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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第4章 たぶん、正義の味方(代役)

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402 精霊の冠

 変な夢を見た。

 多分、前世のゲームの場面だと思う。


「魔王、魔王かあ……」


 何故か空にギョホホホーっと飛んでいった謎の物体を思い出した。


「いや、まさかね」


 あのライバル令嬢の面々が揃って(しもべ)になる様な相手だよ?

 魔王と言えば大抵の乙女ゲームでは隠し攻略対象、無条件で美形に決まっている。あんな何だか分からないものの筈がない。


「ほらアスアス、急がないと遅れちゃうよ」


 今朝の夢を反芻していたら、菊子に責っ付かれた。菊子は夏期休暇の間、師匠のカトレア蘭子の付き人をしていたそうで、地方公演に同行し、前座として舞台に立たせて貰ったと、飽きるほど聞かされていた。

 そういや菊子、あんたも敵方の四天王として登場していたわ……

 菊子の制服の胸の辺りに視線を向ける。


「……」


 まあ、随分盛っていたようだけどね。


「ちょっと、何?」

「んー、別に」


 さあ、今日から魔法学院の後期突入、張り切っていこうじゃないですか。

 でもこの寝癖、全然治らない……



     ***



 夏期休暇明けの教室内はガヤガヤと騒がしかった。

 へ組は前期と変わらず、杏子とその取り巻きの男子グループ、董子を中心とした女子グループ、その他我関せずの男子達の大まかに三つに分類されている。私は相変わらず董子一派の末席として、窓際最前列の董子達女子三人組の後ろの席に座っていた。


「ヘー、ホー、フーン、スゴイネー」


 私は前の席で盛り上がっている話に適当に相槌を打つ。ドコダカの別荘に行って普段と代わり映えしなかっただの、ナントカ言う有名な避暑地で過ごしたが退屈だっただの、つまりアレだ。自慢話だ。まあ貧乏人には関係無い話である。ちなみに、私が夏期休暇にダンジョンに潜ったと話したら引かれたわ。

 それにしても、私ここに居る必要ある? 今更だけど、何か場違いのような気がしないでもない。

 右隣を見ると、一つ空席を置いていつもの如く眼鏡クンがおり、毎度の事ながらちらちらとこちらに視線を向けてくる。

 もう、なんなの? そんなに警戒しなくても、杏子に噛み付いたりなんかしないってば!

 こちらからお返しとばかりジーッと見詰めていたら、眼鏡クンがチラッとこちらを向き、その瞬間、慌てて視線を外した。


「ふっ、勝った! ……んっ?」


 よく分からない勝負のよく分からない勝利に満足していると、目の前を茶色に変色した枯草を頭の上に掲げた綿埃―――もとい精霊が数匹、列を成して横切って行った。精霊達は私になど目もくれず、空中をふよふよと浮きながら教室の中央前方部へと移動していく。それにしても、こんなに堂々と行進しているというのに教室内の誰も気にならないのだろうか? 気付いていないだけ? いや、もしかして私以外誰も見えていないのかも?

 ちらりと横を見ると眼鏡クンが精霊の行進を凝視していた。どうやら、全員が見えていない訳ではないらしい。

 精霊達はふよふよと上下しながら進み、その先には―――


「きゃははっ、それでぇ、ダンジョンの泉でぇ、精霊のじょーおー様にお願いされたのぉ。やっぱりぃ、あたしが特別だからかなぁ?」


 甲高い声が教室内に響く。久々に会ったけど、後期初日からいつもに増してぶりぶり全開である。


「さっすが、あんずちゃん。ダンジョンに入るだけでも勇気がいるというのに、精霊の女王に頼み事をされるなんて、運命の乙女は違うなあ」

「くっそー、俺も一緒にあんずちゃんと行けてたらなあ……見たかったなあ」


 君達、それ本気で思ってます?


「うふふふふ。日頃の行いの違いかなぁ? でもぉ、じょーおー様のお願いを叶えてあげたのにぃ、あたしに王冠をくれなかったのぉ。じょーおー様ったら、あたしとの約束を破ってぇ、酷いと思わない?」


 どの口が言うかな。


「あんずちゃんを裏切るなんて、許せん!」

「女王とは言え、精霊なんてやはり信頼に足る存在じゃありませんね。王冠とはいきませんが、代わりに僕から何か贈り物をしますよ」

「抜け駆けずりーぞ。俺もプレゼントするからね。あんずちゃん」

「みんなありがとー。みんななら分かってくれると思ってたぁ」


 杏子は出てもいない涙を拭うふり。

 この間にも精霊達の行進は、ふよふよと杏子に近づき、その頭上で停止した。どうやら杏子とその取り巻きには見えていないようだ。


 バサっ!


 精霊達は枯れた草の塊を杏子の頭の上に落とす。


「ぎゃっ、何!?」


 杏子は頭の上の物体を慌てて振り払った。床に落ちたのは、輪状に編み上げられた干からびた草の塊だ。殆ど萎れて変色しているものの、特徴的な形をした花の一部が原型を留めたままドライフラワー化しているのが見て取れる。多分元々は花冠だったのだろう。

 うーん、何だか見覚えがあるような、ないような……


「あ、……」


 もしかして、あれって例の“精霊の女王”の花冠では……?

 杏子は王冠と言っていたけれど、私の目には、“精霊の女王”の頭の上にちょっと珍しい花の冠が乗っているなーくらいにしか見えていなかったのだ。まあ、花冠を王冠と呼べば呼べなくもないか……も?

 と言うことは、つまり、精霊達が杏子に報酬を持ってきたということなのかな?

 杏子は精霊の女王の冠が欲しいと言っていたものね。


「……」


 嫌がらせにしか見えないけれど、まあ、杏子のやらかしたことを考えると、報酬としては妥当かもしれない。


「もおーこんなゴミを投げてくるなんてひどぉ―い!」


 杏子が私達の方へ怒りに満ちた顔を向ける。

 いやいや、誰も何もしていませんが……それに、それはあんた自身が望んだものでしょ?


「佐倉さん、一体何のことかしら?」


 董子が心外とばかりキッと杏子に鋭い視線を向ける。


「こんなことをするのは、あなた達でしょ、いくらあたしが可愛いからって、こんなのひどぉーい。あたし、泣いちゃうー」


 杏子の取り巻き連中に騒めきが生じる。


「おい、あんずちゃんをいじめるな!」

「そうだぞ、いくらあんずちゃんが可愛いからって嫉妬するなよ!」

「「「そうだ、そうだ!」」」


 取り巻きの男子達は理不尽にも盲目的に杏子側につき、私達へ抗議の声を上げる。それにしても、ちょっと短絡的すぎない? まあ、きっと真実はどうでも良くて、単に杏子の関心を得たいだけなのだろう。


「失礼ね。董子たちが何をしたっていうの? おかしな言い掛かりは止めて貰えます?」


 董子の言い分は正しい。だって犯人は精霊達なんだもん。董子の左右、心持ち退いた感じで小田さんと星野さんが「そうよ、そうよ」と悪役令嬢の取り巻きのような相槌を打っている。ん? あれ? もしかしてほぼ傍観者な(つもりでいる)私も董子側の一員に含まれてる?

 でもまあ、当然杏子側の人たちにそんな真実は通じないわけで……

 一触即発。二つのグループが対立する。


『ニンムカンリョー』『オシゴト、オワリー……』『エライ、エライ』


 一方、元凶である精霊達は、満足げにふよふよと空中散歩中だ。


 ふよふよー、ふよふよー……


「全く、お前らは大人しく席について待つこともできないのか」


 気付かぬうちに本鈴が鳴っていたのだろうか、有明先生の登場である。杏子とその取り巻き連中が慌てて席に付く。


 キーン、コーン、カーン、コーン……


 いや、今鳴ったよ。先生、来るの早すぎ!


「お兄様、聞いて下さい。佐倉さんったら酷いんですのよ!」

「学校では先生だ。お前も座れ。話は後で聞く」

「もぉっっ」


 机に手をついて立ち上がり、前のめりで抗議体勢をとっていた董子もストンと席に腰を落とす。有明先生は教卓に立つと教室内を見渡し、口を開いた。


「よし、皆揃っているな。今日から後期の講義が始まるが、後期はより専門的なものとなる。一般教養の共通講義以外はそれぞれ選択制となるので、各自希望の講義を用紙に記入のうえ、明後日までに提出すること。お前らの将来にかかわることだ。自身の適性にあったものを選択するように。では、用紙を配る」


 配られたのは、後期の時間割と選択制の講義の概要、申込み用紙だ。選択制の講義には剣術、魔法工学、魔法薬学、戦闘魔術などがあり、進学の際の専攻に関連するもののようだ。

 さて、何を選ぼうかな……

 講義の概要に目を通していたら、精霊達が目の前を横断し、窓際まで移動していった。そして、木製の窓枠の隙間にむりむり身体を潰して押し込み、悪戦苦闘しながら外へと抜け出すと、ポンっと元の綿埃に戻り、風に吹かれてどこかへ行ってしまった。


 何か狭い隙間に入り込むカメムシを思い出した。


 あの干からびた花冠は、教壇と最前列の机の間に放置されたままだ。あれが杏子への報酬だとしたら、他の皆にもあるのかもしれない。特に要求はしていないけれど、私にもあるのかな? いやいや、自分に都合の良いように考えるのは止めよう。相手は精霊だよ。コレを見たら期待できるものではない。


「ああ、それと、今日の魔法実践訓練から属性ごとに担当教官が付く。闇属性については引き続き私が担当することになるが、光属性は深山教諭となる。深山先生、こちらに来て挨拶を」


 教室の扉からひょいっと顔を覗かせ、入ってきたのは、まだ学生と言ってもいいような童顔の教師である。へ組で直接講義は受けたことはないが、校内で見掛けたような気がする。


「やあ今日から光属性の実践訓練を受け持つ深山だよ。ヨロシクね」


 深山先生は、キョロキョロと落ち着きない様子で教室内を見回すと、杏子のところで目を留めた。


「やあ、君が預言された選ばれし運命の娘だね。君を指導できるなんて光栄だなあ」

「深山先生、特定の生徒に肩入れされるのは……」


 さすがに有明先生の諫言が飛ぶ。


「いやあ、ごめんごめん。つい舞い上がってしまったよ。さあ、光属性のみんな、訓練場へGOだ!」


 そういうと教室から出て行き―――


「あれ? みんなどうしたのかな?」


 深山先生が扉から顔だけ覗かせ、誰も付いてこないことに疑問を呈した。光属性の学生は、その言葉に従っても良いものか、有明先生の顔色を窺う。有明先生が頷き、深山先生に従うよう促したので、戸惑いながらも光属性の学生はパラパラと席を立ち、深山先生の跡に付いて行った。ちなみに隣の眼鏡クンもその中にいる。


「では、闇属性の学生は速やかに第七訓練場に移動」


 有明先生の指示に教室内に残った闇属性の学生達がガタガタと立ち上がる。

 え、ちょっと待って! 無属性の私はどうしたらいいの?


「先生っ、あの、私は……」


 慌てて有明先生を捕まえると、一瞬、“しまった忘れていた!”という表情を浮かべ、直ぐさま何事も無かったように表情を覆い隠した。

 先生、誤魔化してもちゃんと見ていましたからね!


「ああ、君の指導官は……」

「やあ、すまん、……間に合ったか?」


 そこに突然の闖入者、サンダル履きのおじさんが現れた。教職員用の(くり)色のローブを羽織っているので、多分魔法学院の先生なのだろう。


「染井先生、どうされましたか?」

「ああ、ちょっと頼まれてね。えーっと、君がキサラギアスハさんだろうか?」


 染井先生と呼ばれたおじさんは、目を細染めて私の顔を見ながら、「う、老眼が始まったのか?」なんて小声で呟きながら、首を傾げる。


「はい、私が如月明日葉ですが……」

「そうか、それじゃ無属性の実践訓練をやるから付いてきて」

「あ、え、はい」


 有明先生に視線を向けると、頷いたのでそのままついて行くことにする。

 もしかして染井先生が私の――無属性の担当なのだろうか?

 私の視線に含まれる疑問に気付いたのか、染井先生が口を開いた。


「あー、無属性については、私は担当ではないのだが……まあ代理というか……その遣いだ」

「はあ?」


 何だか要領を得ないまま付いていくと、今まで使用したことのないだだっ広い訓練場に連れてこられた。

 そこで待っていたのは―――



「え、え、えええ!? 何でこんな処にいるの???」


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