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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第3章 たまに冒険者

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53/99

306 ただいま攻略中(あんずが!)

・2024/5/27 誤字修正

 

 ―――――――――――――――

 キョウコがあらわれた!


  たたかう

  じゅもん

  ぼうぎょ

 ▶︎にげる

  どうぐ


 しかし まわりこまれた!

 にげられない!

 ―――――――――――――――


 一瞬、目の前にゲームのコマンドが現れたような気がした。もちろん、気がしただけである。

 さて、主人公(ヒロイン)とメイン攻略対象(ヒーロー)の邂逅である。更にこの場には、ライバル令嬢もおり、“アンの魔法物語(まじかるすとーりーず)”に(なぞ)らえるならば、否が応でも盛り上がる場面だろう。さあ、杏子の恋の行方はいかに?


「………」


 自分で煽っておきながらナンだけど、正直な話、杏子の恋愛状況なんてあまり興味ない。少し前なら、気になってしょうがなかったのだろうけど、あの人が私に振り向く事なんて、今後一切無いのだと確信した時から、何だか急に冷めてしまった………。

 もちろん、決して彼が嫌いになった訳ではない。単に虚しくなってしまっただけだ。正直言うと、今はまだ杏子の姿も見たくない。まだ胸の傷が少しだけズキズキ痛むから……


「かいちょー、こんなところで出会えるなんて、感激ですぅ」


 でも、そんな私の気持ちなどお構いなく、目の前で杏子の恋物語は進行していく。きっとこれは、“いべんと”というヤツなのだろう。もし、気になるとすれば、日向会長の杏子に対する好感度くらいかな? ゲームでは特にメインヒーローの好感度が上がり易いようだし、私が気付いていないだけで、実はもうメロメロとかだったりするかもしれない……なんか………ちょっと嫌だけど。


「あー俺、あの子苦手なんだよね……」


 ぼそっと呟く声が降ってくる……声の主をチラッと見上げると、端正な顔に嘘くさい笑みを貼り付けていた。


「やあ、佐倉さん。ダンジョンの中で会うなんて奇遇だね」

「うふふふっ、やっぱり、あたしとかいちょーは、運命の赤い糸で結ばれているんですねぇ」


 杏子が胸の前で両手を組み、瞳をうるうると潤ませて必殺ポーズで日向会長を見上げる。


 “キョウコのこうげき!”


 杏子はどうすれば自分がより可愛く見えるか知っているようだ。


「うーん、どうだろうね? 君の赤い糸は、ほら、あそこに居る君の騎士(ナイト)達の誰かと繋がっているんじゃないかな?」


 “アオイは こうげきを かいひした!”


 杏子を追ってゾロゾロと杏子の取り巻き達がやってくる。その中にへ組の眼鏡クンがいて、目が合うとペコっと頭を下げてくれた。彼だけはいつでも私を無視すること無く、挨拶してくれる。

 そして-――、もちろんその取り巻きの一団には、あの人の姿も在る訳で……


「日向会長、野茨部長、どうも。会長達も精霊の泉を見に来たんですか?」

「やあ鬼頭、奇遇だな。いや、僕たちは純粋にダンジョン探索さ。まさか、こんな騒ぎになっているとは思いも寄らなかったよ」


 紫苑先輩の登場に日向会長が、あからさまに安堵の表情を見せた。その横で野茨先輩が困った子ねとでもいうような眼差しを会長に向けている。なんだか、お母さ……いや、余裕な感じ?


「わたくしの場合、別にダンジョン探索が優先ってこともないのですけれどね。それにしても君の方こそ、相変わらず耳聡いわね。こんな所まで取材かしら?」

「いえ、まさか。我々は、あんず(お姫様)のお供ですよ。ここのところ、ちょっと落ち込んでいるようでしたからね。気分転換に話題の精霊の泉にでも……と」


 は? 杏子が落ち込んでいた?

 それは事実と異なる。アイドル養成所でちやほやされなかった杏子は、単にむくれていただけだ。


「もぉ、しーちゃん、邪魔しないでよ。折角、かいちょーとお話してたのにぃ」


 再び杏子が割って入ってきた。淡い桜色に染めた革鎧が可愛い。自分の上っ張りが酷く見窄らしく思えてしまう。


「あのね。この泉には精霊の女王様がいて、何でもお願いを叶えてくれるんですって。滅多に会えないという話だけど、あたしは運命の娘だから、間違いなく現れるはずだって、アー君が言ってたの。それで、女王様が現れたらぁ―――」


 杏子の説明によると、アイドル養成所で思い通りにならなかった杏子は、ずっと不機嫌だったのだが、取り巻きの一人であるアー君がご機嫌を取ろうと、精霊の泉のことを尾鰭羽鰭つけて話したらしい。


『運が良ければ、精霊の女王が現れて、どんな願いでも叶えてくれるんだって。運命の娘であるあんずちゃんなら、精霊の女王もきっと現れるんじゃないかな?』


 アー君とやらの根拠の無い一言でその気になった杏子は、取り巻きを引き連れてダンジョンに入り、紫苑先輩の実家のお膳立ての下、泉の畔の一等地を陣取っていたらしい。なんでも、杏子達がダンジョンに入ったのは昨日だけど、紫苑先輩が実家の使用人たちは、数日前から場所取りしていたらしいよ。ホント、お疲れ様です。


「あんずの我が儘にも困ったものですよ」


 そう口にした紫苑先輩の表情は、言葉に反して何だか嬉しそうだ。


 ツキン。


 ちょっとだけ、心が痛む。でもその痛みは以前ほどじゃない。きっと、あれは恋とかいうものじゃ無くて、たぶん執着だったのだと思う。エピさんには、大見得を切った手前、このことは未だに言い出せずにいるけれど……

 でも、もしも、もしも―――

 彼が手を差し伸べてきたら、私はその手を取らずにいられるだろうか?


「で、泉が輝くという例の現象は見られたのか?」


 日向会長は、杏子の頭越しに紫苑先輩に尋ねた。


「昨夜は満月だったのですが、特に何も起こらず、ですね。まあ、我々はもう一日ここに居る予定です」

「運よく現象が起こったら、記事は頼んだわよ」


 野茨先輩が新聞部長として、新聞部員の紫苑先輩に声を掛ける。


「あれ? ここまで来て部長は見ていかないのですか?」

「残念ながら、わたくし達は別の目的があるのよねー」


 野茨先輩が、何かを訴えるように日向会長へとチラリと視線を送る。ダメですよ。私達のパーティは、お金になる鉱石の採掘が優先です。


「えーっ、かいちょー、一緒に精霊の女王様に会っていかないんですかぁ? 運命の娘の私がいるんだから、女王様も間違いなく現れますよぉ。かいちょーはどんなお願いをします? あたしは、かいちょーに会いたいなっていうお願いが叶っちゃったから、かいちょーがずーーーーっと私のこと好きで居てくれますようにかな? ねえ、かいちょーも一緒にお願いしましょうよ」


 完全に杏子は、精霊の女王に会えるものと思い込んでいる。いやいや、精霊の女王って後で付け足された客寄せのデマでしょ。現れる訳がない……筈なのだけれど、謎の主人公(ヒロイン)パワーで奇跡を起こしそうな気がしないでもない。

 ところで、いつの間に日向会長は杏子を好きなことになっていたのだろうか?

 実は、さっきまでの杏子への対応はカムフラージュで、私の知らない所で既に二人は恋に落ちていたりして……

 チラッと日向会長を窺うと、凄い面倒くさそうな顔をしていた。

 いや、ないなコレ。


「葵……、顔、顔……」


 野茨先輩が日向会長の脇腹を肘で突いて指摘する。


「折角だけど、君達の邪魔しちゃ悪いからね。僕たちは、これからどこかで昼食を取ることにするよ」


 再び嘘くさい笑顔を貼り付け、日向先輩が体良い断りの言葉を口にした。


「それなら、あっちにあたし達のテントがあるから、あそこでどーぞ。テントの中はすっごーい豪華なんですよぉ」


 しかし、杏子もここで逃すものかと、食い下がる。

 杏子が指差したのは、精霊の泉の畔で一際大きなテントだ。どうやらあそこが杏子達のテントらしい。流石は紫苑先輩のご実家、天下の鬼頭商会。ダンジョンの中だというのに快適な滞在を提供しているようだ。


「さあ、こっちですぅ。一緒にいきましょう」


 杏子の手がスッと伸び、日向会長の手首と()()()()()服の袖を掴む。


「は? おいっ」


 不意をつかれた月来先輩が驚いた顔を見せた。折角、巻き込まれないように気配を消していたのにね。目敏い杏子がこんな美形の存在を見逃す筈なかった。

 無下に振り払うのも悪いと思ったのか、二人とも困惑の表情を浮かべている。


「初めましてぇ、こっちの人もすっごいカッコいいー。うふふ、あたし、困っちゃう」


 月来先輩は誰もが見惚れる凄い美形だ。私が知らないだけで、彼もまた攻略対象なのかも知れない。ほら、隠しキャラって言うヤツ……


 でも、何だか嫌だな……


 私の居場所を取られるようで何だか嫌だ。この世界の主人公(ヒロイン)は杏子なのだから、私のこんな考えの方が間違っているのかも知れないけど……


「ちょっと貴女、少し不躾じゃ無いかしら」


 流石に見兼ねたのだろう、野茨先輩が杏子を(たしな)める。


「何ですかぁ、野茨センパイ。私とかいちょー達の間を引き裂こうというんですかぁ」

「あら、貴女がわたくし達の間に勝手に入って来たのではなくて?」

「センパイ、焼き餅は見苦しいですよぉ?」

「はあ? 焼き餅? 一体、誰が誰にかしら?」


 主人公(ヒロイン)とライバル令嬢の舌戦を前に外野は誰も口を挟めずにいる。


「かいちょー、野茨センパイは放っておいて、テントに行きましょ。そっちのカッコイイ人も一緒にいいですよぉ。あたしが特別に許可しちゃいまーす」

「本当に、貴女ねぇ……」


 その時、精霊の泉が突然銀色の光を放った。


「「「!」」」

「きゃあ、こわーい」


 態とらしく杏子が日向会長に抱きつき、日向会長が蹌踉ける。続いて野茨先輩が蹌踉け、私にぶつかり、私は数歩背後へ、それから私の足は空を踏み―――


「え、こんなのアリ?」


 咄嗟に伸ばされた月来先輩の指先が空を切る。


 バシ-ャン!


 そして、目の前が銀色に輝き―――




 何故こうなる?





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