101 魔力判定
「静粛に!」
騒めいていた講堂が水を打ったように静まり返る。正面の一段高い位置から、金糸の刺繍で装飾された白いローブを身に纏った白髭の老人が厳かに告げる。
「―――ここに諸君の王立魔法学院への入学を認めるものとする。勉学、訓練に大いに励み給え」
押し殺した歓声にならない唸りが講堂の空気を大きく震わせた。
その興奮した余韻が残る中、進行役の声が響く。
「引き続き魔力属性の判定を行う。入学生は職員の指示に従い、順次祭壇前へ」
名前を呼ばれた者が一人ずつ祭壇前に向かい、祭壇に設置された水晶に手を翳す。
火の属性は赤い炎、水属性は蒼き水流など、それぞれの魔力属性に応じ、水晶の中に鮮やかな色彩が生じる。
やがて、桃色の髪の少女に順番が回り、少女は唾を飲み込みと、緊張した面持ちで目の前の水晶に手を翳した。その瞬間、水晶から光があふれ出し、辺りを白く包み込む。
おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!
講堂の人々から歓声とも溜息ともとれるような声が漏れる。
「……光属性!」
光の精霊が祝福するように辺りを舞い、光の欠片を降らせた。
***
この国では、魔力を持つ者は十六歳までに王立魔法学院に入学する義務がある。
師匠に言わせると、国が魔法を使える者を囲い込むためだという。その能力を見極めるため、一度は魔法学院に通いなさいということらしい。国の役に立つような能力の高い者は当然、能力の低い者もその能力を悪用されないように把握しておく必要があるのだとか。
魔力持ちは国民の1%未満、その内、有用な魔法が使えるようになるのはほんの僅か。魔力持ちだからといって、必ずしも魔法使いになれると言うわけでは無く、殆どは普通の人と変わりない。魔法学院は魔法使いの養成機関であり、選別機関でもあるのだ。
入学に年齢の下限は設けられていないけれど、幼くして基礎学力のない者は入学が許可されない。『数年後に出直してきなさい』ということだろう。希に幼くして入学する天才児もいるらしいが……、まあ、幼い子供が魔法を使えるようになる可能性は低いため、先々のことを考えると早期入学に殆どメリットは無い。それゆえ、大抵の場合、十五、六歳での入学となる。
在学期間は大抵一年。
一年後の進路は各自に任されているが、大抵の者は学院を去ることになる。
他の学校に進学する者、家業を継ぐ者、就職する者、結婚する者―――
学院に残る道もあるが、いくら希望しても試験に合格しなければ、残ることはできない。僅かな合格者のみが、魔法学院の二学年に進級でき、“院生”と呼ばれる。二学年に進級して初めて魔法学院の正式な学生と認められるのだ。ちなみに一学年は“入学生”と呼ばれ、院生とは区別されている。院生は選ばれし者というわけだ。
さて、そんな一年先のことよりも、今現在の私についてである。
目下私は魔法学院の人学手続き窓口に資料を提出すべく、列に並んでいる。魔法学院に到着した者はまず窓口に書類を提出し、不備が無いかチェックされ、その場で魔法の属性判定を受ける。窓口に置かれた水晶に魔力を流し込み、火の属性であれば炎が燃え上がり、水の属性であれば水流が渦巻くという訳だ。ゲームの主人公である“アンズ”は、珍しい光属性で、膨大な光量であたりを圧倒していた。
「……ん?」
前世の記憶によれば、属性判定って……講堂で厳かな雰囲気の中執り行われるんじゃなかったっけ?
確かアンズは立派な講堂で学生や教員の前で華々しく光属性であることが告げられるのだ。まあ、いくら魔力持ちが少ないとはいえ、学院に入学するのは少なくない人数だし、そんな非効率なことに時間を掛けている場合ではないのだろう。
今のところ魔力判定で騒ぎが起きている様子は無い。アンズがこの場にいないのか、それともこの世界がゲームの世界なんて嘘なのか―――
やっぱり、前世の記憶にあるゲームの世界とこの世界は、全く別の世界なんじゃないかな。そうだよね。この世界が創作物の中の世界なんて、そんな馬鹿なこと起こる筈がないよね。
うん、きっとそうだ!
私があの人に振られるなんておかしいと思った。
もしかして、私に憑いているのは“思い出す精霊”じゃなくて、“嘘を吐く精霊”なのかもしれない。
「てっ!」
精霊にどつかれた気がした。精霊が機嫌を損ねた感じが伝わってくる。
前の人が怪訝な顔で振り向くが、何事も無いですよというふりをして、自分の番を待つ。列の先ではただ淡々と機械的に確認作業が行われ、徐々に私の番が近づいてくる。
何だか既視感。これって精霊の儀式の流れ作業と同じ?
そして私の番が回ってくる。
書類を提出し、その場で受付の人がチェック、続いて魔力属性判定。
ちょっとドキドキする。
前世の記憶によると、転生者っていうものは大抵特殊能力を持っていて、こんな場面では凄い能力を発揮するのだ。もしかして、私も―――
…………。
なんて、まあ、そんな夢物語はおいといて、それよりも―――
もし、私が魔力持ちなんて間違いで、本当は魔力なんて無かったらどうしよう。
私は恐る恐る水晶に手を伸ばした。
何か光ったような気がするが、水晶は赤くも、青くも、緑にも、黄色にも、何色にも輝かなかった。
地味。
まさか、本当に魔力なし!?
「無属性……」
恐る恐る受け付けの人を見ると、ちょっと驚いた顔をして書類に書き込む。
「明日九時からクラス分け試験が行われます。試験会場はこの建物の第五号試験室、席はこちらの番号になります。会場には十分前までに入り、着席してお待ち下さい。寮はあちらに受付がありますので、そちらで聞いてください」
受付の人は事務的にそう言うと、学院の構内図と番号の書かれた小さな紙片を私に手渡した。紙片には試験会場と座席番号が書かれている。
どうやら私は魔力なしではなかったようだ―――
ねえ、ホントにそうだよね? 大丈夫なんだよね?




