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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第3章 たまに冒険者

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311 獣人のお話

 昔々、ある国に弓の大層得意な王様がいました。王様は弓の腕前を自慢したくて、何かにつけては狩りを行い、沢山の動物を殺していました。


「城の壁が殺風景だ。見栄えのする獲物を剥製にして飾ろうじゃないか」

「冬の寒さ対策に寝室に熊の毛皮を敷き詰めよう」

「南の森の火食鳥なる獣が大層美味いと聞いた」

「獣を的に新しい弓矢の性能を試そうじゃないか」


 そんな王様に顔を顰める国民もいましたが、ほとんどの家臣達はそんな王様を諫めることはありませんでした。


「なに、下等な獣などいくら殺したところで、大した問題ではないであろう」


 そんなある日、旅の僧侶がこの国を訪れて、王様に一つ忠告しました。


「陛下、青白く輝く牡鹿は神の化身にございます。決して殺めることのなきようお願い申し上げます」

「ああ、分かった。分かった。肝に銘じておこう」


 王様はその場ではそう言葉を返しました。

 それから数日後、いつものように狩りに出かけた王様は、青白く輝く見事な牡鹿を見つけました。


『決して殺めてはなりませんよ』


 僧侶の言葉が頭を掠めたものの、今までに見たことのない獲物を仕留めたくて、王様はその言葉を頭から追い払いました。


「あのような見事な獲物を逃す手はあるものか! 神の化身など世迷い言も良いところだ!」


 ヒュン。


 王様の放った矢は風を切り、見事に牡鹿に命中しました。


 ギヤアアーーーオ!


 牡鹿は断末魔を上げます。

 王様は牡鹿の首を落とし、家臣達に掲げてみせました。牡鹿の首からポタポタと血が滴ります。


「ほらみろ! 神の化身など単なる迷信ではないか! 何を恐れることがあろうか!」


 家臣達からは地鳴りのような歓声が挙がりました。

 大地に横たわった牡鹿の首から血がドクドクと溢れ出し、地面に黒い染みを作ります。それはドンドン広がって、森を、城を、町を、国を黒く染め上げていきました。


『神を恐れぬ愚かな人の子らよ―――』


 どこからともなく声が聞こえたと思うと、空から黒い血がボタボタと降ってきました。


『今まで無為に殺されてきた動物たちの怨嗟を知るがよい。お前達は罪人として、お前達が日頃蔑んでいる獣になるのだ』


 黒い雨が止んだ時、そこには王様と家臣達が獣の姿となって佇んでいました。彼らだけではありません。神の怒りを買い、その国の住民はすべて獣になってしまったのです。怒り、戸惑い、悔恨、悲しみに満ちた獣の咆哮が辺りに響き渡ります。

 こうして、神殺しの罪人として獣人は誕生したのです。



      ***



「―――こうして、神殺しの罪人として獣人は誕生したのです」


 私の口から語られる物語は終わりを迎えた。これがこの国で一般的に伝わっている獣人の物語だ。子供向けの絵本でこの物語を読んだ時は、気にしていなかったけれど、よく考えたら巻き込まれた国民が良い迷惑だよね。連帯責任って、あまりにも酷すぎない?


「そうじゃのう。世の中にはそう伝わっておるのう…………ま、全部ウソじゃがな」


 お爺さんは一刀両断した。


「いや、そんな身も蓋もない……」


 そりゃあ、この手の話は大抵創作したおとぎ話にすぎないけど、そもそもおとぎ話に実話なんてあるの?


「その物語はの、獣人を虐げる大義名分として作られた物語じゃ。獣人は神殺しの罪人だから酷い扱いをされても仕方がないのだと、な。人間であったものが獣人となったなどちゃんちゃらおかしい。そもそも獣人は最初から獣人として誕生しておる。人間と獣人では狐と狸ほど異なるのじゃ! 人間も獣人も同じ人である。人が人を虐げるなど以ての外じゃ」


 お怒りはごもっともなんだけど、その例えはどうなの? 分かりづらい。同じイヌ科だし……いや、似て非なるものとしては正しい例え? ん? 待って、違って見えるけど同じってこと?

 ?????

 うー、何か混乱してきた。

 いやいやいや、そんなことよりも……


「この物語って、差別を正当化するために作られたものだったんですか? てっきり王様が無能だと国民に害が及ぶという訓話なのかと思ってました」


 私は率直な感想を口にした。何だかお爺さんが何だか生暖かい目でこちらを見ているような気がする。平和ボケした脳でごめんなさい。


「為政者はの、往々にして民から向けられた不満を、他者に向けさせようとするものじゃ。その矛先として、人間とは少し見かけが異なり、数の少ない獣人は、都合の良い存在だったのじゃよ。獣人は体の良い生け贄の山羊(スケープゴート)にされたという訳じゃ」


 お爺さんがぽふっと煙を吐くと、精霊が群がって煙を散らす。


「獣人を差別するなんて、当然あってはならないことだと思います」


 脳裏にエピさんの姿が浮かぶ。あんなもふもふのエピさんを差別するなんてありえない!


「でも……それがお爺さんと何の関係が?」


 そもそもは、お爺さんとペンダントの石との関係についての話だった筈。


「まあ、そう急くでない。本題はこれからじゃ。お前さんは、獣人に似て異なる存在を知っておるかの? 特別な名を持たぬ者達じゃが、仮に半獣人とでも呼ぼうか……これはその半獣人達の物語じゃ。そして、これは、おとぎ話などではなく、真実なのじゃよ」


 ぽふっ、ぽふっ、ぽふっとドーナツ型の煙が浮かぶ。


『ワーイ!』


 精霊達が煙を蹴散らす姿に目を細めながら、お爺さんは話し始めた。


「これは昔のことじゃ……」


 辺りでは変わらず波と百鬼夜行が続いており、巨大な精霊達の列に見知った顔が混じる。エピさん、菊子、日向会長、月来先輩、杏子、紫苑先輩、野茨先輩……あれは師匠だろうか?

 ああ、いけない。お爺さんの話に集中しなくては……


「ほれ、何と言ったかの、大陸の……何とかという国の王がの、これが無類の女好きでの……民の間では、妻と娘は王から隠せと言われていた程じゃ」


 いきなりアレな王様が登場しました。

 頭の中に描いた王様は王冠を被り、マントに身を包んだ日向会長の姿をしていて、『何で俺?』と抗議の声を上げた。その王様に野茨先輩と菊子が左右から枝垂れ掛かり、背後には女装した月来先輩が王様を誘惑……うん、きっと傾国の美女ってこんな感じなんだろう。


『おい! どういうことだ!』

『ちょっと待て!』


 妄想だと言うのに何故か登場人物達からの苦情が届く。


「ある日、旅の大魔道士がその国を訪れ、請われて王城に滞在することになったのじゃが…………、事もあろうに王は大魔術師の妻に手を出して、孕ませてしまったんじゃ」

「ぶっ」


 思いっきり低俗な話に不意打ちを食らい噴き出してしまった……

 お腹の大きな杏子と、大魔法使いの紫苑先輩が登場する。日向先輩サイテー!


『イヤイヤ、俺じゃないから!』


 頭の中で日向先輩の姿をした王様が抗議する。


「王と妻に裏切られた大魔術師は大層怒っての、二人に獣になる呪いを掛けた。『今後生まれてくるお前達の子供は、忌むべき獣の姿をしているだろう。そして呪いは、その血を受け継ぐ末代まで続くであろう』」


 大魔法使いの紫苑先輩が杖を一振りすると、王様の日向先輩は白いライオンに、杏子は薄桃色の猫に大変身。虎になった日向先輩がガウガウ、杏子がニャーニャーと抗議をするけれど、何を言っているかわかりませーん。


「それは奇妙な呪いでの、日の光の下では獣の姿に、月の明かりの下では人の姿に戻ったそうじゃ……それゆえ、王は夜のみ人前に現れたという……」


 変な呪い。普通、昼夜逆のような気がしないでもない。


「やがて大魔道士の妻は産気づき、生まれてきた子は獣の姿をしておった。それ以降、王の子供は獣の姿で生まれてくることになったのじゃ。その呪いは代を重ねる毎に薄まり、獣で生まれる頻度が減っていき、いつしか獣で生まれない者が王位を継承し、獣で生まれた者は王家から放逐されるようになった」


 お爺さんが一息吐く。これで終わりかと思ったけれど、肝心のペンダントの石については謎のままだ。


「そう急くな。気が短いのう…話にはまだ続きがある……」




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