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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第3章 たまに冒険者

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303 ダンジョンに行こう 1

・2024/6/3 誤字修正

 洞窟の大広間。

 この場を形容するとしたら、そんな感じだろうか。

 ゴツゴツとした岩に囲まれた巨大な空間で、天井のどこかに切れ目があるのか、幾筋もの光が差し込んでいる。ほら、あれだ。雲間から光が差し込む“天使の梯子”、あれに似ている。

 ここはダンジョンの入り口の前である。

 厳密に言うと、ここもダンジョンの中になるらしい。主にダンジョンに入る前の待ち合わせや、ミーティングに使用されている。

 私は岩に腰掛け、四、五人ずつ疎らに集まっている人達を眺めていた。


「なんか、想像してたより人が居る……」


 夏休みに入ったので、もっと閑散としているかと思っていたのだが、意外にダンジョン攻略(?)に勤しむ人は多いようだ。ダンジョンは学院専用と言う訳ではないけれど、入場するのは殆どが院生である。


「ああ、長期の休暇に突入して直ぐは、帰省費用を稼ぐためにダンジョンに入る院生が多いんだよ」


 隣で日向会長が解説してくれる。

 実は今回、一緒にダンジョンに行こうと日向会長から声を掛けてくれたのだ。どうやら、以前私が「ダンジョンに入りたくても、必要人数が集まらず入れない」と愚痴ったことをエピさんが覚えていてくれたらしく、日向会長に同行を頼んでくれていたらしい。


 じーん。


 エピさん、優しい……。

 で、私達は今、ダンジョンに入るために最低限必要な三人目の人物を待っているところだった。日向会長は同行するメンバーについて何も言わないけれど、もしかして、三人目はエピさんではないかと睨んでいる。つまり、エピさんと、日向先輩と私のパーティってわけだ。何だかわくわくしてくる。


 エピさん遅いなー。早く来ないかなー。


 視界には、これからダンジョンに入ろうと集まってきた人達、ダンジョンに入っていく人達の姿がある。その殆どが男子で、やはり女子は圧倒的に少ない。その少ない女子達が皆、チラチラと目線をこちらに向けてくる。


 えーっと、これは……


 もしかして、私があの王都劇場のステージに立ったアイドルだと気付いた!?

 なーんて、ドキドキしていたのだけれど、はい、自意識過剰でした。

 もちろん、彼女達の視線は、私の隣にいる学院の王子様こと日向会長に向けられており、私なんて道端のお地蔵様か狸の置物も同然の扱いで、全く眼中にないようだった。

 そうしているうち、背嚢を背負った集団がぞろぞろと現れた。お揃いの革鎧を身に着けた魔法剣士科の院生達だ。その中で一際目立つのは、長い髪を後ろ頭で一つに束ねた白百合の君こと高砂小百合先輩の凛とした姿である。

 まさに殺風景なダンジョンに咲く一輪の白百合のごとし。

 ぼんやりとその一団を眺めていると、赤毛の人物が集団から抜け出し、小走りでこちらに向かって来た。


「おい、お前、何でこんなところに……もしかして、ダンジョンに入るのか? 一体誰と……」

「やあ、天城」


 日向会長が片手を上げて軽く挨拶する。


「あ、ああ会長。どうもです。まさか、会長がコイツと?」


 竜胆は漸く日向会長の存在に気付いたようで、慌てて会釈した。全く、コイツはどこに目を付けているんだろうね。こんなに目立つ人に気付かないってあり得ないと思う。


「会長にキャリーして貰うなら大丈夫だとは思うけど、いいか、深い層は危険だから、浅い層だけにしとけよ。勝手な行動はするんじゃないぞ」


 何か、いきなりお小言が始まったんですけど……、私は子供じゃないっつーの。剣士科の院生だからってちょっと偉そうじゃない? そりゃあ、私は間違いなくお荷物ですけどさ……


「それと……、いつ帰省するんだ? その……お袋がお前を連れて、帰ってこいって五月蠅いんだ。だから、剣士科の訓練が終わったら、一緒に帰るから、待ってろ」

「剣士科院生集合!」


 剣士科の教師、というか指揮官の号令が響き、剣士科の院生が集まる。


「いいな、わかったな」


 竜胆も捨て台詞(?)を吐いて、慌てて隊列に戻っていった。

 いやあ、この夏は天城の家に帰る気ないんですけどね。

 別に天城の家が嫌と言うことではないけれど、あそこはあくまで、天城の人達、師匠や竜胆の家であって私の居場所ではない。


「これより、ダンジョン内の訓練を開始する。危険が伴うので、心して掛かるように。では第一班より、順次入場」


 指揮官の指示に従い、剣士科の院生達は隊列を組み、ダンジョンに入っていった。

 それからも、様々なグループが次々とダンジョンに入り、洞窟大広間も閑散としていく。

 こうして待っているのも何だか手持ち無沙汰だ。

 チラッと隣にいる日向会長を見る。傷のあり使い込まれているが、見事な細工のされた金属製の胸当てや小手を纏い、腰には長剣を佩いている。どう低く見積もっても無条件でカッコいい。何故、こんな人が私と一緒にダンジョンに行ってくれるんだろう? 正直、私なんて足手まといでしかないのに……


 もしかして、私に気があるとか?


 私の視線に気付いた日向会長がニコッと微笑む。

 そういえば、会長は私にすごく優しいよね。え、まさかホントに……?


「はーい、おまたせ。結構待たせちゃったかしら?」


 え、何で? 何故ここに野茨先輩が?

 そこに登場したのは白薔薇の君こと、野茨薔子副会長である。相変わらず黒髪の巻き毛がくるんくるんである。毎朝巻いているのだろうか? だとしたら大変である。


「遅いぞ。待ちくたびれた」

「えー、わたくし、とっても忙しいのよ。これでも急いだんだから」

「どうせ、毛先をくるくるにするのに忙しかったんだろ」


 日向会長と野茨先輩が親しげに話し出す。端から見ていると、イチャイチャしているようにしか見えない。そういえば、例のゲームの王子ルートでは、アンズのライバルは紅薔薇の君こと“ソウビ”だったっけ、まさにこの世界(現実)の野茨先輩のことだよね。


「そりゃあ、そうだよね……」


 ホント、誰にでも優しい男は信用ならない。


「あ、えーっと、如月さんだっけ。今日はよろしくね」


 バチンとウィンク。華やかな美女が行うと絵になる。白い革鎧が眩しい。学院で革鎧とかは支給してくれないので、自前で用意する必要がある。私は師匠の所にいた時に山菜や薬草採取で着ていた革製の上っ張りと腕カバー姿である。薔薇の棘を通さないので、庭の手伝いをする時にも重宝していたりする。流石に学院指定の芋ジャージではないけれど……

 どうやら、一緒にダンジョンに入る三人目は野茨先輩で決定らしい。


「さ、サッサとダンジョンに入っちゃいましょ」

「あ、まだ一人来てないから、ちょっと待って」

「あら、まだ全員揃っていなかったの? 時間にルーズなのはダメよね」


 野茨先輩も待ち合わせ時間に遅れてきたけれど、そんなことは瞬時に忘れ去られてしまったようだ。

 兎に角、ダンジョンに入るのはこの三人だけではないらしい。それじゃやっぱり……


「悪い。待たせた」

「エピさん!」


 エピさんのもふもふの身体にバフッと抱きつこうと両腕を広げたまま…………固まった。


「エピ……さん、じゃない」

「遅いぞー、けっこー先越されてるぞ、金目の物を先に取られてしまうだろ」

「仕方が無いだろ」

「本当に相変わらずがめついわね」


 そこに登場したのはもふもふの巨大猫ではなく、夜の人だった。


「…………よお」


 夜の人、確か月来馨先輩が、片手をあげぶっきらぼうに挨拶した。


「あ、えーっと……よろしく……お願いします?」

「それじゃ、全員揃ったし行くか」


 え、もしかして、この四人がパーティメンバー……なの?


「あれ? 明日葉ちゃん、何見ているの?」

日向会長が言った。

私は光の柱を指さす。

「ああ、ダンジョン前名物“天使の梯子“ね。綺麗だよね。それで、天使は見つかったのかい?」

「いえ、結構、埃が舞ってるなと……」

「…………」

 光の柱の中、埃が飛び回っているのが見える。

ダンジョンって結構埃っぽい……と思う。


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