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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第4章 たぶん、正義の味方(代役)

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404 時空の魔女2

 クシャクシャに丸められた紙袋と珈琲牛乳の空き瓶が放物線を描き、何もない空間にスッと飲み込まれていった。そこに波紋だけが僅かに残る。

 亜空間収納だ。


「…………」


 ……だよね? まさか異空間に不法投棄した訳ではないよね?

 ともかく、師匠が亜空間収納を使えるとは、十年近く一緒に暮らしていたのに知らなかった。私が鈍くて気付かなかっただけなのか、それとも私には意図的に秘密にしていたのか……

 どちらもあり得そうな気がしないでもない。


「さ、時間が勿体無い。で、アンタ、何ができるの? 一通りやってみな」


 師匠がいきなり振ってきた。忘れかけていたけれど、今は魔法実習の授業中だったのだ。


「えーっと、えーっと、私も亜空間収納ができます」


 私の亜空間収納は、今はなんと、大きめのリュックくらいまでは収納できるようになったのだ。ねえ、これって凄くない?

 私は亜空間収納から色々と取り出して、師匠の目の前に積み上げてみせる。教科書、筆記用具、ハンカチ、ちり紙(ティッシュ)、師匠から餞別に貰った謎の本、枕……


「ん? これは……」


 カサカサに乾燥した花冠が出てくる。杏子が放り投げたモノを無意識に拾って仕舞っていたらしい。それを枕の上に載せる。あ、枕は亜空間収納が空いているのが勿体無くて、単に入れてみただけで特段の意味はない。


「は? 何これ、たったこれっぽっち? しょぼいわ」

「えーっ、師匠酷い。これでも大分収納力が増したんですけど」


 最初は化粧ポーチサイズだったんだから、収納力何十倍、いや何百倍だよ!


「ふんっ、亜空間収納ってのはね、こういうのをいうのよ」


 師匠が前方へ右手を突き出すと、何もない空間に楕円状に波紋が広がり、身長ぐらいの裂け目が生じる。


「ほら、来な」

「わっ」


 師匠が私の手首を掴んで空間の裂け目に入り込む。バランスを崩し私は点々と数歩前へ―――

 目の前に広がっていたのは大空間だった。

 天井は高く三階建てほどあろうか、向こう側の端がず-っと遠くに見える。巨大な体育館、……みたいな倉庫だった。そこは、訳の分からない雑多な物で溢れかえっている。欠けた茶碗や戦車の砲台のようなモノ、何かぶにょぶにょしているモノ、それらが全く整理されず無秩序に置かれている。

 あ、牛乳瓶……

 さっきのヤツかと思ったら何十個もある。


「ほほほほほ、亜空間収納を名乗るなら、このくらいはなくてわね」

「いや、それより整理整頓しようよ」

「もう生意気。まあ、いいわ。それより明日葉、亜空間収納を使えることは秘密にしときな。バレたらこき使われるよ。まあ、今のあんたみたいな頭陀袋程度なら問題ないと思うけれど、下手したら戦争に利用されるね。大量の物資が簡単に運べるってことは、どこの軍隊にとっても喉から手が出るほど欲しい能力なんだから。アンタはまだ子供だ。自分自身を守る術を持たないから自分の意志とは関係なく、簡単に利用されてしまう。お国のためだとか綺麗事を言われて、ホイホイ言うことを聞いていたら、大量虐殺に手を貸すはめになるよ。将来、アンタが信念に基づき行動するのは否定しないが、その時はよく考えることだね」

「……」


 何か師匠がまともな事を言っているような気がする。幻聴かな?

 亜空間収納に関しては、積極的に吹聴して回った訳ではないけど、別段隠していた訳でもない。

 そのうち、ダンジョンの荷物運びで大儲け、と思っていたんだけどなあ……。でも、今くらいの容量であれば多分問題ないよね。人前では容量を控えればいいんだし……


「アンタ、良からぬ事を考えているね」

「あうっ」


 痛っ! 師匠のデコピンが私を襲った。


「さあ、他の魔法を見せてみな」


 うう、酷い……自分は倉庫にゴミをため込んでいるくせに。

 私はおでこを摩り摩り、一番自信のある魔法を披露することにする。胸の前で魔力を錬るようにして……集中!


 ブワッ!


 光の蝶々が無数に現れ、光を放ちながらひらひらと辺りを舞う。ムー君がその巨体で幻影の蝶々にじゃれつこうとするが、前足はスカッと宙を切り、口はかふっと宙を噛む。

 ふふん、どう? 私の幻影魔法は! 本日は何時もよりも派手にやっております。


「ん、何コレ? 蛾?」

「ししょーっ!どこからどう見ても蝶々でしょ!」


 こんな綺麗なのが蛾である訳がないじゃない。師匠の目は節穴か!


「あー蝶ね。光に集っているから、蛾かと思った。でも蝶でも蛾でも、私、この手の鱗粉撒き散らすヤツってあんまり好きじゃないんだよねー」

「そんな身も蓋もない……」

「明日葉、知ってるか。蛾と蝶に明確な違いはないらしい。この間ラヂオでお偉い先生が言ってたぞ」

「へー、そうなんだ」


 止まっている時の羽根の形で区別するのだと勝手に思っていた。ちなみに私の認識では縦にピタッと羽根が重なっているのが、蝶々ね。


「それより、明日葉、自分の影は生み出せるのかい?」

「へ? 影?」


 私は反射的に足下に視線を向ける。お昼近いので、私の影はそんなに伸びていない。これと幻影魔法と何か関係があるの? ああ、名前に影が入っているか……って関係なくない?


「そう、影。自身の分身を生み出して、敵の目を欺くのよ」

「いや、敵って何?」

「ほら、こんな風にね」


 師匠がパチンと指を鳴らすと、ぐにょんと師匠の影が立ち上がり、ドンドン膨れ上がる。そしてそこには、師匠が二人居た。一人は何だかボヤッとしている。そのボヤッとした方の師匠が私の後ろからのし掛かり、頬をツンツンと突く。が、幻影なので何の感覚もない。


「こうやって、敵を翻弄するの」


 だから、敵って何? 私、戦場にでも送られるの?


「分身を生み出せると便利よ。こっそり授業を抜け出して、焼きそばパンを買ってきたり、夜に寮を抜け出したり……」


 碌な事に使ってない!


「五分程度しか持たないのが難点かな?」

「いやいや、それ意味ないでしょ」


 師匠がパチンと指を鳴らすと、もう一人の師匠と幻影の蝶が一瞬で姿を消した。師匠は他人()の魔法にも干渉できるようだ。


「で、他に出来ることはないの?」

「んー……」


 あとは、空間を歪めて、どこかよくわからないところに繋げることかな?

 掌の上で、ぐにょんと空間を歪め、師匠の亜空間収納の入り口みたいなものを作ってみる。中はうねうね、ぐにょぐにょとしており、これは入ったらダメなやつだと本能が告げる。


「どこに繋がってんの?」

「さあ?」

「役に立たねーっ!」


 でも、これでもダンジョンでは魔獣退治に結構役立ったんだよ。まあ、その後に起こることには責任持てないけど……


「いいかい。何処に繋げるか意識しな。そうだね。まずはあの辺りに繋げてみな」


 師匠が示したのは、訓練場の端だ。

 私は師匠が示した場所に繋がっているのを意識して空間を歪める。ぐにょんと歪んだ空間の中に風景が見える。まさにあの場所だ。右腕をそっと入れてみると、訓練所のその場所の何もない空間に波紋のような空間の揺らぎと共に腕だけが現れた。拳を握ったり、開いたりすると、宙に浮いた腕も拳を握ったり、開いたり……


「えいっ!」

「うわっ」


 師匠に背中を押されて目の前の空間に突入、勢い余って転びそうになった。顔を上げると同じ訓練場の中だけど、景色が変わっている。


「できたじゃん」


 師匠の声が横側から聞こえた。そちらに目をやると、そこは私がさっきまで居た場所で、師匠とムー君の姿がある。


「もう、何するんですか!」


 でも……、もしかして、もしかして、もしかして、私の思い浮かべた場所、何処でも移動できる?

 例えば、私の寮の部屋。

 ぐにょんと歪んだ空間の中に私の机とベッドが見える。


「え、……遠い」


 見えた景色が小さいのだ。その周りをぐにょぐにょ歪んだ空間が取り囲んでいる。とてもあそこまで無事に辿り着けるとは思えない。このうねうねぐにょぐにょに引き込まれたら一体どうなるのだろう?


「まあ何事も修行だね」


 師匠が亜空間収納からキセルを取り出して吹かす。


「あれ? 師匠ってタバコ吸いましたっけ? 身体に悪いからやめて下さい」

「ああ、これ? タバコじゃない。幻惑香。用心するに越した事はないからね。隠蔽魔法を使うと逆に目を惹きそうだし」


 ん? どういうこと?

 ポンと落とした灰が空間に消えていく。


「師匠、灰を空間収納に入れているんですか?」

「んな訳ないじゃん。灰皿代わりにどっかの空間へ適当に落としているよ」

「いや、ダメダメダメ。下手したらどこかの異世界が火事になっちゃう!」

「はあ? この私がそんなドジ踏むわけないでしょ。ちゃんと酸素も光も何にも無い空間を選んでいるわよ」


 それってまさか宇宙空間とか?


「それで、他に出来る魔法は?」

「えーっと」


 ―――『変身』


 声が聞こえた。

 いやいやいや、あれはナシ!


「何だもう打ち止め?」

「むー」


 未来視……は、……あれって未来視なのかな?

 口籠ってしまう。何だか悔しい。

 ポンと師匠が私の頭に手を載せた。


「ま、あんたにしては良く頑張ったよ。上出来」


 え、あれ?何だろう? 目から何かがこぼれ落ちてきた。別に師匠の言葉なんて何でもないわけで、私は特段寂しくも、哀しくも感じていたわけではないのに……

 ぽつぽつと足元に滲みができる。

 師匠が頭を撫でてくれる。ただそれだけが何だが嬉しい。もしかして私は早く自立しなければと、今まで気を張っていたのかもしれない。きっと私はずっと誰かに認められたかったのだ。

 理由の分からない涙が引っ込んだ頃、師匠が言った。


「あ、そうだ、明日葉。アンタの選択講義の申込み用紙、私が代わりに提出しておいたからね」

「はあ?」


 師匠の手には、選択講義の申込書の控えがひらひらと揺れていた。


「何勝手なことをしているんですか!」



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