が無かったのだ。

 ……。

 本当はどうすれば良かったのか今でもわからない。


 まあ、ヤっちまった事は仕様がない。今更悩んでも時は戻らないのだ。

 でも、結果オーライ。明日葉は良い子に育ったと思うよ。師匠の贔屓目かしらね?


 さて、卒業以来、久々の魔学である。あの庭はどうなったかな? なんて昼寝をする場所を求めて彷徨いていた。在学中に認識魔法で囲った空間は、私と夫との思い出の場所で、よく二人でサボって昼寝していたものである。その魔法はまだ生きているようだ。にしては、綺麗に手入れされている。

 そういや、プロムナードの後で、結婚申込み(プロポーズ)されたのもあの場所だったっけ……

 そんなことをつらつらと考えながら、その場に行くと、うちの弟子と巨大な二足歩行の猫が抱き合っていた。


「うーん」


 これってどういう状況かね?

 確か明日葉は鬼頭商会の倅に入れ込んでいた筈。

 趣味が変わったのかねぇ?

 こんなに毛深いのが好みとは知らなかった。これじゃあ、うちの息子に勝ち目はないね。なんて思っていたら、更に美男子(イケメン)登場。

 あら、どっちが本命?

 どちらにしろ、アンタたち、私の可愛い()()()をよろしく頼むわね。





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