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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第3章 たまに冒険者

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318 豪華五段重!

 ザーッ。


 突然の風切り音と共に嘴の先が頭上を掠めた。


「わっ」

「きゃーっ」

「身体を低くしろ!」


 咄嗟に草叢に跳び込み、頭を抱えうつ伏せになる。その瞬間、身体の上を風圧が通り過ぎた。目線の先で鳥型の魔獣が地面すれすれで急上昇し、上空では同種の魔獣が数匹ギャアギャアと耳障りな声を上げて旋回している。


「一、二……全部で五羽か? チッ、空からの攻撃は分が悪いな。魔法でアイツを引き下ろすしかないか」

「魔法で攻撃するにもこの高さじゃ遠すぎるわ。降りてきたところを狙うしかないわね」

「そうか、それなら……」


 日向会長の視線がこちらを向き、私を通り過ぎて杏子の所で止まった。


「佐倉さん、光魔法で目潰しを頼めるか?」

「うん、まかせて!」


 杏子が嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。いや、危ないって、魔獣に見つかる。


「佐倉さん、俺が合図したら魔法を頼む。俺と野茨は―――」

「分かっているわ。魔法で攻撃したらいいのでしょ」


 野茨先輩が日向会長に皆まで言わせず反応する。本当に二人は仲が良い。


「皆は墜ちてきたところを剣でとどめを刺してくれ。それから、竜胆。お前には重要な役目を与える」

「え、俺? 了解。……やっぱ会長は俺に信頼を置いているんだなあ」


 日向会長のご指名に竜胆がちょっと嬉しそうな表情を見せる。


「お前はアイツらを引き寄せてくれ」

「うわあ、俺は餌かよ」

「さあ、頼んだぞ」

「うー」


 竜胆は身体を低くして草叢を進み、少し離れた位置で顔をひょこっと出した。竜胆に気付いた鳥型魔獣達が一斉に急降下する。


「ひゃあーっ!」


 竜胆が駆け出し、蛇行しながらこちらに向かってくる。


「佐倉さん、今だ! 皆は光を見ないように気を付けろ!」

「おまかせ! ぴかーっと光れ!」


 杏子の髪が淡い桃色の光に包まれると閃光が炸裂する。私はギュッと目をつぶり五を数えたところで、指の隙間から恐る恐る覗き見る。視力を失った魔獣が暴れ、中には地面に身体を叩き付けているものもいる。


「渦巻け水流、ウォータートルネード!」

「降り注げ! サンダースピア!」


 野茨先輩の髪が淡い蒼に、会長の髪色が薄らと金色に輝く。渦を巻いた水流が魔獣を包み、その上に雷の槍が降り注いだ。


『『『ギャアアアアアア!』』』


 ドーーンッ! ドーーンッ! ドーーンッ!


 魔獣達の断末魔が辺りに響き渡り、魔獣が目の前に降ってくる。


「やったの?」

「油断するな。まだ息があるヤツがいるぞ」


 月来先輩、紫苑先輩、高砂先輩が剣を抜き飛び出すと、次々ととどめを刺していった。そして、残ったのは鳥型魔獣の屍が五つ。


「やったね♪」


 まだ淡いピンク色が僅かに残る杏子がはしゃいで、紫苑先輩とハイタッチ。

 私は剣を握ったまま立ち尽くしていた。

 えーっと、私だけ何の役にも立たなかったんですけど……。

 これは結構ショックだ。あの杏子ですら貢献したというのに。私は単なるお荷物だった。

 でも言い訳させて貰いたい。

 だって、私の剣術は素人に毛が生えた程度で戦闘魔法は使えない。こんな状態で前に飛び出すってかなり怖いんだよ。魔獣の爪で引っ掻かれたり、嘴で食いちぎられたら、死んじゃうんだよ!

 それでも勇気を振り絞って飛び出したときには全てが終わっていた。全部先輩達が強すぎるのが悪い……まあ、私が役立たずなのは事実なんだけど。


「はぁ」


 魔獣を倒し盛り上がる中、私一人だけが落ち込んでいる。


 ぎゅるるるるるる~


 そこに響き渡る何となく聞き馴染みのあるような音……

 いや、違うよ! 私のお腹の虫じゃないからね!


「あー、もう限界だ。腹減った。この鳥食おうぜ」


 日向会長が今倒したばかりの鳥型魔獣の脚を持ち頭部を下にして掲げる。巨大に見えていた魔獣も羽を閉じると思っていたよりも小さい。日向会長は近くの木に絡みついていた蔦を切り、両脚を纏めると手頃な枝に逆さ吊りにした。


「野茨、お湯の準備を頼むな」

「もう、仕方がないわね」


 日向会長が血抜きしようと魔獣の首の部分を剣で切り―――


「ひっ!」


 さっきまではしゃいでいた杏子が真っ青な顔をして後退った。

 あ、これは嘘偽りない(マジな)反応だわ。


「ちょっと待ってください。そんなものを食べるのは危険です」


 紫苑先輩が杏子を庇うように腕に抱き、慌てて声を上げる。

 ……。

 確かに鳥の魔物は何かに汚染されたように斑に黒く変色しており、これが何かの感染症であれば大変である。


「ご安心ください。食事は当方で用意させていただきます」


 紫苑先輩は背嚢から巨大ながま口を取り出すと、パチンと口を開く。そこからどう考えても収納不可能な大きさの唐草模様の風呂敷包みが現れる。多分あのがま口は、噂に聞く亜空間収納袋(マジックバッグ)なのだろう。

 一体どういう仕組みなんだろう?

 いや、私だって一応亜空間収納の能力はあるが、何故かできるだけで仕組みはさっぱりわからない。研究職がそういった仕組みを解析し、魔道具として再現したものの一つが亜空間収納袋(マジックバッグ)である。


「マジックバッグか凄いな。さすが鬼頭商会の御曹司」

「個人の持ち物じゃありませんよ。鬼頭商会(うち)から借りてきました」

「持ち出せるところが凄いよ」


 風呂敷包みをはらりと解くと、中身は五段重ねのお重だった。一の重には果物やお菓子、二の重、三の重には唐揚げや卵焼きなどのお惣菜、与の重には海苔巻きといなり寿司、五の重にはおむすびがギッチリと並べられている。


「「「いただきまーす」」」

「会長、唐揚げばかり食べないでください! あ、それ俺のですって!」


 日向会長はかなり空腹だったのだろう。おむすびを片手に唐揚げをガツガツ食べている。まあ、イカ焼きも食べていなかったものね。でも……、王子様キャラ何処行った?


「やだぁ、焼き鳥が入ってる。ブツブツきらーい」


 杏子は先程の血抜きの場面を思い出したのだろうか?


「厚焼き卵やローストビーフがあるからそちらを食べたら良い」


 紫苑先輩が小皿に取り分け杏子に渡す。

 ……。


「ほら、お前も食え」


 月来先輩が色々と小皿に取り分けて私に渡してくれる。何だかお母さんみたいだ。


「何だ?」

「いえ、ありがとうございます。いただきます」


 私達も有り難くいただくことにする。割り箸をバキンと割って、お稲荷さんを摘まむ。甘塩っぱく煮た油揚と酢飯が融和して口に広がる。おいしい。ああ、涙が出てきそう。緊張感で気付かなかったけれど、相当お腹が空いていたのだと思う。

 食後はお茶で一服―――とはならなかった。


『グルルルルルルゥ……』


 いつの間にか狼の魔獣の群れに取り囲まれていたのだ。狼たちは黒い瘴気に蝕まれているように見える。


「魔獣の血の匂いに引き寄せられたのか……」


 鳥の死骸からはかなり離れたつもりだったが、身体に血の匂いが残っていたのかもしれない。これは油断が招いた危機だ。ダンジョンの中だというのに、私達はついいつものように振る舞ってしまった。


『グルルルルルルゥ……』

「鳥五羽の餌じゃ足りないってか」


 二十頭ぐらいだろうか? かなり数が多い。流石に私も怖いなんて隅で震えている訳にはいかない。私だって剣術の講義は受けているんだから。と言っても剣の達人でも攻撃魔法が使える訳でもない私がまともに戦えるわけがない。ではどうするか。

 考えろ、頭を使え!


『ガウッ!!!』


 狼たちが一斉に襲い掛かる。

 私は幻影の狼を生み出し狼の魔獣の間を走らせる。幻影を囮にして、気を取られた狼の首下を目がけ切り付ける。が、一太刀では倒しきれない。手負いの魔獣が牙を剥き、私に跳び掛か―――

 スポッと狼の姿が消えた。

 私は咄嗟に空間を歪め、亜空間の裂け目を作ったのだ。魔獣は自らどこに通じているのか知らない亜空間に飛び込んでいった。

 私、結構やるじゃん。

 この能力、全く役立たないかと思ったら、結構使える。この調子で数匹、亜空間に誘い込んでいくが、敵も然る者、警戒して不用意に跳び掛かってこなくなった。


「数が多い、この場から離れるぞ」


 日向会長の指示で、私達は黒い柱へ向かって駆け出していく。偶に跳び掛かってくる魔獣は亜空間にポイだ。

 狼の魔獣の姿が無くなった頃、私達は何かの遺跡とみられる場所に到達した。

 天井が崩れ落ちた建物の奥に石棺と思しきものがあり、その少しずれた蓋から漏れるように一条の黒い光が天に向かい放たれている。


『ガアアアーーーッ』


 咆哮が辺りを圧倒する。そこに現れたのは身体の所々黒く爛れたドラゴンだった。



 ちょっと! こんなの出るって聞いてない!



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