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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第3章 たまに冒険者

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320 愛と勇気と希望の……

「ドゥームフォルトゥーナ、マジカルアンジェリカ、ベアアームズ!」


 私を包む光が脚に集まり脛当てに、手首に集まった光が籠手に、胸に集まった光が胸当てに、頭上に集まった光が天使の輪に似た冠に変わる。

 そして頭の中に精霊の声が……


 “愛ト勇気ト希望ノ、魔法戦士、ココニ参上……コノ世界ハ、私ガ、守ッテミセル!”


 いや、言わないよ。

 そう言うのは既に十歳の時に卒業してるんだから。


 “愛ト、勇気ト希望ノ、魔法戦士、ココニ参上。コノ世界ハ、私ガ、守ッテミセル!”


 だから、言わないからね。


 “愛ト、勇気ト希望ノ、魔法戦士……”


 しつこい!


 “愛、ト、勇気、ト……”


 ああっ、もう!


「愛……と勇気と…希望の……魔法……戦士参上……世界は私が守ってみせるっ!」


 ボソボソっと……あー恥ずかしい。

 そして、ここでポーズ。チャラーンと効果音が聞こえた様な気がする。幻聴?


 “……ヨシ”


 精霊が満足気に頷いたような……


「って、ちょっと待って、悠長にこんな事している場合じゃない!」


 慌ててドラゴンを見ると、


「止まって……る?」


 変身完了まで待っていてくれているなんて、ドラゴンも分かっているじゃない。


「じゃなーい!」


 次の瞬間、我に返ったようにドラゴンが私に鋭い爪を振り下ろした。

 咄嗟に爪を避け飛び退く。

 爪が地面を抉った。

 身体が軽い。信じられないくらい高く跳べる。私はドラゴンの爪や尻尾による攻撃をひらりと華麗に避ける。防御力もかなり上がっているように思うけれど、流石に爪や尻尾を受け止めて試して見る気にはならない。それにこの格好、ギャザーの寄せられたひらひらの短めのスカートに腰の後ろ部分で結えられた巨大なリボン、胸当てや脛当てがあるといってもほぼアイドルの時の姿と変わらないのだ。どう考えても戦う格好じゃない。


 世の中の魔法少女の皆様、おかしいと思います。


 ドラゴンはひらりひらりと避ける私に苛ついたようで、振り払うように羽で風を起こす。その羽は爛れ腐っており、空に舞い上がることが出来ないようだ。羽だけではない。全身が腐食し、瘴気を放っている。ドラゴンは皮膚が爛れ変色し、黒く見えていたようだ。

 ドラゴンの起こす突風は辺りの瓦礫を巻き上げ私に襲いかかった。咄嗟に私は腕を顔の前でクロスさせ耐える。多少の衝撃があり、強風が髪を揺らし、スカートが捲れ上がるもののそれだけだ。あ、スカートの下には見えても問題ないものをちゃんと履いていますからね。念のため。


 あれ? この衣装? 見た目アレだけど結構凄くない?


 見た目よりも防御力が大事だよね。と思ってたけど……いやいや、やっぱり見掛けも大事。なんちゃらサーガとかいう異国の小説の挿絵に登場するほぼ裸なムキムキの女性みたいなのは却下。この衣装は、ひらひら~だけど可愛いから許す。でも人目には晒したくない。恥ずかしい。

 え? この間のアイドルのお披露目会で既に見られているって?

 アレはアレ、コレはコレである。乙女心は複雑なのだ。


 ガコッ、ガラッ……、ガタ……


 瓦礫がガタガタと音を立て、黒髪の頭のようなものが動いている。多分、会長達が埋まっているのだろう。できれば、彼らが参戦する前に片を付けたい。

 一つは怪我をした彼らを戦わせたくないから。

 もう一つは、もちろんこの姿を見られたくないからに決まっている!


「さあ時間を掛けずに、サッサと片付けるよ」


 誰に言うとも無く言う。変身したら何だか気が大きくなったようだ。もしかして何か変な脳内物質が出てるかもしれない。

 私は行商人から購入した剣を構え、思いっきり跳び上がると、上からドラゴンに切り付けた。キラリと刃と柄の部分の石が光る。


 ザシュッ!


 刃はサックリとドラゴンの身体を切り裂いた。


『ギャアアアアーーーッ』


 ドラゴンが悲鳴にも似た声を上げ、黒い血しぶきを上げて地面をのたうち回る。


「ふふ~ふ~ん♪」


 気が付けば私は歌っていたようだ。歌いながら戦うなんて、殺戮快楽者っぽくて、傍目には危ない人ではなかろうか。益々人様には見せられない姿だ。

 でも歌うと何故か鼓舞されるんだよね。戦闘シーンに音楽が流れている感じ?

 自前の背景音楽(BGM)ならぬ脳内音楽に合わせ、というか口に出して歌っていたけれど、兎に角その歌に合わせ私は大きく跳び上がり、のたうつドラゴンの背中に降り立つと思いっきり剣を突き立てた。剣に填められた石が輝き刃が光を纏う。


『グフゥ』


 ドーーーンンン……


 ドラゴンがその巨体を横にして静かになった。

 ドラゴンに突き刺した剣先から光が溢れ、ドラゴンの骸を覆い、黒く見えていた皮膚を銀色に変化させる。光はなおも広がり、辺りを漂う黒い靄を晴らし、瓦礫から這い出した会長達を包み込む。そして歌い終わり、徐々に光は薄れ……辺りには再び黒い靄が漂いだした。

 私の姿もいつの間にかみすぼらしい上っ張り姿に戻っている。

 あ、なんかこういう童話があったよね。ほら、硝子の靴を落としていったお姫様の……

 自分をお姫様に例えるなんて、ちょっと烏滸がましかったかな?

 魔法の解けたお姫様ならぬ平民の私は、ドラゴンの骸から剣を抜き鞘に収めると、慌ててそこから降り会長達の下に向かった。きっと彼らは怪我をしている筈で、助けが必要だろう。


「せんぱー……い?」


 瓦礫から這い出した日向会長は不思議そうに両の掌を眺め、竜胆は自分の脚を確かめるように飛び跳ねている。月来先輩が前髪を掻き上げたが、血の跡どころか傷跡も無かった。


「ちょっと、あなた達大丈夫? 怪我は無いの?」

「これは一体……まさか先輩達があのドラゴンを倒したの……か?」


 そこに野茨先輩と高砂先輩が合流し、ドラゴンの亡骸に目を丸くする。何と、奇跡的に皆大きな怪我がないようだ。

 日向会長達は顔を見合わせ、徐に口を開いた。


「んん……ああ、天使が現れて倒してくれたんだよ」

「……ん……まあ、そう言うことにしておこう」

「……天使? あれ天使か?」


 彼らの視線がチラチラと私に向けられるような……私が倒したってこと、バレてない筈だよね? こういう時、普通正義の味方の正体はバレないものじゃない? 私は正義の味方じゃ無いけどさ。


「は? あなた達、何を仰っているのかしら」


 野茨先輩までが訝しげに私へ視線を向けてくる。


「え? 一体どういう事です?」


 状況を理解できていない様子の高砂先輩も皆の視線を辿り私の方を見る。皆の疑いに満ちた瞳が痛い。

 えー、私は一介の魔法学院の入学生に過ぎませんよ。


「……」


 うわあ、歌いながら剣を振り回していたなんて知られなくない。………………でもこの視線はバレている? いやしらばっくれよう。


「あ、ほら封印!悪しきモノを封印して報酬を貰わないと!」

「ああ、そうだ、報酬! 精霊の財宝っ! 我が家の財政改革!」


 日向会長、欲が溢れ出していますよ。でも私から注意が逸れたのでその欲望に感謝です。


「あら? あのドラゴンが“悪しきモノ”ではなくって?」

「どうやら違うみたいだな」


 半分忘れ掛かっていたけれど、石棺はずーっと黒い光を吹き出し続けていて、日向会長はそちらに足を向けた。


「ちょっと、葵! お待ちなさい」


 私達も慌てて後を追う。

 石棺の側には既に人影があった。今まで姿が見えなかった杏子と紫苑先輩だ。


「鬼頭、お前ちゃっかりしているな。こんなところにいたのかよ」

「私はあんずの騎士(ナイト)ですからね」


 紫苑先輩は胸を張り、全く悪びれたところはない。彼にとってあくまで杏子が第一なのだ。ふぅ……。


 ズリズリ……


「ん?」


 紫苑先輩と日向会長の会話に気を取られていると、石を摺り合わせるような音が聞こえてくる。何の気なしにそちらに目を向けると杏子が石棺の蓋を必死に動かしていた。

 え!?


「うんしょ」


 石棺の蓋が大きくずれた。


『ギョホホホホホホホーーーーー』


 その隙間から黒い塊が勢いよく飛び出し、奇妙な叫び声を上げて空の果てへと消えていった。


「「「…………」」」


 今まで辺りを覆っていた黒い靄が一瞬にして晴れ、嘘の様に青空が広がる。


「えーっ、宝物はぁ? なぁんにも無―い! つまんなーい」 


 杏子が隙間から石棺を覗き込み言った。





「「「えええええええええ!!!」」」



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