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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第2章 もしかしてアイドル!?

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219 魔法は何でもアリ!

 繊細な銀の細工に取り囲まれた宝石が、柔らかい光を放ち、目の前に浮かんでいる。


「ん? あれ?」


 この光っている宝石には、すごく見覚えがある……そう、エピさんから貰ったペンダントヘッドだ。


「何で? 空間収納にちゃんと仕舞っておいた筈なのに……」


 いつの間に空間種収納から飛び出してきたのだろう?

 取り出した覚えなど無い。

 私はペンダントヘッドに指を伸ばす。指が触れるかという瞬間、眩い光が溢れ出し、私を包み込んだ。


 “サア、ジュモン…ヲ、トナ……エテ…”


「え?」


 頭の中に突然『声』が()()()()


「え、呪文……? 呪文って……何?」


 私の頭の中は疑問詞で一杯だ。


 “ドゥーム……フォル…トゥーナ、マジカル…アンジェリカ、ドレス…アップ”


 続いて、何だか馴染みのある言葉が頭に()()()

 あー、これあれだ。前世のゲームでアンズが変身する時に唱えるヤツ。


「え、これ唱えないと、ダメ?」


 これでも私、魔法少女に憧れる年齢はとっくに過ぎ去っていて、口にするのはちょっと抵抗あるんですけど……。

 ちなみにこの世界、魔法を使うときに呪文は必要としない。単純に強く念じると魔法が発動する。魔法はイメージの産物なのだ。

 中には必殺技っぽい名称を口にして、魔法を発動させる者もいるけれど、これは学院入学前に家庭教師に習っている場合が多い。子供がイメージしやすいように、それっぽいカッコイイ名称を口にさせて練習するらしく、それが癖になっているとのこと。

 『サンダーバースト!』とか『炎舞鳳凰剣!』とか叫びつつ、パチンと静電気が起きるとか、ひょよひょろ~の火の玉が出るとか、端から見るとちょっとかっこ悪い。本人や周りは子供の頃から普通に行っているので、何とも思っていないようだが、家庭教師なんてご大層な存在が居た試しのない庶民からすれば、首を傾げてしまう光景だ。

 これがもしかして、かの有名なチュウニ病というものなのかも知れない。

 ちなみに私には師匠はいたけれど、魔法は教えて貰えなかった。呪文とは縁なしである。

 ……あれ? 師匠って一体何の師匠?

 何て思考に陥っていたら、“おもいで精霊”が私の髪をぐいぐいと引っ張る。


 “ドゥーム……フォル…トゥーナ、マジカル…アンジェリカ、ドレス…アップ”


 また例の呪文が頭に現れた。どうやらこれは“おもいで精霊”からのメッセージらしい。


 “……”


 何だか、“おもいで精霊”から無言の圧力を感じる。


「えーっと、そうだよね。こんな状況なのに躊躇している場合じゃ無いよね」


 ステージを無茶苦茶にさせないためだものね……

 ……。


「ホントにこれで大丈夫……なんだよね?」


 “おもいで精霊”がツンツンと私の髪を引っ張り、呪文を唱えるよう急かす。


 えーい、ダメでもともとっ!


 私は意を決して呪文を口にした。


「どぅーむ・ふぉるとぅーな・まじかる・あんじぇりか・どれすあーーーっぷ!」


 うううう、やっぱり恥ずかしい……と言いつつ、ちょっとノリノリだったかも。

 目の前に浮かぶペンダントヘッドの宝石が強烈な光を放ち私を包み込む。

 帯状になった光が私の手や脚、身体に巻き付いて、髪がふわっと広がる。そして、光が弾け―――



     ***



 カチッ、カチッ、カチッ……


 時間がジリジリと過ぎていく。


 カチッ、カチッ、カチッ……


 時計の針が刻々と進む。


 カチッ。


『ご来場の皆様にお知らせいたします。開演時間と―――プツッ』


 ビィィィィィーーーッ。


 会場アナウンスが途切れ、開演のブザーと共に緞帳がするすると上がっていく。


 ザワザワザワ……――――――


 客席の喧騒が消えた。

 暗い舞台の中央に光が現れ、その中に人物のシルエットが浮かぶ。

 観客の息を飲む気配。

 オーケストラの演奏が始まる。それは今まで誰も聞いたことの無い旋律だ。最初は静かに、そして、急激に激しく―――


 パ、パ…パ、パ、パッ……


 その瞬間、劇場の二階席付近の空中に、ホログラムのような半透明の巨大なスクリーンが、連続して現れ、そこにも舞台と同じものが映し出されている。

 前奏が終わり、そして―――


「――――――!」


 劇場に歌声が満ちる。


 さあ、私の出番! 皆! 私の歌を聴けーーーー!!!


 ……なんてね。


 今の私は万能感に満ち溢れている。不思議なことに今なら何でもできる確信がある。

 幻影魔法の発動だ。

 腕を一振り、幻獣を生み出す。硝子のように輝く半透明な不思議な生き物たち。その中の一頭、幻影の一角獣(ユニコーン)の背に乗り、光の軌跡を描き劇場内の宙を駆ける。

 王都劇場のホールは天井が高く、広い。前面に設えられた舞台だけじゃ無く、ホール全体が私のステージだ。

 劇場背後のテレビションの送信機(カメラ)の周りに淡く発光する綿埃…もとい、劇場憑き精霊が集まっている。送信機(カメラ)は彼らに占拠されたようだ。

 下を見ると、オーケストラピットでは、劇場憑き精霊達が楽器を取り囲んでいる。どうやら演奏しているのは、精霊達らしい。その傍で楽団員たちが、自動演奏される楽器を呆然と見詰めたり、飛び交う幻影達をポカンと見上げたりしている。

 客席が部分的に淡く輝いている。それは劇場の中央から後方の通路側客席に点々と見られ、よく見るとその席の客が劇場憑き精霊に拘束されている。多分、あれが予知夢で無体なことをした暴徒達なのだと思う。あのまま精霊達に押し潰されたりしないだろうか? まあ、どうでもいいけど。


「――――――♪」


 私は次々と前世の記憶の中にある曲を歌う。

 魔法少女アニメの主題歌、S Fアニメの挿入歌……、我ながらひどく偏っているように思うけど……。仕方が無い。私の中でアイドルといえば、彼女達なのだから。

 それにしても、演奏している劇場憑き精霊達は、よくこれらの曲を知っていると思う。


 これも魔法の力?


 一曲ごとに魔法で衣装を替える。これも前世の記憶にあって、やってみたかったことだ。

 数曲歌ったところで、劇場憑き精霊がふよふよと飛んできて、耳元で囁く。


『ミンナ、カエッテ……キタ…ヨ』


 何となくホールの外側廊が騒がしいような気がする。どうやら、劇団員達が劇場に戻ってきたようだ。


 さあ、私の役目はここまで―――


 私はユニコーンを駆って舞台に戻る。

 次が最後の曲。曲はもちろん、ご存知……世間的には知られていないけれど、アイドル養成所のデビュー曲だ。


「この曲でお別れです。聴いてください『愛の魔獣狩り(モンスターハント)』……」


 ……いやホント、このタイトル、何とかならなかったの?


 この一ヶ月、いいだけ聴いた前奏イントロが始まる。無数の幻の剣が客席に降り注ぎ、それらが途中で色とりどりの花びらに変化する。観客の悲鳴を飲み込むような声が歓声に変わる。


「――――――♪」


 疑問は色々ある。

 あれは本当に予知夢だったのか。

 なぜ、変身できたのか。

 なぜ、劇場憑き精霊達が前世の世界の曲を知っていたのか。

 なぜ、私の幻影魔法がパワーアップしたのか…………等々……

 でも、今はそんなのどうだっていいじゃない。

 だって、だって……


 魔法は何でもアリ!


 ……なんだから。




 歓声、そして、割れんばかりの拍手―――


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